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  著者  :fim-Delta

 作成日 :2007/08/07

第一完成日:2007/08/07

 

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惑星アダプタから惑星フリアへと向かい初めて一週間後。シリアスは大仰に操縦室へと入り、操縦席に腰掛けた。その様子を見てティタは

「どうしたのシリアス、そんなにムカムカして?」と尋ねた。

「船長、また僕の話を聞かなかったんですよ。一体なんでそんなに食に執着する必要が……」

「まあいいじゃないの、個性的な船長も楽しいじゃない」

その時、メルティッド船長も部屋へと入って来て、シリアス同様動き荒々しく、ドスンと主席に座り込んだ。

「船長もどうしたんです、目を赤々とさせて?」

「シリアスがまた俺の肉を奪い取って食いやがったんだ。全く、俺が最後の楽しみとして取って置いた肉なのに……ぐすん」

「……シリアス? またあなた、船長の分まで食べちゃったの?」

「そりゃそうだよ。肉を食べてる時の船長と来たら、これっぽちも僕の話に耳を貸さないんだもん」

「ふぅん……」

ティタが、じろじろとシリアスの体を眺め回した。

「ぼ、僕の体に何か付いてるの?」

「……いいえ。最近、シリアス太ったなぁ、って」

「――!」

シリアスは慌てて自分の体を、可能な範囲で入念に調べた。確かに普通と比べれば太ってはいるが、前とは然程変わらないように見える。

「そ、そうかなぁ? 前とはあんまり変わってないように思うけど……」

「だって今着ているベスト、かなりきつくなってない? それに、一番下のボタン締まってないじゃない」

「あ! ……本当だ……」

「そうやって船長を戒めるのも良いけど、下手すると自滅するわよ」

「ほーら、シリアスが俺にちょっかい出した罰だなこりゃ」

いつの間にか常態に戻ったメルティッド船長が、シリアスをからかった。

「……どうやら、次は2Lサイズのベストが必要らしいわね」

「2、2L!? あぁ、とうとうサイズに数字が……だからメルティッド船長と一緒に食事をするのは嫌なんだ!」

「じゃあ何で船長と食事をするの?」

「それはメルティッド船長の命令だからですよ! いくら嫌な船長でも、命令は絶対ですから……」

「ほぉ、なかなか良い忠誠心を持っているな、シリアス。気に入った、晩飯も一緒に食事をしようじゃないか」

「嫌です! 取り下げてください!」

「ふぅむ、それじゃあこれをシリアス君に授けよう!」

そう言ってメルティッド船長は、懐から特大サイズの板チョコを取り出し、それをシリアスに差し出した。

シリアスは、自意識では条件反射に抵抗しつつも、手がそれを素直に掴んでしまった。

「う、うう……」

「……ふふ。いくらシリアスと言えども、甘い物には敵わないわね。だけどそれじゃあ、また太るわよ?」

「ま、仕方がないさ。シリアス君は何と言っても、甘い物が大好きだからなー」

「う、うるさい! ちょ、チョコぐらい、食べたって平気さ!」

「あーあ、シリアス。もう完全に蟻地獄に嵌まったわね。こうなっては最後、ダイエットは諦めなさい」

「ふっふっふ。さぁ、俺の仲間になるのだ、シリアス君!」

「船長!」

唐突に、メルティッド船長の横からエイディメイトが割り込んだ。

「談笑中申し訳ないのですが、只今惑星フリアへの下降域に入りました」

「おお、そうか。よし皆の者、着陸体勢へ入り、惑星フリアの宇宙港へ着陸だ!」

『了解!』

船員が答え、皆着陸の準備に入った。シリアスも、得意の真面目さを利用して瞬時に心を入れ替え、<イボルバ>の操縦に当たった。

……だがその手には、確りと板チョコが握られており、着陸までの間シリアスは、それをずっと食べ続けていた。

 

