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奇しくも日と月は仕事から逃れられました! だけど一応自宅で待機……

今週の4連休も何もなきゃ良いなぁ~。

 

 

それと今回は、とある洋画を見ていたらあるワンシーンで触発されたのかふと「ナアム」のことを思い出し、映画のネタを用いつつ遅かれながらその続編を書きました。


ポルム Polm 海豚 女

フラッグ Flag 蜥蜴 男

ハゲヒル(兀蒜) Hagehiru 狼 男

クロウラー Crawler 蠍 男 

 


 

 

    ナアム Chapter 1

 

 

 エレベータが降りきると、そこはだだっ広い100畳ほどのホール。ブォンと周囲を取り囲んでいたシールドが解かれ、4人は自由に動けるようになった。

「遅かったじゃねぇか」

 声を掛けたのは、目の前の巨大丸テーブルに座る、航空用ゴーグルを額に掛けた大柄でスリムな鷹だった。その右には、肩を竦めて縮こまったように座る華奢な蝙蝠が居た。

「あなたは?」

 私は率先して2人の元に歩み寄った。

「俺はデム。ただ本名かは分からないがな」

「あなた達もそうなのね。そこの方も?」

「ああ。彼女のことはウォアヘルツって呼んでる。あんたらもそうか」

 私は頷き、後ろに控えた3人それぞれを自己紹介した。それから鷹のデムの言葉で、全員がテーブルに着席した。私は一番昇降機に近い位置に座り、その左にはハゲヒル、更にその左がクロウラー。そして私の右はフラッグで、向かいにはデムが、そして彼の左側にウォアヘルツという配置である。

 すると、それを見計らったかのように、ホール内に機械的な声が流れ始めた。

『ようこそ、本戦の間へ』

「な、何事!?」とハゲヒルが辺りを見渡すが、6人以外の存在はそこにはない。そもそも声の質が生物ではない。

『君たちは選ばれた。まもなく6人の内の1人が、ここで望みの賞金を手にすることだろう』

「賞金? なんのことよ?」私は言った。

『君達はゲームをし、そして賞金を手にする為にここに来たのだ』

「ハッ、そんな遊び人じゃないぞ俺は」フラッグが力強く言い返す。しかし<声>は、それを無視した。

『ではまず、本戦を行なうにあたり、君達の“名前”を返そう』

 その言葉と同時に、テーブルのそれぞれが座る席の目の前がセリのように下がり、そして紙が一枚上って来た。それを捲ると、そこには自分のおでこに書かれているものと同じ物が書かれていた。

「あら、おでこの奴と同じ――ということはこれが、私達の名前であってたのね」

『……私としたことが、珍しくニアミスを起こしてしまったようだ。予選の時の名残をそのままにしてしまっていた』

「予選? てことはこの6人が予選を勝ち抜き、そして本戦に挑むのね」

『その言葉には一部間違いがある。予選を勝ち抜いたのは8人だ』

「えっ? でもここには6人しかいないわよ。それでゲームを始めるの?」

『予選を勝ち抜いた者の内2人は、既に本戦前にゲームオーバーとなった』

「ゲームオーバーだと? まさか、あの玄関の電気のことか?」

 デムは勘鋭く聞いた。

『正解だ。その2人は、その電気でこのゲームに負けた』

 それを聞いた周りは息を飲んだ……が、一人蠍のクロウラーだけはおかしそうに今尚ニタニタしていた。<声>は、そんな様子を気にすることなく言葉を継いだ。

『では早速、第1ゲームを始めよう。このゲームで試されるのは“運”だ』

 すると再び丸テーブルが、今度は丸ごと地面の下に降り、そして上ってきたのは鉄製の丸いルーレットだった。そして各人達の前にはケースが置かれ、直径1cm程の鉄の玉が4つ入れられていた。

