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  著者  :fim-Delta

 作成日 :2008/09/06

第一完成日:2008/09/10

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 朝起きると、自分は昨晩の夕食のように、大量の料理が並べられた食堂へとナンムスと一緒に向かい、そこできついながらも限界以上に料理を食べた。もはや定番となった交代の「あーん」タイム。正直これが良かったのかも知れない、目の前の超肥満体のムン・スラこと妻のナンムスは、仕草などもはや同じ地球生物と見做せる程で、そうなると自分のデブ専本能が剥き出しになり、その興奮から食欲が増幅するのだ。それに身近な存在が太った人物だと、何故だかその大きなものに近付こうとする面白い生き物の特性があり、自分はすくすくと自身の体を肥えらせて行った。暇な時は部屋でエムボディアを使い、適当なゲームなどをプレイして遊んだり、ナンムスと会話したりし、それ以外の時は全て食事。正にこのF区は、太らすというルヘンジーに与えられた使命を全うするのに最適な場所だった。そんな場所にいる自分は、日が経つにつれて胃が拡張し、量はまだそれほどでもないが、自然と中間食に手が伸びるようになった。特に昼食から夕食までの間が長く、自分はその間エムボディアの通信装置を使って召使い達におやつを頼むようになった。そうしないと、空腹で苛々(=いらいら)してしまうのだ。

 そんな生活を自分は一ヶ月送った。ナンムスは元々太っているので、確かに以前より大きくなったように見えるがそれほどでもなかった。しかし自分は、日に日に増す食事量と共にお腹がどんどんと大きくなっていた。その他の部分も柔らかく(=たる)み始めたのだが、やはり胃袋の拡大もあってか、腹部だけは特に変化を遂げていた。まるで子供達が服の中にボールを突っ込んで、赤ん坊を産む妊婦の真似をした時の姿にそっくりだ。叩けばポンっという軽快な音が鳴り、勿論脂肪も少しだけ揺れた。これこそ脂肪より胃袋が腹を押し出している何よりの証拠だ。しかし換言するなら、この出た腹分の胃袋があれば何なりと脂肪が付けられる、何せ六人前の料理をぺろりと平らげるんだからな。ナンムスの肥満体も確かに良いが、自分自身が太ることもやはり快感だ。

「あなた、夕食が出来たわよ」

 エムボディアでゲームをしていた自分は、ナンムスの声を聞いてすぐに電源を切った。そして重くなった体をベッドから起こすと、入り口に向かい扉を開けた。

「ナンムス、今日は珍しく遅いな。いつもより二十分遅かったぞ」

「実はねテグロス、今日から料理の量が増えたのよ」

「ふ、増えた?」

 自分は思わず問い返した。確かに今では出される大量の料理を完食出来るようになったが、それはあくまでもナンムスのおかげだ。もしこれ以上量を増やしたら、また自分は満腹を超過した苦しさも一緒に味わうことになる。

「それは、ナンムスが食べたいからそうしたってことか?」

「いえ、違うわ、上からの命令よ。聞いて見たんだけど、どうやら階差数列の期間ごとに料理の量が増えるらしいわ。今回のは一ヶ月間だったから、次に料理が増えるのは二ヵ月後ね。その次はその三ヵ月後、つまり今から五ヵ月後」

 この話を聞き、自分は少し納得することがあった。実は知っての通り、今まで自分達は食堂で料理を食べていたのだが、そこにあるテーブルや椅子はどれも特別に設計されて非常に大きいのに、部屋には未だ大きなスペースが残っていたのだ。(=)えて広くしているのかと思っていたが、どうやら今後どんどんと料理が増え、それを載せるためのテーブルを配置するために態々(=わざわざ)空けていたようだ。即ちそれは、最終的にあの食堂を埋め尽くす程の料理を食べなくてはならないことを意味する。それを悟った自分は、面白そうだと期待感に溢れ、同時に悪寒も走った。幾ら自分がデブ専だと言っても、デブ専達にはそれぞれのボーダーが設けてあり、例えばここF区に来る前に出会ったあの門番、あの生き物は確かに興奮の的だったが、始めて見た時は恐怖のあまり硬直してしまった。もし食堂を全て埋め尽くす程の料理が出て来たとすると、量的にはその門番を丸々一人食べたに等しく、それはつまり一日でその門番の大きさ程に体が膨らむということだ。自分は半無限のデブ専ボーダーを引いているが、それは未知のまた未知の大きさであり、生き物の性として恐怖は(=いな)めなかった。

