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久々の小説更新です orz


固有名詞

男 緑竜 ムープ  Moop

 

男 赤竜 ガンヴァ Ganva

 

男 東洋竜 リモウ Limou

 

女 黄竜 ミリース Millieth

 

レストリート Restaureet 大型ショッピングモールにある料理店が軒を連ねる道

 


 

 

  ムープの暮らし 6 〜第半年と二週目〜

 

 

 今日で最後の薬を飲み、準備万端で挑んだガンヴァのパーティーは、彼自身の店で執り行なわれた。数十もあるテーブルは何処も埋まり、そこには脂肪やら筋肉やらのかたまりで犇めいている。ただ彼の誕生日とは言え、特にハッピーバースデーソングを歌うわけでもなく、皆交々談笑したりしている。また島民性なのか、ガンヴァが指定した開催時間より全然遅く来る者もいたり、反対にもっと早くこの場所へ来る者もいたりして、母国の誕生日会とは大違いであった。

「あっ、あの人は」

 ムープの目に入ったのは、時折見かけるあの巨漢の黒竜だった。彼はオーバーオールを着ていて、しかもムープとお揃いであった。サイズは相手方がうわてであったが、ムープはとうとう彼級のレベルに入ったんだなと思い知った。

「あいつはよぉ、昔は俺と一緒にボディービルダーとして世界を股に掛けていたのさ」

 突如後ろからガンヴァが説明して来た。ムープがじっと黒竜のことを眺めていたからだろう。

「ぼ、ボディービルダー、ですか?」

 ガンヴァはともかくその黒竜には、全然想像が付けられなかった。

「島に来たらお互いここに落ち着いちまってな。昔の頑張りが馬鹿みたいに思える。だからその反動もあったのかもな」

「どういうことです?」

「ボディービルダーってのはな、今じゃやってないが当時は、大会前に絶食に近いことをしてたんだ」

「絶食?」

「そうだ。筋肉を極限まで美しく見せるテクの一つだったのさ。みんな当たり前のようにやってたが、その過酷さに舞台裏で倒れたり、逆に吐いたりする者が続出してな。今では禁じられてるんだ。それが影響してか、ここに来てからは止むことなく食べるようになっちまってよ。んまっ、俺は幼い頃に夢見ていた飲食店を経営したから体型をそれなりに維持はできたが、あいつは(=ことごと)く太っていったな」

「そう、だったんですか」

 黒竜の過去を知ってどうなるものでもないが、話題性の乏しいこの島では良いネタ話である。それに以前ムープの体を見て「立派になったな」とか言っていたが、ちゃんと肥満と筋肉質を区別しているのを知り、やはりそこは自分と一緒なんだなとムープは悟った。

 そんな彼が頷いていると、ガンヴァは次にコップを差し出した。

「にしてもお前、まだこれ飲んでないんじゃないのか?」

「えっ、でもこれってお酒じゃないんですか?」

「酒は苦手か?」

 それに対しムープは、もごもごとあやふやな返答をした。

「安心しろ。これは甘くてカクテルよりも度数は少ない、この島特産のトロピカクテルだ。ジュースと同じで子供だって飲むんだぞ」とガンヴァが強引にコップをムープに持たせた。そういえばこれはガンヴァの誕生日パーティー。態々招待して貰ったんだし、彼の誘いを断るわけには行きたくないと、ムープは思い返したようにそのトロピカクテルを飲み干した。

「あ〜、甘くて美味しい! 思えばこれ、初めて飲みました」

「本当か? だったら今日はジャンジャン飲んでくれよ」

 ガンヴァはトロピカクテルを入れたピッチャーを持って来て、それをムープのコップに注いだ。彼のパーティーでこんな風におもてなしを受けるのは一瞬どうかと思ったが、裏を返せば彼の自由にしてあげるのも一理あると思い、ムープは心行くまでこのトロピカクテルを堪能した。

 

 