『第1ゲームは、運命のルーレットだ。ルールは単純、プレイヤーの手元にある玉を転がし、それが落ちたポケットの箇所の結果がプレイヤーに得られる』

 私達は、ルーレットのポケットに書かれた――というより正確には掘られた文字を読んだ。「GET 10 NAAMS」、「GAME OVER」、「FORCE-FEEDING」、「GET 50 NAAMS」、「NO CHANGE」、これで全て。そしてそれぞれのポケットの大きさはというと「NO CHANGE」が4割、「GET 10 NAAMS」が3割、「FORCE-FEEDING」が2割、そして「GAME OVER」と「GET 50 NAAMS」がそれぞれ0.5割だ。

 これを見た蝙蝠は女性ウォアヘルツは、ルーレットから身を引いた。

「い、嫌よ私……こんなゲーム、やりたくないわ」

『それは許可出来ない。契約上、ゲームに勝つか負けるか、選択肢はそれしかない』

 ガチャ、という、何かが固定される音が聞こえた。銘々が下を見遣ると、椅子から出たベルトが腰に巻き付いていた。

「何事!?」太めの狼ハゲヒルが、慌てて刀で鞘から取り出そうとしたが、上手いことベルトがそれを遮っていた。

『最初のプレイヤーはデム。1投ごとに時計回りでプレイヤーを交代する。一番多くナアムを獲得した者には、ボーナスとして獲得したナアムが倍になる。尚プレイヤーが1投する迄にかけられる時間は5分。それを過ぎた場合は罰として“FORCE-FEEDING”を与える。では、ゲームを始めよ』

「ちょ、ちょっと待って! “FORCE-FEEDING”ってどういうことよ?」私は尋ねた。

 しかしながら、先ほどの言葉を最後に<声>はしなくなっていた。

「……仕方ねぇ。それじゃ投げるぞ」

 デムはなんの躊躇も無く、自分の玉をルーレットに転がした。このルーレットにはホイールが無いようで、玉がゴロゴロと周囲を回るだけのようだ。そして転がしてから30秒ほどして、玉がゴンッとポケットに入った。そこには「GET 10 NAAMS」と書かれていた。

「よっしゃ! でもナアムって一体なんなんだ? 誰か知ってるか?」

 一同首を横に振った。

「まっいっか。次はウォアヘルツ、あんただぞ」

「え、ええ……」

 あまり進まないながらも、身動きが取れない以上どうしようもないこの状態では、彼女も仕方なしに玉を投げるしかなかった。

 彼女が放った玉は「FORCE-FEEDING」というポケットに入った。

「これ、どういうことなのかしら」と私。

「おい、上を見ろよ」

 ハゲヒルが、ウォアヘルツの頭上を指した。すると天井から、まるでホースのようなものが垂れ下がっていた。しかもそれは生きもののように動き、彼女に近付かんとしていた。

「な、何よあれ……放して、放してよ!」

 必至に席でもがくウォアヘルツだが、ベルトが確りと固定され何も出来ない。周りも、彼女の様子をただ見守ることしか出来なかった。

 やがて、ホースの先端が彼女の目の前にやって来た。そしてその口を彼女と向かい合わせた正にその時だ。ホースが一直線に彼女の口内に侵入したのだ。更にホースからもベルトが現れ、ガスマスクのように頭に巻き付いて自らを固定した。

 この光景に、誰もが言葉を失った(ただ一人を除いて)。もごもごとウォアヘルツは暴れる中、ポケットの言葉通り、眼前で強制肥育が行なわれた。普通なら胃袋などが破裂してしまいそうだが、何か特別な薬とかでも使っているのか、彼女は見る見るお腹を膨らましていった。しかもその薬の影響からか、次には体全体が、まるで太り行く人の姿を定点観測したものを早回しで見ているかの如く変化していった。

 約1分後、ルーレットの結果を終えたのか、ホースはベルトを解いて自分中にしまい込むと、彼女の口から出て来て再び天井に戻って行った。その下では体重が数十キロも増えたであろう、咳き込み喘ぐウォアヘルツが苦しそうにしていた。

