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残り少ない今年の目標。それは幾つの未完成作品を完結できるか。

思えばハロウィン話も途中だし、とにかく終わらせることを最優先せねば——そうしないと新しい一歩に踏み出せないですからね。

 

 

というわけで今回は一つの話を完結させます。ただぶっちゃけエピローグなんで細かい描写や展開などはえがかず、話を集約させる感じです。

要はエピソード5が事実上の完結となります。


♂ ガーヴァンディ Garvandy

 

♂ ハパッソ Hapasso

 

♀ ドーガン フレイア Flair

 

♂ シャーカン パブレーン Publane

 

 

 


    賞品:世界一周旅行也 エピローグ

 

 

 俺の名はガーヴァンディ。鍛えられたこの肉体は、俺にとって世界一大切な物だ。日々の鍛錬で申し分ないほど増す脂肪。怠けず努力した結果が目に見える、これほど素晴らしい指標は世の中にあるだろうか。

 さぁ、今日も俺の肉体美を世の中に見せつけてやろう……

「おー、5番まだまだ入ってるぞ!」

「まだまだ食べてぇ5番!」

 俺の耳には、俺を呼ぶ声しか聞こえない。フィルターを掛け、自身を鼓舞させることで、肉達も一層カロリーを欲するのだ。気持ちの持ちようも、食トレと同じくして重要な要素なのだ。

 そして俺は世界大会の会場で、全国ネットに留まらない、世界中のメディアにこの大兵肥満の姿を見せつけてやった。もはや俺の筋書き通りの展開。審査結果も、その轍に見事用意されていた。

「……優勝は……5番のガーヴァンディ!」

「ゲフゥゥー!」

 大おくびを上げ、俺は片腕を天に捧げた。

「おめでとう、ガーヴァンディ。見事優勝した君には、大会側から世界一周旅行を贈呈する」

 

 

「やったわね、ガーヴァンディ!」

 花道を歩く横で、ドーガンであり愛妻のフレイアが激励をくれた。俺は満足げに頷き、他の同志達にも軽く手を上げた。

「ねえガーヴァンディ、また早速世界一周旅行に行くのよね?」

「勿論だ。今まで努力してきた褒美として、偶にはのんびりするのも悪くないと思ってな」

 そして俺は、腹を愛でる愛妻と共に、このアツい会場をあとにした。

 

 

 その後、俺は定常通り世界一周旅行に向かうため、巨大なクルーズ客船へと乗り込んだ。

 これで一体何回目かは知らないが、俺はあれこれと今後の姿を思い浮かべながら、自分の泊まる部屋へと足を運んだ。するとそこは大会優勝者ということもあってか、一般の部屋とは入り口から既に違っていた。扉は両開きで、室内はまるで船とは思えないほど余裕のある空間が広がっていた——のは昔の話。今の俺にはやや手狭になっていた。

 その代わりと言ってはなんだが、俺のことを考慮してかあちらこちらに巨大冷蔵庫ないしお菓子棚が、壁にみっちりと埋め込まれていた。これは初体験だった。

「俺も有名になったものだ。フッ、久々に予想を裏切る奴が現れたな」

 そして俺は、満足げに高級なキングサイズベッドに横たわり、事前に用意されていたルームサービスでまずは軽い骨休めを始めた。その間フレイアは、この旅で俺を充足させるべく、室内の配置や船内の見取り図などを確認し、事前準備を行なっていた。

「……にしても、そろそろ早食いは限界だな。満腹にはならないんだが、いかんせんこの腹が邪魔になって突っかかる」

「じゃあ今度からは、大食い大会に出ましょうよ」

「大食い大会か! なるほどそれは悪くない。なら来年からそうすっか。久々に大会で満足行く分食えそうだしな」

「ふふ、そうね」

 そう言って彼女は、既に完食した俺のルームサービスの料理皿に、何キロもある新しい食べ物を載せた。

「よし、フレイア、次の世界旅行も楽しみにしてな。絶対優勝してやっから」

「ありがとう♪」

 彼女の後ろで尻尾が嬉しそうに振られている。あまりに狂おしいほど可愛いく、俺はついつい気分が高揚してしまい、鼻息荒くフレイアが用意した間食を十分足らずで食べ切ってしまった。

 

 

 フレイアの事前準備が終わった所で、俺は彼女と共にトレーニングルームへと向かった。今でもベンチプレスは欠かせないが、脚を意識的に鍛えることはもう必要ない。それは、重たいこの腹によって自然に鍛えられるからだ。つまり食べ歩きをする食トレが、脚の筋トレも兼ねているのだ。

 それから暫くし、時刻は午後四時となった。俺の夕食時である。

「ふぅー、ふぅー!」

 俺はベンチプレスの台から起き上がり、荒い息を整えた。全身から溢れる汗は、運動量を実感させてたまらない。腕には乳酸がたっぷりと溜まり、筋肉が唸るように活気付いている。代わりに胃の中が空っぽとなり、腹が食事を欲して喚いていた。

