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前回種族設定を二人分忘れていたので、このシリーズではそのままにしておきます。そのキャラ達は自分好みの適当な種族でご想像下さい(滅


♂ ガーヴァンディ Garvandy

 

♂ ハパッソ Hapasso

 

 

 

    賞品:世界一周旅行也 1

 

 

 コンコン、と扉がノックされた。俺は部屋の扉を開けた。

「ガーヴァンディ様。朝食を持って参りました」

 俺は頷き、船員を部屋の中に招き入れた。彼は料理をテーブルに並べると、そのまま帰って行った。

 これは楽で良い、俺はつくづく思っていた。話に聞けば世界一周旅行では(それだけに限るかどうかは定かではないが)、一日三食の食事が自動的に部屋に運ばれてくると言うのだ。更に、広いクルーズ客船内にあるあらゆる施設は、なんと24時間営業しているのだ。理由は乗客の種族が多種多様のため、それに合わせて昼行性だけでなく夜行性にも対応しているとのこと。またこの豪華客船では、どんな客人に対しても最低限の持て成しをしてくれるというのだ。

 しかし甘え過ぎれば、鍛錬に鍛錬を重ねた俺の体に脂肪が纏わり付いてしまう。この旅行では部屋に引き籠る人もいるらしく、その結果なのであろう、俺は物凄く太ったシャーカンを目の当たりにしていた。その衝撃は言葉に出来ないもので、何せ俺の周りには常に同等の筋肉野郎しかいないため、そういった脂肪太り、しかもぶっくぶくに膨れた姿を見かけたことが生まれてこの方なかったのだ。

 そんなシャーカンは、常々汗を吹き出しているのに、それでも美味しそうに熱々の大特盛りラーメンを1杯、2杯と完食していた。そんな姿に俺は蔑んだ目をくれてやりつつ、あーいう風にはならないようにしないとな、と肝に銘じていた。

「さてと、トレーニングでもすっか」

 毎食後の定番である、運動施設でのトレーニングを始めた俺。あらゆる筋肉を隆起させながら重いバーベルなどを持ち上げ、あのシャーカンとは違う汗を大量に流した。

 暫くして俺は、

「ふぅ……少し休憩すっか」

 すると腹部から「ぐぅー」という音が聞こえて来た。全く、大会前の食事制限が響いたか、この慰安旅行に腹の虫が良く甘えてくる。いつもなら次の大会に向け、プロテインなどとにかく筋肉を生み出すのに必要なものだけを摂取し、時間帯もきっちりと決めていた。だが今のこの虫は、そんなことお構いなしに鳴いてくるのだ。

 最初は抵抗しながら今までの生活スタイルを保とうとしたが、どんどんストレスが溜まっていき、これでは折角の旅行が意味ないのではと、俺は思い始めた。

「……まっ、この際、少しぐらい楽しむのも悪くはないか」

 だがこのほんの僅かな気の緩みが、徐々にこの船の平穏な日常にうずもれていくことに俺は気が付かなかった。そしてそれに気付いたのは、ちょっとした行動からだった。

 

 

「ふぅー、今日もいい汗掻いたぜ」

 久々に疲労困憊し、俺はどすんと重い肉体(筋肉は脂肪よりも質量があるのだ)をカウチに落とした。するとお腹の辺りで、何かが揺れ動く感覚を覚えた。余りに馴染みのないものだったからか、背筋がゾワゾワっとした。

 俺は、恐る恐る自身の腹を見下ろした。筋肉に覆われた肉体では分かりづらかったが、腹部を突いてみると、固い筋肉ではない柔らかな感触がそこにはあった。

「ちっ、脂肪か——やはりこの船で、少々甘え過ぎたようだな」

 早速今から体に鞭打ってトレーニングだ! と意気込んだのは良いものの、相当筋トレし過ぎたのか、珍しく全身の筋肉がその行動を拒絶した。これもきっと怠けが原因だろうと俺は考え、そして自らに落胆した。