「う、ううっぷ……げふぅ……な、何よ、これ?」

「大丈夫か、あんた?」

「なわけ、ないでしょ……! はぁ、ふぅ……」

 次のプレイヤーであるフラッグは、玉を投げられずにいた。この目の前の惨事を見て、誰が故意に玉を投げたがるだろうか。

 暫く、誰も言葉を交わさなかった。ウォアヘルツがどうにか気息を整えても、何も出来ずにいた。するとまた、あの機械の<声>が喋り出した。

『次のプレイヤーはフラッグ』

「わ、分かってる!」

『残り一分しても玉を投げない場合、自動的に“FORCE-FEEDING”を与える』

 再び<声>は静かになった。

 フラッグは、一呼吸置き、そして深呼吸をしたのち、自分の玉をルーレットに力強く投入した。玉はゴーッという音で豪快に回り、約1分をかけてとあるポケットに入った。

「わー、50ナアム獲得だってさ~。ケケケ、凄い凄い!」

 まるで子供のようにはしゃぐクロウラー。まるでつい何分か前に起きた出来事に興味すら示していなかったかのような反応である。

「うぐっ」

「どうしたのフラッグ?」

「い、いや何でも無い。それより、次は君の番だ。早く投げた方が良いみたいだぞ」

「そう、ね」

 私は玉を手に取った。鉄の玉だが、見た目より重い。それを軽くルーレットに投げ入れると、いつものようにゴロゴロと玉はルーレットを周回し、そして大きめなポケットにガタンと落ちた。

「ふぅ……10ナアム獲得ね」

「それでは、次は我輩か」

 ハゲヒルが玉を投げた。結果は私と同じ10ナアムだった。そして次はクロウラー。周りは緊張感に包まれているというのに、彼だけは依然としてこの状況を楽しんでいるようだった。そんな彼の玉は「NO CHANGE」のポケットに入った。これは言葉通りの意味で間違いなく、彼には一切変化は起きなかった。

 これで、プレイヤーは1週した。次に再び、デムからの投球が開始された。

 どうやらこの週は、運が向いていたようである。6人のプレイヤーは全員「10ナアム獲得」か「何も無い」ポケットに玉が入った。そして次の週も同じような順調さで、デムが50ナアムを獲得して意気揚々となり、ウォアヘルツとフラッグは何も無く、私とハゲヒルは各々10ナアムを獲得した。

 3週目の最後、クロウラーの番となった。

「僕が投げるよぉ」

 相変わらず脳天気に彼は鋏で器用に摘んだ玉を、流すようにルーレットに放った。それは定常化された綺麗な弧を画き、中央のポケットへと吸い込まれて行った。

 ――ガタッ。玉がポケットに収まった。その瞬間、周りが固唾を飲んだ。

「ウケケ、良く分かんない奴だー」

「お……おいあんた、これから何が起きるか承知してるのか?」クロウラーの反応にデムが訝るも、蠍は頭上から舞い降りるホースに一心だ。

 やがてそのホースは、1週目にウォアヘルツにしたように、クロウラーに対しても同様の事をした。蠍とて流石に量も量だったのか外骨格が外に押し出され、体全体が明らかに肥大していた。

 ホースが外れると、彼は思わぬことを口にした。

「げふー! あー、美味しかったぁ。もっと食べたいな~、ウケケ」

「あ、あなた、平気なの、苦しくないの?」と驚き顔で私。

「苦しいよぉー。でも美味いんだなこれが、ケケ。君達も食べたらー?」

 どうしてこう気楽でいられるのか、私は理解に苦しんだ。だが彼が苦しんでいるのは(=あなが)ち嘘ではなさそうだ。何故なら少し、表情が歪んでいたからだ。しかし彼の性格はたまた感覚上、つらさよりも快楽が表立って出るようである。

 再びこのホールに緊張感が張り詰める中、デムが最後の週の始球を行なった。玉は円の軌道に乗ってルーレットを幾たびも周回し、5つのポケットの内どれに落ちようか悩んでいるかのように、今までで一番長く玉がルーレット上を転がっていた。

