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ようやくですが、とりあえず無理矢理ながらなんとか完結させました。

元々この小説は後先考えずにノリで考えて書いてた奴なので、これでも良いのです、はい。

てなわけで、強引な終幕をどうぞ(爆


固有名詞

男 緑竜 ムープ  Moop

 

男 赤竜 ガンヴァ Ganva

 

男 東洋竜 リモウ Limou

 

女 黄竜 ミリース Millies

 

 

 

 


 

 

  ムープの暮らし エピローグ 〜第十年目〜

 

 

 今日はムープの誕生日。この島に来て十年、謝肉祭ほどでは無いにしろ、肉をメインとしたふんだんな料理と豪華な演出は、オーバーオールすら着れなくなった緑竜の肥満をより一層加速させるファクターとなっていた。

「さーて、締めはこれだ!」

 赤竜のガンヴァが、自慢の肉体でピザ生地を頭上へと放った。既に直径は1m近くにまで引き延ばされており、彼はそれを巧く手で受け取ると、調理台に生地を回しながらなめるように置いた。新築のムープの家に集まった多くの島民達が、それに拍手喝采となる。

 気を良くしたガンヴァは、前腕を曲げて力瘤をムンッとアピールした。

 それから彼は、幾多の具材——だが割合としては牛肉が半分以上を占めている——を幾重にも重ね、生地より具の方が格段に分厚くなったピザを余熱で温めておいたオーブンで焼きに入った。

「あとは30分したら完成だ。んじゃ、次はリモウ頼むぜ」

 ガンヴァが調理台から退くと、次はデカッ腹で有名な大食料理家、リモウが調理台に立つ。普段彼の店では店長ながら尻重のウェイターとしての役割しかしていないため、こうやって料理を目の当たりにするのは初めてだった。そのおかげでムープはこの催しが始まって以来、初めてファイナーとスナック菓子の飲食から手を休めた。

 東洋龍の作る料理は主に中国料理で、コックコートのボタンを弾かんばかりに詰まった腹の脂肪のように過量の油が使われていた。どれにも大量の豚肉が使われており、それらは青椒肉絲として細切れにしたり、角煮として煮込まれていたりする。更には定番の北京ダックもあり、ここでも肉が取り分け多く使用されていた。

 暫くし、ガンヴァとリモウの料理が完成すると、1回目の食事会が始まった。ガンヴァはピザ以外にもどでかいパーティー仕様のハンバーガとポテトを大量に拵えていたが、概ね主役のムープの腹に収まるだけじゃなく、緑竜はそれでは全く事足りないのである。そのためある程度料理が無くなると、再びガンヴァとリモウが調理を始め、それでも足りない分は出前で補うのが今回の誕生会である。

 このようなプログラムになったのには、昨年のムープがその前の年より一段と胃袋を成長させていたため、事前にテーブルいっぱいに用意した料理だけでは足りなかったのだ。しかもその年は、自身の体が過重となってバランスが取れずに蹌踉めき「どすぅーーん!」という豪快な音を立てて尻餅をつき、立ち上がることすら阻害され、みっともなく地べたで全身の脂肪を揺蕩わせるまでに巨大化していたのだ。

 それに何より、今年この島で十回目を向かえた緑竜の誕生パーティーには、連れ合いとなったミリースやガンヴァ、リモウだけでなく、ガンヴァの知人の黒竜や、この島唯一の病院で働く医者など数多くの島民達が居て、そんな彼らの胃を充満させるには並みの量(ここでの基準はこの島として)では不足なのである。

 だが今回より取り入れたこの演出兼料理は大成功で、参加者には胃袋だけでなく視覚にも喜悦を与えた。

 そんなこんなで、とうとう3回目の食事会が始まった。

「はいあなた」とミリースがガンヴァのピザを丸ごと一枚ムープに渡した。緑竜はそれを受け取ると、そのままかぶりついた。それはガンヴァより豪快で素早く、正に遜色ない食いっぷりでピザを胃に収めた。

「う〜ん、美味しかったぁ」

 ムープは嬉しそうに微笑み、妻は彼の脇腹に乗る形で両頬のソースを拭った。

「そろそろケーキ食べる?」

「まだ食べる。次はリモウの北京ダック頂戴」

「ふふ、食べ盛りも過ぎるわね、あなた」

 そう言いつつ彼女は、巨大に太らせたアヒル数匹分の北京ダック料理を、夫の分厚いかつ脂肪の詰まった胸板に載せた。すると彼はすかさず口にその料理を放り込み、流れ作業的にそれを完食したのち

