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(※初公開から事例を1つ追加したりと更新しました。)

キログラムの国際的な定義が、120年ぶりに見直されるそうな——


 

  —キログラム—

 

 

「——んだってよ」と筋肉質な男シャーカン。

「んじゃあどうなるんだろ。重くなるのかな、軽くなるのかな?」太目の男オルカンは首を傾げた。

「ハハハ、お前らしいな。だが俺も試合の体重制限があるからな、深刻な問題だ」

 するともう一人、細身の女ドルフィニアンが言った。

「基準の分銅がどうなのかが問題ね。洗ったり汚れたりして質量が変化したそうだから、どっちとも言えないわね」

『なるほどぉ〜』

 それから基準が変わったのちの日。そんなことなどすっかり忘れていた多くの人達は、新たな体重計で驚愕するのだった。

 

 

 

 

  —事例1:シャーカンの場合—

 

 

 シャーカンは試合前の体重測定を行なった。制限は100kg。

「うわ、90kgだって? なんだちと食事制限し過ぎたか。んならもうちょいウエイト増やさないと逆にやばいな」

 だがそれは周りの選手達も同様のようだった。特に200kgクラスでは多くの選手達が平均180kgと、20kgも差が開いていたのだ。勿論制限ギリギリまで体重を増やした方が、攻撃に重みが出るので、皆その分のウエイトを試合まで必死に増やした。

 

 

 試合終了後。ここから何週間かは、皆我慢していた分のストレスを一気に発散する。概ねこの選手らは食事を大量に摂取し、これからの苦しい拘束に向けて食べ呆ける。

「んー、やっぱデザートは美味いなぁ。おっと姉ちゃん、追加でパフェをもう一つ」

「あんた、今回は良く食べるのね」

「そうか? いつも通りだと思うが」

「そのいつもより、今回は倍近く食べてるわよ。でも周りもそうだから、きっと普通なのね」

「俺達は皆そうなのさ、その分これから辛くなるんだから。ほら、早く追加を頼む」

 その後、彼の体重は一気に135kgとなった。だがこれは旧式で言うと150kgであることを殆どの者が知る由もなかった。相乗的に食事量と肥満が加速する体は、この15kgの差によって今後の彼を大いに苦しめることになる。彼の人生道を挫折に歩ませるか存続に歩ませるか、その結末はやがて明らかになるだろう……

 

 

 

 

  —事例2:ドルフィニアンの場合—

 

 

 ドルフィニアンは、痩せ気味と言われ少し悩んでいた。彼女らの世界では、むっちり体型の方が痩身よりもてるのだ。勿論細くとも好きという人もいるが、健康面では不安が残ってしまう。そんな彼女は、初めて体重計というものを買い、自身の重さを調べることを生まれて初めてした。

「あらいやだ、63kgしかないの? これって拒食症レベルじゃない」

 しかしながら彼女は忘れていた、これが以前の形式では違うということを。それで量っていれば70kgだが、彼女は目の前の体重計を信じ、少なからず健康ではいられるギリギリの体重、70kgまで増やすことにした。

 その後、彼女は72kgまで体重を増加させた。しかしこれは、古いタイプで言う80kgなのであった。

 

 

 

 

  —事例3:オルカンの場合—

 

 

 オルカンはダイエットを薦められていた。標準の倍強ある210kgという体重を誇っていたからだ。周りからはせめて200kg未満には抑えた方が良いとやんや言われ、彼はそれに勤しんでいた。だが体重が200kgを割る度に、またウエイトを増やすというリバウンドを果てしなく続けていた。

 今回、またダイエットに挑んで、久しぶりにオルカンは体重計に乗った。以前の体重計がダイエット前の重みで壊れたので、今回は最大300kgまで量れるもの(もはや台秤である)で体重を計測した。

「……あれ、189kg? うわぁ、頑張って痩せたなー。でもこれだったら、11kg分余計に食べれるね♪」

 その後、彼が体重計に乗るのは何ヶ月も先となる。何せ今までより10kg多く痩せたのだから、それぐらいの余裕は持って当然だと思っていたからだ。

 

 

 

  —事例の集結—

 

 

 ドルフィニアンは、二人の友達を見て唖然とした。

「あ、あんた達……」

「どうしたの?」とオルカン。別に怯えているわけではないが、自然と汗がつーっと頬を伝い降りる。

「どうしたのじゃないわよ。あんた達、最近体重量ってる?」

「おいおい、俺も入ってるのかよ?」シャーカンは横にいるオルカンを見た。確かにお腹が以前より少し——いや、遙かに出てはいるが。

「だってあんた、試合どうするのよ。体重制限があるでしょ?」

「大丈夫、あともう少し頑張ればギリOKになる」

「そうなの? それにしては、前回よりもお腹が出てる気はするけど」

「本当か? うーむ、まあ確かに俺も、前回よりは体が動かしづらい感じはしていたが。まっ、きっとトレーニング不足だろ」

 するとオルカンが、こうドルフィニアンに言った。

「でも君も、少しふっくらしたよね〜」

「私は仕方ないわよ。だって体重が63kgしかなかったのよ?」

「そうだったの? それは駄目だね、もう少し太らないと」

「あんたに言われたくはないわね」

 そして三人は、可笑しくなって笑い出した。

 

 

 それからシャーカンは、結局最終的には制限をクリアしたが、同僚達がややふっくらしているように見え、自身もそんな感じがした。

 けれどそんな些細な変化を証明する“重さ”は、この世から既に消えていた。今あるのは新しい基準となった普遍的な分銅である。そのためか、翌年には彼らは普段通りの感覚に戻っていた。

 ただ一つ、数年前と違っていたのは、少しだけ大きくなった彼らのお腹ぐらいであった。

 

 

    終


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