 暫くし、ガンヴァは別の人の所へと行き、ほろ酔いし始めたムープは知らぬうちに、近くにいた人達と忌憚のない会話をしていた。その中でも特に興味深かったのが、所作がとてもここの島民とは思えないほど紳士的な青竜である。この島に来たのはつい最近のことらしく、体格はここに来た当初のムープよりも細めで、容姿はスリム&スマートな出で立ちであった。その見た目通り初めは、必要悪に関する理論など無茶苦茶真面目なことを話していたが、やがて彼は多くの美人局(=つつもたせ)に合っていたことを暴露し、遂にはこの島へと逃げ込んだことを語った。

 色んな事情でこの島に人がやってくるんだ、としみじみ感じながら、ムープはそれを摘みにトロピカクテルと食事を味わった。するとその時、聞き慣れた声が耳に入った。

「皆さん、お待たせしたアルヨ! 我はつい最近ショッピングモールに店を構えたリモウ言うネ。今日は我の母国特製中国料理を用意したアルから、四方山話(=よもやまばなし)は一旦止めて、料理を堪能するネ!」

 そして、大勢の人達がわらわらとその声の方に集まった。どうやらリモウの店の出張サービスをガンヴァが頼んだらしく、ムープもそこへと向かった。

 そこに並んでいたのは、まだあの店で注文したことのない料理を含むバイキング形式の超大量料理であった。品数は30品。どれも具材一つ一つが巨大で、しかも1品に大皿3枚も使用しているため、料理皿の数が100枚弱にも及ぶ想像外のボリュームだった。しかしパーティー人数と彼らの体つきを考えれば、これで丁度良いのだろう。そしてムープもすっかりその一員である。

 ムープも早速リモウの元に向かい、料理を自分の皿に大量に移して食べ始めた。

「あら、ムープじゃない」

 振り返ると、そこには女の黄竜が立っていた。彼女はムープが良く訪れる、ショッピングモールのクレープ屋の店員である。

「ミリースさん。ミリースさんもここに招待されてるんですね」

「毎年のことよ。それにしてもあなたったら、すっかり私よりも大きくなっちゃったわね」

「そ、そうですか?」

「だってガンヴァより大きいもの。さすがに私はガンヴァほどじゃないからね」そういいながら彼女も皿に料理を盛り、

「でも最近、私も少し太り始めたかも。何せこのリモウの店の料理、凄く美味しいんだもの!」

「分かります。僕もこの店が大好きですよ」

「やっぱり? この島には無かった味ですものね」

 彼女は巨大な焼売を頬張りながら言った。ムープも叉焼(=チャーシュー)を一口で食べた。そしてチャーシューが無くなると、彼はすぐさま他の料理を盛った。ミリースさんの前だからか、今日はいつもより大分食が進んでしまっていた。

「うふっ、相変わらずの食べっぷりね。いつ見ても愛嬌があるわ」

「そそ、そうですか?」

 彼女がにっこり頷くと、ムープの食欲は益々増進した。するとそこへガンヴァが歩み寄った。

「二人は良い感じじゃないか。へへ、ここでカップル成立ってのも良いな」

「もう、ガンヴァったら」とミリース。だけどムープはちょっと赤面した。

「まあ良いじゃないか。それより二人のコップが空だぞ。ほれ、新しいピッチャーを用意したからジャンジャン飲めよ」

 そしてガンヴァはゴトンと、近くのテーブルにピッチャーを二つ置いた。

「んじゃ、せいぜい二人で楽しみな」そんなにやけ顔を全面に露呈させたガンヴァは、他のピッチャーを色んな場所に補充しにいった。

「はい、どうぞ」

 ミリースはムープのコップにトロピカクテルを注いだ。そして自身にもついだ。

「ありがとうございます」

「今日はガンヴァのパーティーだからね。思う存分楽しみましょ」

 その言葉通りムープは、心おきなくこの祝宴を楽しんだ。ミリースが積極的にカクテルを補充してくれたりし、食事もなんだかどんどんと進んでいた。

 

 

 それから、パーティーは幕を閉じた。参加者全員が自宅へと帰る中、ただ一人ムープだけは残っていた。

「……うぅっぷ……た、食べ過ぎちゃった」

「ハハハ、そんなに美味かったか! こりゃお前を誘った甲斐があったな」

「けれど、もう、動けないです……」とムープは、ガンヴァに用意して貰った大きなロッキングチェアーで大の字になっていた。ここに座ってからもミリースと一緒に食事を堪能し続けたせいで、起き上がることもままならなさそうだった。一体全体このパーティー中にどれだけの量の食事を取ったのか、本人ですら見当が付かなかった。

