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メインは太らせることにあるので、謎解きとかはちゃっちゃと流します——が、話が長くなってしまいました……


エグバート・クラウン Egbert・Crown

ピウス・ヴェラ     Pius・Vela

ウェイン・セントパル Wayne・Centpal


 エグバートとピウスは、目覚めると、朝食を済ませた。エグバートとしては、そのまま例の地下へと行きたいところだったが、何故かピウスが待ったをかけ、遺跡前で待機することとなった。

「なあ、なんで待つんだ? 僕は早く行きたいんだが」

「まあそう焦るなって」

 するとその時、向かいの方の村へとつながる道から、ゆっくりと竜が歩んで来た。身長はピウスよりも小さく、またエグバートよりも小さい。しかし体型的にはピウスに近く、お腹の肉は垂れていないものの、サスペンダーからTシャツを押し出すようにお腹が迫り出ており、明らかに肥満過ぎる体型だった。

 そんな彼の、少しはみ出た脇腹がのっかるウェストポーチには、使い古された採掘道具などが入っていた。年期の入り具合などを見ると、彼のものだろうか——いや、他の誰かが使っていたものかも知れない。

「ウェイン!」とピウスは言った。

「知り合いなのか?」

「ああ、昔の調査チームの一人だ。殆どの奴らは母国に戻ったが、俺とウェインはここに残ったんだ」

 ウェインという名の小太り竜は、ピウスを少し見上げる形でお互いに手を取った。

「久しぶりだな、ピウス」

 そして彼は、横にいるエグバートにも同じくした。

「お初だな。私はウェイン・セントパル、君がエグバート・クラウンか」

「そうですが……今、ウェイン・セントパルって?」

「そうだが。私を知ってるのか?」

「ああ、勿論さ! 考古学での歴代大発見の第一人者だろ? 正直見た時は分からなかったが……」

「ははは、それは仕方がない。昔の私は君みたいに痩せ型だったが、今じゃ早期に中年太りだからな」

 中年太りレベルじゃないぞと、心の中で静かに呟いたエグバート。彼がまだ学校にいる時、このウェインは大きな羨望の存在であり、確かに見た目はすっかり変貌を遂げてしまってはいたが、実績は不変だった。

 そんなウェインに感動を覚えていると、ふとエグバートの脳裏に、もう一人の人物が出て来た。

「……てことは待てよ。ピウス、あんたは彼の助手——ピウス・ヴェラなのか?」

「今更気づいたのか? まあ無理もないか、俺も昔はもてもてのスリムだったからな」

 二人とも、昔の写真では、立派な調査隊を率いていた。しかし今じゃ、退職後の怠け癖がついたように、その姿に立派な肉がついている。人はここまで変わってしまうものかと、エグバートは逆に感嘆するに至った。もうここまでくれば、空が飛べなくなる怖さなど必要ないに違いない。逆にエグバートは、少なからず母国の空港から自宅へは飛翔するよう心がけていた。

「まあさ、そういうわけで、お荷物になるかも知れんが、こいつも一緒に連れて行かせて貰うわ」

「分かった。ただ荷物に押し潰されなきゃいいが」

 エグバートの冗談に、二人は巨腹を揺らして大笑い。似たもの同士、腹の肉の揺れ具合もそっくりだなと、やや卑下気味にも見える目線を配りつつ、彼は二人とともに、あの階段へと向かった。

 螺旋階段を下ると、石の通路が出て来た。地下はひんやりしているので、ピウスとウェインは鼻息の荒さ以外特に変わらずにいた。しかも嬉しいことに、左右の壁には樋があり、そこから流れる石油を利用した照明システムがあるおかげで、一度を火を点けただけで、ずっと奥まで明かりが点いていった。

