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  著者  :fim-Delta

 作成日 :2008/07/28

第一完成日:2008/08/28

 

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 唐突に、部屋の扉がノックされた。ベッドに仰向けで寝ていた自分は、(=おもむろ)に体を起こすと扉へと向かった。

「誰だ?」

 扉を開けると、目の前にはでっぷりとしたムン・スラが立っていた。ここに来た時の執事とは明らかに違っていた。

「あなたが、オキゴンドウ族のテグロスね」

 ボイサーを通して語りかけて来たムン・スラ。声はやや雌っぽく、そんなムン・スラに自分はご自慢のデブ専本能でドキドキしていた。

 ムン・スラの容姿と言えば、全身が(=なめ)らかな曲線をえがいており、特に目の前の太ったムン・スラには曲線美という言葉がぴったしだった。細かな部位については非常に地球生物と似ており、自分のように毛皮などが一切無く、体色は十人十色だが全員淡色で、草食動物のように両目がやや側面にある。一応尻尾もあるのだが、あくまでも祖先の名残なので今では至極(=しごく)短くなっている。

 因みに、目の前にいるムン・スラは薄肉色(=うすにくいろ)(まさかここまで“肉”に関連するとは……)で、他のムン・スラ達に比べるとその丸々とした体が更に誇張されていた。

「初めまして。あなたの妻役としてここに住むことになったムン・スラこと、ナンムスと言います」

「あ、ああ、初めまして。君が自分の妻ってわけか」

「はい。これから宜しくお願いします」

 自分は頷きながら、彼女の豊満な肉体を素早く眺めた。全く、ムン・スラの待遇には驚かされる、こんな立派な妻を(=よこ)してくれるなんて。しかも確かムン・スラは、地球生物と比べて肥満者は格段に少ないと聞いている。それはムン・スラの長い歴史の中で作られた、より完全に近付いた体構造のおかげなんだが――

「あの、何かおかしなところでもありましたか?」

「――あー、いやいや、別にない。ムン・スラでも、こんなに立派な体をしたのがいるとは思わなくて」

「確かに、そうかも知れませんね。けど物好きなのっていますから」

 そう笑いながらナンムスが言うと、自分も思わず笑みを(=こぼ)した。

「テグロス、それじゃあ一緒に食事でもしましょう。夕食の準備が整ったらしいの」

「ああ、分かった」

 自分はナンムスに従って歩き始めた。歩いてる彼女の後姿は、なんとも興奮そそるものだった。何せ太り過ぎた体型が歩く時は、尻尾が左右にふりふりとし、同時にたっぷりと付いた肉がぶよんぶよんと揺れるからだ。こんな光景、もう二度と見られないと思っていたが、まさか犯罪を犯してこうなるとは夢のようだ。

 やがてナンムスが立ち止まり、彼女はのっそりと左を向くと、腹が出ているので少し前かがみになりながら食堂の扉に手を掛けた。扉が開くと、目の前には長テーブルに多々と並べられた料理があり、さすが強制肥育させるF区だけあるなと思わず感心した。

「ねえテグロス、どういう風に座る?」

「そうだなぁ……君は入り口側のど真ん中で、自分はその真向かいに座るよ」

「それだとあなたが一番遠い位置になっちゃうわよ?」

「自分は君と向かい合って座りたいんだ。そして君には、一番近い席に着いて欲しい」

「どうして?」

「知ってるだろ、ルヘンジーである自分がこんな良い待遇を受けるのは、自分がデブ専だからだって」

「ええ。だから私はここに呼ばれたのよ」

「自分はな、君のその見事に太った体が好きなんだ。だからそれを更に太らせようとするのが、デブ専の(=さが)というものだろう?」

 この言葉を聞いて、ナンムスはちょっと頬を赤らめもぞもぞした。きっと君の太った体が好きだと言われて嬉しかったのだろう。しかしそれにしても、エイリアンの中でも地球生物に似ているというムン・スラ、仕草までも似てるとは……これはもう地球生物と見なしても問題ないだろう。

「ふふ……確かそうね」

「それじゃあナンムス、ここに座って」

 自分は彼女に先だって彼女の席へと向かい、給仕人のようにその巨大な椅子を引いた。彼女がその椅子にどっかりとその巨体を下ろすと、震動で体中の脂肪が綺麗に波打って、自分は思わず息を呑んだ。こんな愛くるしい妻がいてくれるなんて、何度も言うようだが正に夢のようだ。