「おかわりある?」と平然と尋ねた。

「あなた、ちゃんとケーキの分の空きは残してある?」

「あるよ。あり過ぎて困っちゃうぐらいに」

 ミリースが笑っていると、この会話を聞いていた白衣を着た竜が二人に近寄った。ムープに胃薬を処方した、あの太り過ぎの医者である。彼は当時よりも断然に太り、今では診察室の扉を通れなくなってしまっていた。そのため彼だけは例外的に、パーティションで区切られた特設診察室で診察を行なっていた。そんな体のためかこのパーティーに参加している、独りではベンチから立てなくなった黒竜のように汗と呼吸の乱れは止めどなかった。

「ふぅ、どうしたんだい、ムープ、食べたりないのかい?」

「はい。もっと食べたいんですが……」

「ならこれを」

 彼が差し出したのは、リモウが調理した大皿の青椒肉絲であった。十人前近くある量だが、それを医者は一人で貪っていたようだ。その証拠に口周りは油でテカテカとしており、医者の象徴である白衣にはソースが大小の斑で付着し、ドット柄のようなデザインとなっていた。

 幸いにも量が量だけにまだ半分弱残っていたため、ムープはそれを喜んで受け取り、そして食した。

「もう良いわよね、あなた」

「うーん、そう、だね、ゲフゥ」

 ゲップをしたものの、ムープはまだまだ食べたい様子だったが、渋々了承した。するとミリースが調理台に立ち、締めとなる誕生ケーキの作成に入った。その間参加者は残りの料理をぱくぱくと頬張り、定位置から固定位置となったソファーから動けない緑竜は、手の届くお菓子棚から徳用スナック菓子とファイナーを手に、バクバクガブガブとそれらを牛飲馬食した。

 予めケーキを作るための事前準備をしていたため、凡そ1時間ほどで特大のタワーケーキが完成した。蝋燭を刺しておらず、それはムープの吐く息より彼の突き出たお腹の方が距離が長くなっていたからだ。

 黄竜が、歌う前の掛け声「せーの」を参加者に向かって言い、そしてみんなでバースデーソングを合唱した。

『ハッピバースデートゥーユー、ハッピバースデートゥーユー、ハッピバースデーディーアムープー、ハッピバースデートゥーユー』

 拍手が湧き、ムープは嬉しそうに微笑むも、お腹が満たされていないためスナック菓子を手放せなかった。

「さっ、あなた、好きなだけ食べて」そう言ってミリースが、巨大タワーケーキを載せた皿をムープのぶよぶよとした腹テーブルの上に置いた。こうでもしないと彼が食事をできないわけだが、それでも胸や腹ではバランスが悪いため、常にタワー状の料理は土台を馬鹿でかく作っている。しかも量がその分増えるので、貪食家な緑竜に対しては棚からぼた餅な対処法であった。

 ムープは、妻のウェストほどもあるたるんたるんな腕を、地べたを這う戦車のようにケーキへと向かわせ、大城戸の無い無防備な巨城の一部を鷲掴むと、それを大口を開けて呑み込んだ。両腕が交互に進撃を繰り返し、次第にケーキの城は襲撃に降参したかのように傾き、だがそれでもなお緑竜の猛攻は止まらなかった。

 攻撃が治まったのは、皿の上が真っ新に無くなった時だった。

「ガハハハ! 相変わらずムープの食欲は凄いな。俺達が居なくても、今日の分は全て食えそうな勢いだな」

「そうネ、彼には誰も敵わないアルよ」

 ガンヴァとリモウが頷きながらムープの迫力に感服していた。一方ミリースは、夫の口周りに付いた生クリームをペロリと舐め取ってあげていた。

 

 

 今日もムープは、島の人達に愛されていた。それを受けた彼は全員分の愛情を脂肪として体内に吸収・転換させ、体重2.7トン、腹回り10mに達してもなお、破竹の勢いで自己記録を年々、月々、日々更新していった。

 十年後、緑竜は島内の歴史一太った人物として記録に残り、翌日にはその記録を自らで塗り替える日常を送り続けた。

 

 

    完


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