フリア宇宙港へ着陸し、エプロンに降り立ったメルティッド船長御一行。今回はシリアスの他、オペレーターであるティタも同伴した。

彼らは歩いて宇宙港を抜ける直前、他のエプロンに、見慣れた<惑星紋>が描かれた宇宙船を見つけた――惑星アダプタの宇宙船だった。

そしてメルティッド船長達が宇宙港を出て見ると、そこには案の定、既にコンフォームが到着していた。

コンフォームは、何やら錠剤を飲みながら、エントランスで佇んでいた。

「おや、メルティッド船長。遅かったじゃないか」

「コンフォームさん、何かの病気で?」

「ん? 何故だ?」

「その薬」

「あー、これはメバロチンだよ。私はコンスタンシャンだから、惑星アダプタで習慣になっている肉類の食事には馴染めんのだ。

だからこれを服用しないと、すぐに健康を害してしまう、そう秘書のトレイタに教えられてな。確かに、服用してからは気分は良いんだ」

「なるほど……そういえば、何故俺達より早くここへ?」

「それはだな、君達には言い忘れたのだが、惑星フリアの近くに<歪の場>があるのだよ」

「な、何だって!?」

「惑星フリアより、14ly、 -3ly、 30lyの位置で、大きさ3kmだ。小さいが、私達には十分だろう」

「そうだったのか……」

「このことを言わなくて、失礼だったな」

「いや、これからに役立ちますので、ありがとうございます」

「それは良かった。さて、私は先ほどここでの活動を十分して来て腹が減っている。ホテルで食事を取って、そのまま帰還させてもらう」

「分かりました。後は私達にお任せください」

「確り頼むぞ、メルティッド船長」

そう言ってコンフォームは、大きなお腹をゆさゆさと揺らしながら、近くのホテルへと向かって行った。

「……メルティッド船長見たいですね」

シリアスが、コンフォームの動きを見て冗談混じりでそう言い、メルティッド船長に空嘯いた。

だが今回のメルティッド船長は、いつものように戯けず、逆に険阻な面持ちでこう返した。

「何でだ?」

シリアスは実際、このように真剣な返答をする船長を望んでいたのだが、あまりに唐突な声調の変化に、つい戸惑ってしまった。

「えっ? い、いや、それは……その、コンフォームって、船長ほどではないけど、かなり太ってるから……」

「俺は、あいつの前では胡麻を擂るような態度でいるが、それはただの営業スタイルだ。あいつは……」

「……あいつは?」

「あいつは、何故か許せない。太っていることは別に問題ではないが、問題はその腹の中に秘められた、黒い何かだ」

「黒い何か、ですか?」

「あのコンフォームという奴、あいつが膨れているのは、俺のとは違う理由――まるで、私欲のために私腹を肥やしているようだ」

「どうしてそんなことが分かるんですか?」

「……分からん。船長の直感、ってやつかな」

「直感……」

直感、なんという不確定な導出だろう……。だかシリアスは、メルティッド船長の一転した面のせいか、不思議とこれが理解出来た。

暫く沈黙していると、ティタが静かに声をかけた。

「あの、みんな? そろそろ、私達の活動をしたらどうかしら?」

既にコンフォームの姿が見えなくとも、そのあとをシリアスとメルティッド船長は視一視していたが、

ティタの掛け声でようやく我に返った。そしてメルティッド船長は言った。

「……そうだな。そろそろ、俺達も行くとしよう」

そしてメルティッド船長一行は、真っ直ぐ伸びる本道進み、目的の首謀者、レチッドを探し始めた。

その最中、ティタは疑問に思った幾つかの事柄を、胸中で推した。

(黒い何か……確かに、あのコンフォームには何か裏がありそうね……

特に――メバロチンですって? 私にはどう見ても、他の薬にしか見えなかったけど……)

 