「……なるほど、な。よし、分かった、それじゃあ食堂に行くか」

「ええそうね。それにしても楽しみだわ、もっと沢山の料理が食べられるなんて」

 彼女は自分とは違い、かなり喜んでいるようだ。まあ目の前にいる妻は自分より横幅が数倍もあり、全体的には何倍――いや、下手をすれば十数倍は太っているし、自分とは感覚が懸け離れているのだろう。……でもいつか、自分も彼女のような感覚を味わって見たいものだ。どれだけ大量の料理が出て来ても喜べる感覚を。

 

 食堂の前に着くと、いつものようにナンムスがその大きなお腹に邪魔されないよう、やや体を前のめりにして扉を開けた。すると中では、テーブルが一台から二台へと増えていた。それらはぴったしと合わされ、その上にはいつもようにびっしりと料理が並べられていた。単純計算で前の倍の量だ。そんな量に自分は驚いていたが、とりあえずナンムスと共にいつもの席――彼女が一番入り口に近い席で、自分はその向かい側――に座った。

「それじゃあテグロス、頂きましょ」

「ああ、そうだな……」

 とりあえず自分は、普段通りに食事を始めた。食欲が急激に増加し、途中からナンムスと代わり番こで食事を取っていたものの、最終的に自分は十人前を平らげていた。しかし今回は、それ以上に食べることになりそうだ。彼女の胃袋がまだ完食出来る範疇であれば良いのだが……

「うっぷ……やはりこれぐらいが限界だな」

 なんとか無理矢理八人前を食べた自分。その腹は、普段でも沖巨頭(=おきごんどう)らしくない丸々と張ったお腹なのに、今は更に膨れ、下手をすれば腹が突っ返そうだった。

「あらそう、じゃあいつも通り代わり番こで行きましょ」

「いや、ちょっと待ってくれ。この量を見れば分かるが、途中から自分が本当に食べられなくなるのは目に見えている。ある程度はまず、ナンムスが食べてくれないかな?」

「うーん……」

「前より少し多めに残るまででいいからさ。ナンムスならこれぐらい、屁でもないだろ?」

「分からないわ、けど頑張って見る」

 頑張って見る、か。だが彼女なら、頑張らないで済むに違いない。

 しかし、(=しばら)くすると自分の読みが甘かったことに気付かされた。幾らナンムスが大きな体をしているとは言え、急に倍になった量を軽々と食べられるわけがなかった。彼女は今では、通常の四倍の大きさもある椅子にぎりぎり座る形になっており、それは大きく膨らんだ彼女のお腹が両足を広げてしまっていたからだ。しかもその腹は、前のめりでもテーブルギリギリにしか手を伸ばせない程前に膨れ、色んな意味で辛そうだった。

「げぷ……も、もう私には無理だわ」

「でも、まだかなりの量が残ってるぞ? これ全部二人で食い切れるか?」

「分からない……でも食べることは必然だし、どうにかしないと」

 そう言ってナンムスは、膨らんで垂れてしまったお腹に齷齪(=あくせく)しながら、なんとか体を前に倒して料理を取ろうとした。だが満腹による動作の鈍りもあってか、手が皿に届かなかった。

「ふぅー、駄目だわ取れない。お願いテグロス、そこにある料理を取って頂戴」

「分かった」

 休憩したおかげで少し胃が楽になった自分は、席から立ってナンムスの横に来た。そういえばいつもは彼女からこっちへ来るのに、今日は始めてその逆になった。自分はナンムスが取ろうとした料理を手に持つと、それを彼女のお腹の上に乗せてあげた。今では完全に、彼女は自身の腹をテーブル代わりにしていた。

 ナンムスは、渡された料理を綺麗に食べると、再び(=おくび)を漏らしてお腹を(=さす)った。

「苦しいわ、もう限界よ」

「じゃあいつものように代わり番こで食べよう。最初は自分が行くから」

「ありがとね、テグロス」

「どうってことないさ。いつもは君が食べてくれてたんだし、今日は自分も頑張るよ」

 そう言って自分は、あと十二人前は残っているだろう料理に手を付け始めた。スプーンもテーブルや椅子と同様に大きいので、一口が相変わらず重く圧し掛かった。しかし今回はナンムスも同じ辛さを味わってることもあり、自分はいつも以上に意気込んだ。彼女も彼女で、やはり根が太っているため、辛いとは言え食事に対する熱意を大いに見せつけていた。

