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エグバート・クラウン Egbert・Crown

ピウス・ヴェラ     Pius・Vela

ウェイン・セントパル Wayne・Centpal


「ここに来るのも、十年ぶりか……相変わらずだな」

 エグバートは、とある空港に来ていた。あの地下遺跡がある場所だが、いつものように人は皆無に等しい。だが珍しいのか、今日は一人だけ、同じ飛行機に乗っていた人がいた。その姿はこの国の住民のようで、恐らく旅行か何かに行っていたのだろう。

 空港の出口に向かうと、体の大きな人がいた。翼や尻尾がとても小さく見えるほど、他が大きいのだ。前まではタンクトップでどうにかお腹を覆っていた彼だが、今じゃ股下辺りまでで、膝小僧にまで伸びたお腹は途中から見事に晒されており、脇腹も見事にズボンのベルトを呑み込んでいる。胸周りも脂肪で大きく弛み、そして二の腕は、全く仕事をしていない証なのか、スライムがへばり付いたようにぶよぶよと垂れ下がっていた。その胸と二の腕が接していることで、脇の辺りには入り組んだ溝が出来ていた。

 しかしそんな姿でうろついていても気にしないのは、やはりここが原住民達が多く住む場所だからに違いない。原住民には服というものに値する衣類を着る習慣が殆どないのだから。

「ピウス、だよな?」

「やはりエグバートか。久しぶりだな、少しふっくらとしたか?」

 昔のピウスほどではないにしろ、エグバートは早くも、中年太りの見事な太鼓腹を抱えていたのだ。

「探検家の仕事を止めてから、少し体が弛んだようだ。だがお前も、相当だよな? せめて腹を出さないように出来ないのか?」

「はは、仕方がないさ。この国は平和で良いが、如何せん店とかが少なくてな。今の俺に合うサイズの服が売ってないんだよ」

「その内、裸になるなよ」

「その言葉、そっくりそのままウェインに言ってくれよ」

「……まさか、のまさかか?」

「まっ、会えば分かるさ」

 そしてピウスは、十年前と同じトラックにエグバートと乗り、お腹に押されの乗っかられのして動かしづらくなったハンドルを、無理矢理どうにか動かしてウェインの家へと向かった。

 二十分ほどして、辺りの森などに囲まれた道から、突如開けた所に出た。そこには、昔の王様が住んでいたような、一階建てのどでかい宮殿のような場所があった。地価も安い上、伝説の地下遺跡から得た財宝のおかげで、三人は大金を手にしていたが、エグバートは、体を張ってくれたウェインに特にかなり多くそれを分配したので、ウェインは一生を贅沢三昧で暮らせるほどのお金を手にしていたのだ。

 そんな宮殿の門に向かうと、ベルを鳴らして中と交信した。そして門が開くと、中に入って玄関前のロータリーで降りた。すると専属の執事が、トラックを近くの駐車場へと回した。

「凄いな。本当にこれじゃ、王様のようじゃないか」

「正確には裸の王様だな」とピウスが、笑いながら言った。相変わらず腹の肉の揺れ具合は凄い。だがエグバートも、肩を揺らして笑った時、ぷよんぷよんとお腹の肉が揺れるのを感じ、ついに僕もそうなってしまったのかと思ったが、それ以上、それ以下の感情は持たなかった。

 それから彼は、ピウスに案内され、だだっ広い宮殿内をまっすぐに進んだ。赤い絨毯で、しかも爪が引っかからず、かなり上等な品物のようだ。そしてその先には、二人が並んでもまだまだ余裕があるほど巨大な、大きな扉があった。

 そこをノックすると、中から誰かの声がした——ウェインではなく、きっとメイドか誰かなのだろう。その人にピウスは言葉を交わすと、扉がゆっくりと、重々しく開き始めた。

 先には、何やら図太く、ベッドから床にぐてっと落ちる尻尾と、爪が肉に埋もれ、筍のようにちょこんと出るだけの足のようなものが見えた。その奥には、山のようにこんもりとした、柔らかい巨大な餅のようなものがずどすんと乗っかっていた。

「ウェイン、相変わらず腕と顔が見えねーぞ」

「ぶはは、この腹だから仕方がないって……げふぅー! 失礼、さっきホットドッグ百本食ったばかりなんだ」

「なあ……これが、ウェインなのか?」

「ん、その声は——エグバートか! ふひぃ、久しぶりだな」

「本当にこれじゃあ、服は着られないよな」

「へへ、まあ前々から、服を着るのは面倒だったからな」

「どうやって体を洗うんだ?」

「メイドたちが洗ってくれる。元々それも、面倒くさいだろ?」

「あんたなあ、どこまでぐうたらなんだよ」

「私の夢は、贅沢に食っちゃ寝することさ、げふ。現役を引退したんだし、自分の好きなことを好きなだけして、とことんぐうたらしたいものさ。なんで今更、仕事とかをする必要がある?」

「けどなあ……ウェイン、せっかくあの体から戻してやったのに、これじゃあの時と変わらないじゃないか」

「あの時は、一人じゃどうすることも出来なかった。だが今は、金もあるし、こうやって手伝いを雇えてるからな」

「ははは! 分かった分かった、僕はもう何も言わない」

「それで良し。ふぅー、んでここには、どれくらいいるんだ?」

「僕も一応、探検家を引退したとはいえ、あの水を飲んだ時に感じたことなどを、今本に書き起こしてるんだ。〆切りもあるし、まあいられて一週間だな」

「そうか。ならその期間、ここでのんびりとしていけ。その内この宮殿から出たくなくなるぞ」

「そうなった時は、僕もあんたみたいに寝たきりになるんだろうな」

「安心しろ、金ならある」

 ぶはははと、三人は大笑いした。大きさの違うそれぞれのお腹が、個性豊かに波打ち、無音のハーモニーを奏でていた。

 一週間後。きつくなったズボンに苦戦しながらも、エグバートはピウスとウェインに別れを告げ、母国へと帰った。そして彼は、これまで頑張って来た仕事を引退したあと、今も少しばかしそれを続けているのが、なんだか馬鹿馬鹿しく思えてきた。折角大金があるんだから、ウェインを見習い、生涯を満喫しようかなと、案の定思い始めていた自分がおり、そのことに抵抗すら覚えなかった。

 やはり最後は、平和裏に暮らすのが一番かなと、その思いが日に日に募る度、エグバートの体にも脂肪が募っていった。

 いつしか、気がつけばベルトのバックルがお腹に隠れ、それを境にエグバートは、ウェインの道を辿り始めた。順調な滑り出しだった。

    終


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