レチッドを探し始めてまもなく、道中で、幾多の怪我人が路肩に倒れているのが目に入った。

その数は段々に増え、辺りに人がいながら閑散としているように感じる、何とも奇妙な光景になった。

「船長……どうやら、遅かったようですね……」

そんなシリアスの言葉に、船長は無言を表しただけだった。そんな時、右側の建物の路地から、少女の泣き叫ぶが声が聞こえて来た。

「誰か……お願い、私のお兄ちゃんを助けて!」

その声を辿ると、そこにはコンスタンシャンの少女が、辺りに助けを求めているのが確認出来た。

メルティッド船長一行は、その少女に歩み寄った。

「お譲ちゃん、どうかしたのかい?」

「あ! あの――」

メルティッド船長の巨躯を見て、少女は固まってしまった。まあ無理もないことだ。

仕方なくここは、シリアスが代わりに尋ねることにした

「お嬢さん、お兄ちゃんがどうかしたのかい?」

「あ、あの、私のお兄ちゃんが、怪我をして倒れてるの! 血がいっぱい出てるの!」

血、それもいっぱい。少女から、そんな生々しい言葉を聞いて、シリアスは事態が一刻を争うものだと感じ取った。

「分かった。すぐに僕達を、そのお兄ちゃんのところへ案内してくれないか?」

「うん!」

少女は駆け足で、自分の兄の元へとシリアス達を案内した。但しメルティッド船長だけは、その巨躯ゆえ、

彼女が案内する細い路地に入ることが出来なかった為、仕方なく路肩で待つことにした。

シリアスとティタは、彼女に案内され、とある簡素なプレハブに辿り着いた。

そしてその中に入るや否や、彼らは中の光景に愕然とした。そこには、コンスタンシャンの骸を含めて、大勢の重軽傷者が犇いていた。

その中で生存している内、最も深刻な状態のコンスタンシャンの青年を、少女は示した。

「私のお兄ちゃんなの……」

ティタは意識の無いその青年にすぐに駆け寄り、彼の状態を目した。

「まずいわ、出血多量による失血状態よ。今すぐ手当てしなくちゃ!」

ティタは大急ぎで肩にかけていた鞄を降ろし、そこから人工圧縮血液を取り出し、それを復元した上で、管を青年の体へと繋いだ。

「とりあえずこれで失血状態は解決されるわ。次に抗生物質を注射しないと――シリアス、そこの機械のパッドを彼の心臓と手首に!」

「わ、分かった!」

シリアスはティタに従い、コンスタンシャンの青年の心臓、そして手首に、ティタが示したパッドを付けた。

その間ティタは、抗生物質が入ったバイアルを手に取り、そこにある液を注射器に注入し、それをその青年に注射した。

その次に彼女は、先ほどシリアスに指示した機械の電源を入れた。するとその機械のディスプレイに、あらゆる情報とグラフが現れた。

「……不整脈を起こしてるわね。シリアス、鞄からリドカ――いえ、キシロカインを取って頂戴」

「き、きしろかいん?」

「早く探しなさい!」

普段のティタからは想像も出来ない怒声に、シリアスは慌てて鞄から”キシロカイン”と書かれた容器を探した。

すると一つのバイアルに、”Xylocaine”と書かれているものを発見した。

「こ、これかい、ティタ?」

「ええ、それよ! さあ早く!」

シリアスがバイアルを差し出すと、ティタはそれをサッと取り、新たに手にした注射器に液を注入して、それをすぐに青年に注射した。

暫くして、青年の生命状態を表す機械から、不思議と安心するような「ピッ、ピッ」という規則的な音が流れ出した。

「ふぅ……。とりあえず、危ない感染症も無いようだし、暫く安静にしていれば、もう大丈夫よ」

「お兄ちゃん、助かるの?」

「ええ。後はゆっくりと休ませてあげてね」

「わーい! お姉ちゃん、ありがとう!」

そう言ってコンスタンシャンの少女は、ティタに思い切り抱き付いた。ティタも、その少女のことを優しく抱き締めた。

それからティタは、少女を放して、今度は周りにいる怪我人達を看病し始めた。

やがて何十人という怪我人の治療を終えた彼女は、その後静かに、このプレハブを後にした。

外では、医療知識が皆無で、何も出来ずに蛇足扱いされたシリアスが、顔を俯かせて立っていた。

「……ごめん、ティタ。何も出来なくて……」