 そしてお互い、初めて休憩しあったりしながら、いつもより一時間以上の時間を掛けて料理を完食した。しかしそれは、初めてここに来た時にかかった食事時間の二時間に匹敵するもので、結果としては振り出しに戻った感じだった。自分はとりあえず結果に満足しながら、沖巨頭にはもはや見えないパンパンに張ったお腹を撫でた。脂肪が付いたとは言え、腕や足はまだ見られる物であったが、はちきれんばかりに膨れたお腹は、もはや映画のエイリアンにでも寄生されたかのようだ。

 ――っと、そんな変なことを考えたら思わず吐き気がしてしまい、自分はすぐに考えを余所(=よそ)にやった。そしてナンムスの体を見て見た。自分とは比べ物にならないほど大きな体が、更に大きくなっていた。今ではこの通常の四倍はある大きな椅子が、彼女にとって拘束具に化していた。お腹の重さに両足が広げられているのだが、椅子の広さの限界があって、今では肘掛のところにお腹が溢れだしている始末だ。しかしそんな体が、いつも以上に自分の欲望を刺激した。食事量が変わるということは、言い換えると別のレベルに上がるということなのかも知れない。彼女の体は前よりランクが一つあがったということだ。

「ふぅ、ふぅ……テグロス、私動けないわ……」

「どうしたんだ行き成り、食べ過ぎて動けないのか?」

「え、えぇ。こんなに食べたの始めてだから分からなかったけど――一回の食事の質量が半端じゃないわ。私の太った体は、動くのが限界なのよ。その状態でこんなに食べたら――げふ……さすがに動けなくなっちゃうわ」

「うーん、それじゃあ暫くはここにいようか。自分も辛いし」

 と言ってる最中に、自分もゲップを出した。

「いいの?」

「ああ。君には悪いけど、その更に膨らんだ体、凄くいい」

「そ、そう? でも……ぷふぅ……本当に気持ち悪くない?」

「君の体か?」

「ええ」

「そりゃそうさ、デブ専を舐めて貰っちゃあ困る」

「……嬉しいわ。こんな体、ムン・スラ達は卑下するんだもの」

「そりゃあ酷いな、全く君の価値を分からないとわ」

「普通は分からないのよ。でもあなたは分かってくれてる」

「そりゃそうさ」

「……今頃言うのもおかしいけど、テグロス?」

「なん――げふっ、っと失礼。なんだい?」

「私と、一生一緒に居てくれる?」

「そりゃそうさ、君は自分の妻じゃないか」

「そうじゃないの。もし私とあなたがこんな強制的な関係じゃなく、本当に、本当に普通の関係でも」

「そりゃそうさ、君みたいに美しく太ったムン・スラをどうして手放すんだ?」

「それじゃあ、私がどんなに太っても、本当の妻としてずっと接してくれる?」

「当たり前じゃないか。今までもそうして来ただろ?」

 その答えに、ナンムスは涙を浮かべ始めた。思いも寄らないことに自分は動揺してしまい、どうしていいかあたふたした。女性は感情的になる時があるが、急にこうなるなんて――でもこれも、地球生物に近い証拠だな。

「……ほら、泣かないで」

「だって、嬉しくって、嬉しくって……あなたのような存在が――」

 と行き成り、彼女は今までにない大きな噯を漏らした。慌てて彼女は口を押さえ、ちょっと口端を上げた。微笑んで入るように見えるが、所謂照れ隠しという奴だ。

「ごめんなさい、私ったら……」

「いいんだよ。その豪快なゲップ、自分はあまり気にしてはなかったけど、なかなか良かったよ」

「本当?」

「ああ本当だよ。そんなに立派なゲップが出るならきっと、君は立派に太れるさ――」

 言い終えるか言い終えないか、連鎖反応で思わず自分もゲップを漏らした。その様子にナンムスは「うふふ」と笑い、微笑を投げ掛けてきた。その顔に自分は、すっかり見惚れて、時間を忘れてじっと見つめていた。


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