「今日もご苦労さん。はい、いつもの」

 先にトレーニングを終えていたフレイアが、特性の1ガロンのドリンクを持って来た。俺はそれを呷るように飲み干した。

「じゃ、そろそろレストランに行きましょ」

 俺は頷いて立ち上がると、そこまでの道のりで最後に、無意識の脚の筋トレを行なった。

 そしてレストランに着くと、時刻も早いせいかまだ店内はすいていた。そんな中、席に居座る見慣れた特大のシャーカンがいた。

「パブレーン、相変わらずだな」

「あっ、ガーヴァンディ。やっぱり来たんだね」

「勿論さ」

 俺はフレイアと、パブレーンの向かい側に座った。

「そうそう、実はガーヴァンディに紹介したい人がいるんだ」

「ほう、どんな奴なんだ?」

 俺はウェイターに肉料理全品+フレイアの分を注文しながら聞いた。

「僕と同じでね、物凄い大食いで物凄く太ってるんだ。今じゃ僕よりも大きくなってるんだけど、初めて会った時はガーヴァンディみたいだったよ」

「ん、筋肉質だったってことか?」

「うん。というよりボディービルダーだったらしいよ」

 やや気に掛かる発言。するとパブレーンが、俺達の後ろを指さした。

「来た来た、彼だよ」

 後ろを振り向くと、そこには通路いっぱいに肥えた体を揺らして歩く人物がいた。周りに人がいたら確実に迷惑こうむりそうで、全身から汗が飛び散っていた。そんな彼がふと俺を見るや、

「よぉ〜、ガーヴァンディじゃねーか」

 パブレーン以外の知人にはいない野太い声。だがどことなく聞き覚えのある声。面影はないが、まさか——

「——お、お前……まさか、ハパッソか?」

「そーさ、分からねーか?」

「ブッ、ブハハハハ! すっかり変わっちまったなぁお前!」俺は吹き出し、腹を抱えられる範囲で抱えて笑った。

「お前だって、また一段とでけー腹になってるじゃねーか。お互い様だろ〜?」

「一緒にすんな。俺はちゃんと四肢は鍛え上げてんだ。お前なんかすっかりぶよぶよじゃねぇかよ」

「いやなー、すっかり世界旅行にはまっちまってよ〜。特に飯が旨くて一年中やめらんねーんだ」

「その姿じゃもう、何年もそうしてるって感じだな」

 だぷんだぷんと、筋肉とは完全無縁になった元ライバルであり相棒のハパッソの姿形は、パブレーンなど脂肪量においても目の敵にできるレベルだ。そんな体を椅子に押し込めながら彼は言った。

「はは、おかげさまで二週間に一度は衣服をサイズアップさ」

 世界旅行で様々な人、主に類が友を呼ぶようなデブ達を見て来たが、意外にも俺やハパッソのように元々筋肉質だった者が多数いた。どうやら単に運動してないデブより、運動していた人の方が肥満化が早いようだ。ひとえこの理論が全てに当てはまるわけではないが、現に俺も運動していた分食事量が普通のデブよりも多かったようで——元々筋肉の世界にいた俺には、肥満者の食べる量など(=はな)から知らないのだ——気が付けば初めての世界旅行で、俺はパブレーンを越える食事量になっていたのだ。だからこの元ライバルも、同様なのであろう。

「そういやハパッソ。一昨年俺らが旅行に出るついでに、港でお前を待ってたんだが降りてこなかったよな?」

「あー、あの時は俺、その前の停泊港で降りたからな」

「そうそう、僕の家に居候することになったんだよね」とパブレーン。

「居候?」と俺。

「こんな体になっちまっただろ? お前はまだ郊外だったからいーが、俺ん家は場所が場所だからよー、この体型じゃ戻れなかったのさ」

「ハハハ、確かにそうだな。その姿でボディービル街なんて入れねぇよな。なるほどそうかそうか、だからお前の方が先に乗船してたわけか」

「そーゆーこと。てなわけで、お前と再び楽しく過ごせそーだな。また張り合おーぜ」

「いや止めて置く。この体型に関してはお前に勝てる気がしない」

 俺とハパッソが笑い、すぐにフレイアとパブレーンも笑いに参加した。

 そんな雑談を交えながら、俺達四人は楽しい一日を過ごした。そしてこれからも、この四人で楽しく旅行していくこと必至。俺とハパッソはすっかり世界旅行にのめり込んでいた。

 

 

 

 

 年を跨いだ翌年。旅行を満喫した俺達は、フレイアを除き幾回ものサイズアップをした。特に元相棒ハパッソの渓壑(=けいがく)の欲は、大食い大会のディフェンディングチャンピオンを破った俺を尻目に破竹の勢いで脂肪を増殖させ続け、年が年百止むことのない発汗という体質をも得た。俺は俺で、チャンピオンの証である立派な巨腹をいつもフレイアにボディータッチされ、うっとりしていた(因みに彼女も、俺に釣られてかやや豊満になり、それはそれで興奮の賜である)。

 なんだかんだあったが、今や世界旅行は毎年のようにしており、その間俺は仲間と共に夜もすがら食い続けた。ベンチプレスは今も欠かさないが、気付けば昔と変わらず、対象が筋肉から脂肪へと切り変わっただけで結局は張り合っていた。それは、

「二人とも凄いね。僕、そんなに食べれないよ」とパブレーンが感嘆とするほど。

「ブァハッハ! いや〜楽勝楽勝——ゲフゥー!」

 ハパッソが気持ち良くゲップを放つ一方で、俺の胃袋はは限界を向かえていた。

「畜生、昔はお前に負け知らずだったが……どうやらお前には大食いの才能があったらしいな、うぷっ」

「ずっとずっと負け続けてたからな〜。ここぞとばかしに勝てるのは気持ちがいーぜ」

 そんなこんなで今日も、俺達は自分らで開いた大食い大会に火花を散らしていた。

 そして締めは、部屋でフレイアが、

「今日も立派にお腹が膨らんでるわね。逞しい腕と脚、そして抱き抱えきれないほどのお腹! もう最高よ」と俺に抱き付く。

 明日も明後日も明々後日も弥明後日も、俺達はこのようにして成長し続けた。そして今も、勿論その成長は止まっていない。止まるのは、俺達の乗っているクルーズ客船だけなのだ。

 

 

    完


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