「だったら今日は俺ん家で寝てけよ」

「で、でもお邪魔じゃないんですか?」

「安心しろ。実は寝室が二つあってな、初めはダチとここに住んでたのさ」

 ダチというのは、共にボディービルダーの道を歩んでいた黒竜のことである。

「そ、そうだったんですか——グェップ! ぷふぅ……それなら、お言葉に甘えても、良いですか?」

「気にするなって。ほら、ベッドまで俺が手を貸そう」

 そしてムープは、ガンヴァの筋肉を借りてどうにかロッキングチェアーから立ち上がり、空き部屋のベッドで横になった。島に住んでから一段と巨大化し、ガンヴァよりも太ってしまったムープだったが、ベッドの大きさは事足りており、手狭に感じることなくぐっすりと就寝できた。

 

 

 

 

 翌朝。ムープは昨日のパーティーで胃袋が拡張されてしまったのか、起きてすぐ、いつものカウンターでガンヴァにピザセットとハンバーガーセットを頼んだのだが……

「どうした、まさか二日酔いか?」

「いえ……その、ガンヴァさん。あの、お代わり、しても良いですか?」

 するとガンヴァは、目を一瞬きょとんとさせ、次に大笑いし始めた。

「ブハハハ! そんなことで悩むなって。食いたきゃ食えばいいだろ。で、何にする?」

「ピザセット、お願いします」

「あいよ!」

 もしかしたら、昨日のパーティーで(=たが)が外れてしまったのかも知れない。ガンヴァの自宅で寝かせて貰った申し訳ない気持ちがあっても、何故だかムープはこの食欲を抑えきれなかった。その証拠に追加のピザセットを食べ終えたあとでも、彼は再び先ほどと同じような表情になってしまったのだ。

「……お代わりしたいんだろ?」

 にやにやとガンヴァが言う。迷惑をかけたくないという思い、けれどももっと食べたいという欲の衝動との葛藤がムープの顔に目いっぱいと現れ、ガンヴァはそれが面白いようだった。

「ほらほら、次の注文を言えって。早くしないと俺が勝手に作っちまうぞ」

「えっ——じゃ、じゃああのー……ハンバーガーセット、良いですか?」

「オーケー。どうやら今日のお前は、随分と胃袋が活発のようだな。それは良いことだぞ。よし、特別にハンバーガーセットの量は倍にしてやろう」

「え、ええ!?」

「ははは、安心しろ。残したら残したで俺が食うさ」

 そしてガンヴァは、本当にいつもの倍量のハンバーガーセットを作ってしまった。ムープは渋々、食べ切れるかなぁという面もちで第三のお代わりを口に入れ始めた。が、その手は全く止まる様子も見せずに次々と食べ物を口内へと運び、結局皿の上の料理をすっかりと胃袋に収めてしまった。

「うっぷ……も、もうお腹いっぱい」

「良く食べたじゃないか。是非今度もそんぐらい食ってくれよ。お前の食べてる姿は幸せそのものだし、作り手にとっちゃあ喜ばしいからな」

「そう、ですか? でしたら次回から、この量にして貰おうかな……ちゃんと完食出来るかは分かりませんが」

「なーに、さっきも言ったがそういう時は俺が食うから安心しろって。もう半年近い付き合いなんだし、そんな心配は捨てちまえよ」

 そうガンヴァに、カウンター越しに肩を叩かれたムープ。確かにこの島の人達は全員寛容だし、ちょっとやそっとのことじゃあ動じない。僕もそろそろガンヴァを見習い悩みに対する枷を外し、人様を傷つけない範囲で自分を解放して見ようかな、そうムープは思い始めた。

 その翌日。ムープは再びこの島で、自らを束縛していた一枚の皮を脱ぎ捨て、また新しい、一段と成長した自分の姿を表に出した。

 

 

    続く


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