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基本的に自分の書く太膨話は暗いので、この時期にそぐわないから前回のお話はとりあえず保留にして、明るめな奴を書いてみました。

 

 


 


 

 

ムープの暮らし プロローグ 〜第一週目 朝〜

 

 

「ふぁー、眠いなぁ」

 とある島国に越してから一週間。仕事をする人生に嫌気が差した一人のぽっちゃり緑竜は、平穏な日常を求めここへと引っ越して来た。

 この島は豊富な鉱石と石油が取れることで、それはそれは莫大な資金を国は有し、そのため島民はベーシックインカムという制度で一定量のお金が毎日支給されるのだ。しかもそれは、近代化の影響も受けてか電子マネー化し、嵩張るなどの煩雑さもなくなっており、しかも島民それぞれの生活にあわせて必要な金額を自動調整してくれるため、実質お金の概念がないと言っても過言ではない。これは万病を抱えている人には嬉しい制度である。

 しかしどうやら、人というのは自然と体に刺激を求めてそれを受けてきたようだ。というのもこの島では、如何せんやることがないのだ。さすがに母国と同じライフラインがある所をチョイスしたわけだが、テレビを見ても以前のような刺激的な内容があるわけでなく(平穏と言えばそうなのだが)、どうにかゲームは楽しく遊べるものの、新作ゲームが入荷されるのは極僅か。だからあまりやり過ぎないようにしている始末。

 暇ではあるが、お金同様仕事の概念もないこの島での生活は平和そのもの。そもそもそれを目的にここへとやって来たのだから、願いはとりあえず叶った。

「もう10時かあ……ご飯でも食べようっと」

 緑竜はのっそりと体を起こし、電子マネーの入ったマネーカードというものを首に掛けると、遅めの朝食を取るため外に出た。道路を跨いだ真向かいは美しい海岸で所々に人がいて、左手には大型のショッピングモール、右手には白塗りの木造バンガローの料理店がある。彼はそこに向かって入店すると、時間的にひとけがなくなった店内で筋骨隆々の逞しい赤竜が、カウンターでピザを(=)ねていた。彼は緑竜が入ってくるのに気付き、顔を上げて笑顔で挨拶した。

「よおムープ(=Moop)。今日もピザを食うかい? それともハンバーガーか?」

「はい。今日はハンバーガーセットが食べたいです」

「あいよ」

 赤竜はピザの生地を手早く作り、適当な具材を乗せて窯で焼き始めた。それを見た緑竜のムープは、カウンター席に座りながら吃驚して言った。

「あ、あのガンヴァ(=Ganva)。そんな風に作って大丈夫なんですか?」

「んぁ? なーに、これは俺の昼飯だから良いのさ」

「今頃昼食を取るんですか?」

「それを言うならお前も、今更朝食か? ハハ、まぁここは料理店だから、客足のない時にしか飯は食えないのさ」

「あー、なるほどぉ」

 赤竜ガンヴァの答えに、ムープはなるほどと納得。ガンヴァは次に、ムープのハンバーガーセットを作り始めた。まずは太目のポテトを二十本ほど揚げ、その間にハンバーガーを作る。バンズ、マスタード、レタス、輪切りのトマト、玉葱、肉、ピクルス、チーズ、ケチャップ、バンズ、再びマスタードに始まりバンズで終わる。具材はどれも直径15cmと通常よりやや大きめで、食べ応え充分である。その制作過程だけでもムープの口内には唾液が蓄積された。

 やがて、大皿に先ほどのハンバーガーとバーベキューソース添えの揚げたてのポテトが載せられて、彼の元に差し出された。ガンヴァも窯から先ほどのピザを取り出し、少し焦げたそれを切らずにそのまま食べ始めた。熱い物は全然平気のようだ。

「相変わらず、ガンヴァって豪快に食べるんですね」

「一々切って食べるのは、俺の性に合わねえんだ」

 ムープも、ハンバーガーを両手で掴み、竜らしい豪快な一口を見せた。たっぷりのケチャップとマスタードがはみ出て、持つ手や口周りに付く感じがボリューム満点さを示している。一部はぽたりと零れてマネーカードに落ちたが、頑丈な作りで出来ているそれは全くもって問題ない。

 二人は談話をしながら食事を進め、真っ先にガンヴァがピザ一枚丸々を完食すると、ムープも残りのポテトをぱくぱくと口に運び、締めは口の周りについたソースをぺろりと舐めご馳走様をした。

「あー、美味しかったぁ」

 ムープは満面の笑みでそう漏らすと、ガンヴァは嬉しそうに答えた。

「お前が食うと、心からそう見えるな。料理を作る俺すらそう感じるんだから、お前の表情ってすげえんだな」

「えへへ、そうですか? そう言って貰えると嬉しいです」

 昔は、そんな余裕なんて無かった気がする。けれどここに来てから、心起きなくそれが出せるのもまた一つの解放感であった。ムープは気持ち良くマネーカードをカウンターに設えられたリーダーに翳し、精算を済ませた。

「ご馳走様です」

「おう。また明日も来いよ」

「はい」

 ここでの生活は不自由ないけど暇だけど、こういった時間の大切さは身に沁みて感じられたムープであった。

 

 

 

    続く


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