「いいのよ。大体医療の専門知識を持つ船員なんて、私だけですもの」

「そうだったの?」

「ええ。シリアスは知らないかも知れないけど、私はこれでも一応、医務室の管理人なのよ。

さ、話はこれまでにして、早くメルティッド船長のところへ戻りましょう。船長が飢えてるかも知れないわ」

「はは、確かに船長なら今頃、持って来た食べ物を全部平らげちゃってるかも知れませんからね」

そう笑いながら、二人はメルティッド船長が待つ本道へと戻った。

だが本道に着いても、そこにはメルティッド船長の姿はなかった。その代わりそこにいたのは、数多くの反抗勢力者達だった……

 

「痛い! もうちょっと優しく連れてってよね!」

ティタの抗議にも、相手は知らんぷりをしたまま力任せに、道具を全て剥奪されたティタとシリアスを巨大な牢屋へと連れ込んだ。

「船長!」

「おぉ、シリアス……」

「せ、船長、どうしたんです? ――もしかして、敵にやられたのですか!?」

「……腹、減った……」

「……」

「おぃ、反逆者!」

牢屋の外で、一人のコンスタンシャンが声を張り上げて叫んだ。その顔には見覚えがあった。

……そう、それは反抗勢力群の首謀者、レチッドだった。

「この情報、何処で手に入れた?」

「惑星アダプタから」

「――! 船長!?」

躊躇いも無く答えたメルティッド船長に、シリアスは度肝を抜かれた。

「ふん、そうだろうと思った。んでお前達は、誰に雇われた?」

「コンフォームだ。惑星アダプタの――」

「言わずとも分かる。なるほど、俺の宿敵に雇われたってことか……。お前達は、俺を捕まえに来たんだろ?」

「違うな。俺はお前を説得しにやって来た」

「説得? 何をどうするってんだい、脂肪の塊――おっと失敬、メルティッド船長?」

「惑星アダプタがここを文明開化することに、お前が同意するようにだ」

「……ぷっ……はぁーはっはっは! そんなことに俺が同意するわけないだろう!?」

「嫌でも同意してもらう。これは俺の仕事だからな」

「ま、せいぜいここで飢え死にな。恐らく真っ先に死ぬのは、そこの船長さんだろうけどな。はっはっは!」

最後の軽賤を言い終えると、レチッドは踵を返して牢を後にした。

その途中、彼は一旦立ち止まり、背を向けたままこう告げた。

「一つ助言しよう。お前達の仕事の契約はやがて無効になる。何故なら、俺達はコンフォームを殺し、惑星アダプタを襲撃するからだ」

そしてレチッドは、通路の奥の扉を抜けて去って行った。その後、数分間の静寂が流れたが、シリアスがそれを断ち切った。

「――船長! どうします、このままでは惑星アダプタが襲われてしまいます!」

「どうもこうも、ここから抜け出さないことにはなぁ……」

「……それに、コンフォームも殺されてしまう……。何とかしてここから脱出しないと!」

「それなら安心して。もうそろそろ外に出られるようになるわ」

唐突にティタが、他の二人にそう告げた。

「どういうことだい、ティタ?」

「実は運良く、隠して置いた旧送受信機が相手に見つからなかったのよ。だから今それを使って、<イボルバ>にメッセージを送ったの」

「おお、ナイスだぞ、ティタ」

「ありがとうございます、船長」

「それじゃあ後は、ここで辛抱強く待つだけですね」

「ええ……」

(……それにしても、あのコンフォームの体、やっぱりおかしいわ……確かに誰でも太ることはあるけれど、あれは異常よ!

本来菜食主義者のコンスタンシャンは、肉類の食物に関しての吸収率は著しく低い。だから、コレステロールなんてのも溜まらない……

つまり、メバロチンなんて不必要……なのに何故? それに、どうして彼はあれをメバロチンだと思い込んでいるのかしら?)

「……どうやら、コンフォームを殺す手立てに加担する、惑星アダプタのスパイがいるようね……」

ティタは独り言ちた。

 

 

 

 

 

          宇宙船<イボルバ>のキセキ 第ニ章   完


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