「ちょっと失礼するわね」

 横から声が聞こえ、俺は目をやった。すると、とても綺麗な毛並みをした、美しい女性ドーガンが俺の横に座った。

「あなた、立派な体してるわね」

「へっ、あったりまえよ。毎日鍛えてんだ。その証にこの世界一周旅行は、大会の優勝賞品だからな」

「まぁ凄い! あなたのような逞しい人、かっこ良くて素敵だわ」

 ベタ褒めする彼女に、思わず俺は照れてしまった。そういやいつも男っ気臭い所ばかりにいたから、あまりこうやって女性と接する機会が無かったっけ。

「ねぇ、触ってもいい?」

「俺の体か? 勿論さ、満足するまで俺の肉体を味わってくれよ」

 別に嫌らしい意味は無い。だが彼女は躊躇なく俺のあらゆる筋肉を触り、この肉体美の感触を味わっていた。

 刹那、またあの「ぽよん」な感覚が俺を襲った。

「あら、ここだけ柔らかいのね」

「うっ——そ、そこはまあ、その、あれだ、少し怠けていたからな。だが今からそこも、この二の腕のような立派な腹筋に戻してやるさ」

「そうなの? ふーん……」彼女は、それほど気乗りしていなかった。

「なんだ、腹筋の方が堅固で立派だろ?」

「でもね私、堅物過ぎるのって余り好きじゃないのよ」

 聞いた事のない反応だ。少なくとも、俺のいた世界ではありえない答えである。俺は興味津々になり、更に言った。

「どういう意味だそれは。筋肉で覆われた体が嫌だって言うのか?」

「だって筋肉だけだったら、全身カチカチで、まるで岩男みたいじゃない」

「い、岩男?」

 俺は両眉を持ち上げ、ぽかんとした

「うーん、まあそれは好みなのかも知れないけど、私的には柔和な部分があった方が、優しそうな感じがして好きだわ」

「そ、そう、なのか」

 これ以上、俺は言葉を交わさなかった。それから彼女は「じゃ、またね」と運動施設を去っていった。俺は休憩後、再びトレーニングに励もうと思っていたが、何故か今はそんな気分になれなかった。この青天の霹靂のような出会いで、俺の心には靄が掛かり、すっきりとしない状態が続いた。

 思えば俺は、ずっと閉塞的な世界にいたのかも知れない。筋肉に対する執着だけで生きるに限定された世界。この淼々たる海に出て時折感じるのが、限られた船内の空間が、俺の生きてきた世界よりも広いことだった。

 始まりは、あの特大の肥満シャーカン。最初は蔑んでいた俺だが、何度も見かける内に自然と興味が湧いていた。こういう人もいるんだなと思いつつ、次にはあのドーガンである。彼女が見る世界は、俺の孤立した世界よりも、それこそ渺々たる外の景色のように広大であった。

「あら、まだ休憩中?」

 いつの間にかカウチで俯いていた俺は、頭を擡げ、声を掛けたあの彼女に視線を合わせた。

「色々と考えに耽っててな」

「悩みごとか何か?」

「いや、別に悩みというわけではないんだが……君の言葉がどうも頭に残ってな」

「え? 私なんか言ったかしら」

「岩男みたいだとか、柔和な部分があった方が良いとか」

「ああそれね。何、それでそんなに悩んでるの?」

「その、なんというか、そんな考えを聞いたのは生まれて初めてだったからな」

「へぇー。随分とあなた、狭い世界で過ごしてたのね」

「らしいな。っと、そういや挨拶がまだだったな。俺はガーヴァンディ」

「フレイア(=Flair)よ、宜しくね」

 

 

 

 

 それから俺は、フレイアと良く運動施設で会話するようになった。その分運動量が減ったためか、前にも増してお腹に、脂肪と感じられる柔らかさが生まれていた。それに対する嫌悪感はあったが、フレイアが宥めるようにそれを抑えていた。

「——でもよ、力強い男の方がお前は好きだろ?」

「そうね。けど力強さだけで、愛情の欠片も無い人はどう思う?」

「うっ……た、確かにそう言われると」

「まあ愛情があっても、力強さのないナヨッとした草食系とか、ぶくぶくな脂肪まみれの人は嫌だけどね」

「そうしょくけい?」

「あら、ガーヴァンディってそんなことも知らないの?」

 俺は頷いた。

「最近少し流行ってるのよ。あなたとは真逆の、力の弱そうな細い男が好きだっていう女性が増えてるんだって」

「そりゃ駄目だな。やっぱ男には力がねーと、いざという時に女を守れないしな」

「そうそう! だから私はあなたのような腕っ節が好きなの」

「でもそればかりじゃ嫌なんだろ。その……この腹みてーのがあった方が」

「ええ。でもあくまで私の好みだし、あまり深く考えなくても良いわよ」

 そうは言われたものの、俺にはフレイアの言葉が、普通に飛び交う言葉よりも意味あるものに聞こえていた。なんと表現すれば良いのか、その言葉が単純に心に残るというだけじゃなく、実行して彼女を喜ばせたいというか、彼女に合わせてやりたいというか——

(——んっ、この感覚……もしかして俺、フレイアのことが好きなのか? そういや恋なんてまだ一度もしたこと無かったし、ずっと筋肉増強にのみ一心してきた俺だ。もしこれが恋というのなら——)

「何よガーヴァンディ、そんなにジロジロと私を見て」

「——あ、いや、その、まっ、なんというか、気にするな」

 しどろもどろな俺を見て、フレイアはクスクスと笑っていた。

(可愛い……やっぱ俺、彼女のことが好きらしい。だったら彼女の言うようにして、彼女が望む男の姿になるのも悪くはない、かもな)

 

 

    続


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