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 香港国際警察 New Police Story を見て、最後のシーンで思わず涙しかけた自分。あー、涙腺弱ったなあとしみじみ思います。

 それに影響されてか、新たな話が浮かんだので、勢いで書いてみます。

 


「おい、遅かったじゃないか」

「すみません」

 警邏(=けいら)から戻ってすぐ、駐在所の所長——職位で言うなら巡査部長の狐に怒られ、それに謝罪する巡査の犬。ビシッと制服の決まる狐とは打って変わり、お腹が出てるだけじゃなく、横幅も並みの倍はあるその犬は、正に海外映画で見かけるような肥満警察官の典型例で、ベルトにはお腹の肉が乗っかっているし、背中は半分以上が汗で濡れていた。

「どうせあれだろ、まーた寄り道して、ドーナッツでも食って来たんだろ」

 良く映画でありそうな話だが、実はそれは図星で、犬は適当に頷いただけで椅子に座った。ギシシと、それは少し軋んだ。そしてまた、狐が愚痴を零した。

「全く、君は言っても警察官なんだぞ。その体型はどうにかならないのか?」

「……はい」

 ふぅー、っと嘆息(=たんそく)を漏らす狐。だがそれ以上、犬を咎めなかった。それは彼の過去を知っているがゆえだった。

 

 この駐在所周辺は、事件が最も少ない。そのためにあの肥満犬でもどうにか皮一枚で仕事が続けられているのだが、しかしそれが未来永劫続く、ということはない。とは言っても、椿事(=ちんじ)に発展することもない。

 だが今日だけは違った。電話がリリリと鳴り、犬は丁度出前の大盛りカツ丼二杯目を完食していた。彼は薬缶でお茶を飲み下すと、受話器を手に取った。

「はい、クロジ北駐在所です。……はい、分かりました」

 犬は受話器を元に戻した。上司の狐は尋ねた。

「誰だ?」

「クロジ中央警察署からです。先ほど爆発事故が起きて、厳戒態勢を敷いているそうです。ここらも危ないということで、警戒をしろとの事です。それと今、FAXで詳細が届くそうです」

 正にその時、FAXに常備セットされている紙が中に引き込まれ、文字と映像写真が印刷されて数枚吐き出された。巡査部長の狐が、初めにそれを眺め始めた。

「あのー」

 駐在所に訪れた毛並みの悪い男の猫が、朱色のYシャツを羽織ってそろりと顔を覗かせた。手には鞄を持っている。

「はい?」と犬。

「これ、そこに落ちていたんですが」と猫は、鞄を彼のデスクに置いた。

「あーどうも。それじゃちょっと、書類を書いて貰えます?」

 犬は、遺失届の書類を抽斗から出そうとした。だがお腹にぼよんと弾かれ、彼は「おっと」と言って、椅子を少しだけ後ろに引こうとした。

「すみません、ちょっと急用があるので……書かないと駄目ですか?」

「だったら仕方ない。行って大丈夫だ。届け出ありがとう」

 軽く会釈をし、猫はその場を立ち去った。それを見計らったかのように——実際はずっと印刷物に目を通していた——狐が紙を、部下の犬に渡した。

「全く、物騒な世の中だ。今頃こんな爆発事件が起きるとは」

 紙を手にした犬は、内容を一読した。それから下にある写真の方に目を移した。そこには、防犯カメラに写った、毛並みがボサボサの猫が印刷されていた。服は、襟とボタンのあるYシャツで、色は赤のような……

「……部長。この猫」

「なんだ、知ってるのか?」

「いえ、けど今さっき来たのは……」

「私は見てないが——まさか、そうなのか?」

「かなり似ています。それで先ほどの猫は、この鞄を置いていきました」

 狐は、鞄に耳を傾けた。チッ、チッ、と、時計のような音がそこから聞こえた。

「——まずい、逃げろ!」

 一瞬ぽかんとした犬。だが部長の狐に急かされ、彼は慌てて駐在所を飛び出した。先にはその狐が走っており、見る見るその距離が開いた。当然と言えば当然、身長は犬の方が僅かに上だが、体重は数倍かそれ以上。しかもその差を埋めるのは力を持つ筋肉ではなく、ただ重くて“あつい”だけの脂肪。走ればその早さは歴然である。

 やがて十数秒後。駐在所は、木っ端微塵に吹き飛んだ。その爆風で二人は思わずつんのめり、ばたんと倒れた。だがそれが災いからの被害を最小限に抑えた。なぜなら破片などが彼らの頭上を弧をえがいて飛んでおり、立っていたら確実に、それの餌食になっていたからだ。

 

    続


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