 言葉に言い表せない感極まった喜びが体中を駆け巡ったあと、自分も大き過ぎる椅子に何度か座り直して着席すると、皿はともかくスプーンなどの食器までが大きく、一瞬使い方に戸惑いつつ「それじゃ、戴きます」と言って、大量の料理に手を付け始めた。しかし自分は、やはり最初に手が止まってしまった。あまりの料理の多さに、どう頑張っても三人前を食べるのが精一杯だった。それでも、テーブルの上の料理はまだ一欠片(=かけら)程にしか減っておらず、代わりにナンムスが、バクバクとその巨体に似合った食欲を発揮していた。自分は飯を食うより、そんな彼女の食事風景に見惚れていた。大きく口を開けて次々と料理を飲み下して行く様は、半ば処理用機械のようだった。

「……あなた、食べないの?」

「ああ、自分はもう腹いっぱいだ。これでも限界まで食べたよ」

「幾ら私でも、ここにあるの全部食べるのは無理だわ」

「うーん……まあ時間をかければ、もう少しは食えるだろうけど――それでも無理があるよ」

「じゃあこうしましょ」

「何?」

 (=おもむろ)にナンムスが席を立ち、食事で更に膨れたお腹をゆっさゆっさ揺らしながら彼女は、自分の隣の席に座って来た。そして一皿料理を手に取ると、大きなスプーンでそれを豪快に(=すく)って自分の方に差し出した。

「あーん、っていう風にやる風習がアースリングの夫婦にはあるのよね?」

「はは、確かにあるな。けど自分はもう食えないって言っただろう?」

「でも私が好きなのなら、私からのプレゼントを受け取ってくれてもいいでしょ?」

「プレゼント、ねぇ」

 そう言われると、プレゼントとは行かないまでも少しは食べてみようかなと思った。自分は大きく口を開けて、彼女がスプーンを中に入れるとそれを頬張った。スプーンが大きいため、予想以上にこの一口が腹に圧し掛かった。しかし彼女は、既に次のスプーンを用意していた。

「一口が大き過ぎる、もう勘弁してくれ」

「えー、もっと食べましょうよ。じゃあこれはあたしが食べるから、次はあなたが食べてね。代わり番こよ」

「あ、あぁ……」

 自分は渋々承諾した。そういえば自分はルヘンジーの身、太らされるのが目的故、こういうのも耐えなきゃならないのだ。まあどうせ太りたいというのも自身の夢の一つだし、努力してみるか。

「さっ、次はあなたよ」

 彼女からの大きな一口を、自分はなんとか口に含んで飲み込んだ。彼女からの二口目にして、もはや本当に限界だった。しかし目の前の美しいナンムスの肥満体を見て、心做(=こころな)しかもう少し頑張れそうな気がした。そういや以前、家族間では五十パーセント、仲の親しい友人とでは八十パーセントの確率で肥満が感染すると、某テレビ番組で聞いたことがある。この感覚も、それに(=まつ)わるものなのだろうか。

 兎にも角にも、途中からナンムスが殆どの料理を食べてはくれたが、自分も思った以上の量を平らげることが出来た。テーブル上の料理は全て空になり、食事開始から二時間が経過していた。自分の腹は見事に膨れ、オキゴンドウとしてはずんぐり体型もおかしくはないのだが、たった一度の食事でこれだけ膨れたとなると今後のことが少し心配――若しくは期待――になり始めた。しかしこれは必然的なものだし、特段憂慮する必要性はなかった。

「うぷ……しっかし、こんなに腹が膨れるとはな」

「それなら私だって」

 そう言ってナンムスが、今では綺麗な球型になった真ん丸お腹を摩った。確かに彼女のお腹は、脂肪で垂れていた食事前と比べて風船のように膨らんでいた。そんな体もまた自分の欲求を刺激し、ちゃっかり自分は彼女の上腹部を触って見た。すると鼓動が早くなり、いっそ抱き付いてやりたいという衝動に駆られた。

「どうしたの、息を荒くして?」

「い、いや、その――」

「ふふふ、そんなに私の体が好き?」

「勿論だとも……はぁ、なんという美しい肉体、そしてこの感触」

「そんなに好きなら、いっそ抱き締めてくれても良いのよ?」

「ほ、本当か?」

「だって私達は夫婦なのよ?」

「そういや、そうだったな」

 お言葉に甘えて、自分は目の前のその大きな体にゆっくりと両手を伸ばした。しかしあまりの大きさに、腕を回せないどころか脇腹辺りにしか手先が届かなかった。その事実が分かると、彼女が如何に太っているのかを改めて実感出来、それが自分の性癖を更に(=くすぐ)った。ぶよぶよとした柔らかい腹部に顔をうずめたり、力強くギュッと抱き締めたりし、兎に角彼女とのスキンシップを堪能した。

 暫くして、限界を越えた満腹感と彼女との触れ合いによる恍惚感で、自分はいつの間にか眠りへといざなわれていた。途中、彼女がその大きく突き出たお腹に自分を乗せ抱え、食堂から運び出してくれたことだけがぼんやりと記憶の片隅に残っていた。


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