 凡そ2分弱が経ち、(=ようや)く玉はとあるポケットに入った。そこはポケットの中で最も小さく、そして……

「……ゲーム、オーバー、だと?」

 デムは信じられず、鷹の嘴をぱかりを開けて自分の玉を見詰めていた。

『デム、ゲームオーバー』

 突然例の<声>がし、彼は焦った。

「ちょちょっと待て! ゲームオーバーって、一体何が起き――」

 刹那、まるでゲーム機の電源を切ったかのように、彼の姿がぷつりと消えた。

 一瞬の出来事で、周りは暫し呆然としていた。私の向かいは、元々誰もいなかったことを象徴するように空席となっていた。だが私の両目には、はっきりと彼の残像が残っていた。

『次のプレイヤーはウォアヘルツ』

「わ、分かってる」

『残り一分しても玉を投げない場合、自動的に“FORCE-FEEDING”を与える』

「分かってるわよ!」

 激昂したウォアヘルツだったが、体はわなわなと震えていた。

 彼女は、気を紛らわす為か片方の翼を団扇のように動かすと、最後の一玉を手に取り、それをルーレットの中へと投げ入れた。

 この時私は、悪魔がまだこのホールに残っていたとしか思えなかった。彼女が転がした玉は、不条理にも「FORCE-FEEDING」のポケットへと入ってしまったのだ。

「う、嘘……嘘よ、絶対こんなのインチキだわ!」

 そう喚くも、出でたホースは見知らぬ主人の命令に従順して彼女の口に無理矢理入り込み、自らを彼女の頭部で固定した。

 2度目の強制肥育――そう、強制肥育。ウォアヘルツの体躯は1週目に蓄積された脂肪を更に嵩ませた、完全なる肥満体型となっていた。細身だった頃より数倍は膨れており、頬はぷっくりとし、顎には弛みが生まれていた。すらっとしていた腕は肉付き、お腹は妊娠中の蝙蝠より遙かに大きく皮膜の面積を少なくさせ、脚にはその体を支えるのに必要ない脂肪が確りと貯まっていた。

 ホースが外されると、彼女の顔には苦悶一つしか無かった。

「ううっぷ! ど、どうして私だけ……」

 周りは、彼女を哀れむことだけが精一杯の心遣いだった(ただクロウラーだけは、先ほどの強制肥育で味を占めたのか彼女を羨んでいるようだった)。時間制限もある中、残りの4人も玉を転がすのが宿命となっていた。

 だがその後は、ホールから悪い者が消え去ったのか、4人とも無難に「何も無い」又は「10ナアム獲得」のポケットに最後の玉を入れていた。

 

 

 ゲームが終わると、ルーレットの台が地面に戻り、そしてゲーム開始前と同じテーブルが迫り上がってきた。更に各プレイヤーの前には、それぞれが獲得したナアムとこのゲームの順位が記された紙が置かれていた。

『勝者はフラッグ、よって獲得ナアムは100となる。またこれよりゲームは一日一回開催するものとすし、それ以外は自由時間とする。なお玄関のドアノブに流されていた電流は既に止めているため安心して構わない。以上』

 それを皮切りに、腰に巻かれていたベルトが外れ、それぞれが自由の身となった。だが自由とて強制肥育された者達は、急激な体重増加で動きがぎこちなくなっていた。特にウォアヘルツに至っては、それが顕著だった。

 私は彼女に手を貸しながら、昇降機に全員で乗り込んだ。それは上昇し、あの環状の廊下に到着した。

 現状を理解しようとする者も居れば強烈な衝撃で精神が参っている者もいたり、反対にこの場所で遊楽を見いだしたのか楽観的になる者もいたり、私はなんとか自制心は保てていたりと色んな者達がいたが、ただ一つ、みんな個室で独りになりたかった。

 

 

  続く


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