「ここからは、慎重に先へ進もう」とエグバートが先導し、奥へと進んだ。いつ何かが飛んで来たり襲って来たりするか分からないからだ。

「おい、あれを見ろ」

 ピウスが指さしたところには、石の出っ張りがあった。明らかに不自然である。

「スイッチか何かか?」とウェイン。

「そうに違いない——待て、これは第四のヒントにあったやつじゃないのか? 『石を動かさねば命はない』」

「なるほど……じゃああれを押せばいいわけか」

 前に出ようとしたウェインを、エグバートが腕で制した。

「どうかしたのか?」

「いや、これは罠かもしれない」

「何故だ?」

「それは第四のヒントだからだ。態々印に第一、第二と番号を振ったのには、何かの順序や手順を意味してるはずだ。中心を探すだけなら、一々番号なんて要らないからな」

「確かに……だが、罠じゃなかったら?」

「試して見るか」

 エグバートは、持って来た鞭を取り出し、その先端に発掘道具のハンマーを括りつけることで、即席の連接棍(=れんせつこん)(フレイル)を作り出した。そして彼は、二人を後ろに下げると、それを振って、石の出っ張りにあてようとした。

 だが一回目は失敗。しかし鞭を使い慣れていた彼は、二回目には見事に成功。ハンマーのヘッドがピンポイントで石の凸にあたり、そして予測通り、それはがこんと凹んだ。

 その直後のこと。石のスイッチがあった辺りから「かちんかちん」と、何かが連続して当たる音が聞こえて来た。音はすぐに止み、安全を確認した彼は、再び元に戻り始めた石のスイッチ周辺の床を見渡した。

「……やはりな。毒針だ」

 床には、細く小さい針が散乱していた。ようく見ると、液状のものが付着しており、明らかに危ないものであることを示唆していた。

「さすがエグバート、噂に聞いた通り。やはり君がいなければ、私たちはとっくのとうにここで命を落としていただろう」

「ああ。これからは気をつけなければ」とエグバートは、先ほどよりも意識と精神を集中させ、地下を進んだ。そのあとを、体がでかいことで、うっかり石のスイッチを押さぬよう、二人は慎重になってまずはそこを横切り、通路を進んだ。

 暫く進むと、ちょろちょろと音が聞こえて来るのが分かった。下を見ると、向こうの方から水が流れている。更に先へと進むと、道が三つに分かれていた。左と右には樋が両壁からそれぞれに別れ、中央には明かりがなかったが、そこから水流が出ていた。

 それを見たピウスは、

「なるほど、これもヒントを利用しろってことか……第一は最初の中心のことだから、つまりここが第二のヒントなわけだな。それは『流れる川に沿うべし』だったな。これは単純に、そのまま先へ進めば良さそうだな」

「……いや、何かあるんじゃないのか? なあエグバート?」とウェイン。それにエグバートは、頷きながら答えた。

「その通り。確かにヒントは『流れる川に沿うべし』だ。だが流れる川、それを純粋に言えば、これは流れる川ではない」

「小さ過ぎて川じゃないってことか?」ピウスが聞いた。

「違う。流れる川に沿うのなら、普通、行く先と流れる方向が一致するはずだ。だがこの水の流れは、どう見ても向こう側から来ている。流れに逆らっているんだ」

「なるほど……そう言われて見れば、確かにそうだ。だが仮にそうだとしたら、あとの左と右、どっちへ進むんだ? 川と呼べるようなものは、他にはないぞ」

「そうだな……」

 エグバートは、顎に手をあてながら、ゆっくりと通路をぐるりと一瞥した。

 すると、彼は何かを発見してはっと閃いた。そして発掘道具の中から(=のみ)を取り出すと、それを左側にある樋の中に差し込んだのだ。そして次に、彼は右側にある樋にそれを差し込んだ。

「ふっ、やはりな。見てみろ」

 二人が近付いて来て、彼は樋の中を見せた。すると樋の中に入れた鑿は、石油の流れを一部割いて、左側に流れの空白が少し出来ていた——即ちこれが意味するところは、この石油が右から左、つまり彼らが進まんとしている方向へと流れているのだ。

「反対側の樋は、この逆になっている」

「す、凄いぞエグバート! なるほど、これが川なわけか。つまりこの樋が導く流れに沿えばいい、てことは右か!」

 ウェインもそうだが、ピウスも勿論静かに感激していた。そんな中、エグバートは歓喜に浸らず、更に先へと進んだ。

 通路を歩くこと五分。期待感とともに、巨体の二人の足取りも軽くなっていた。そんな時、目の前が突如開けた。

「こ、これは……」

 さすがのエグバートも、息を呑んでしまった。無理もない、そこにあるのは、とても巨大な洞窟だったからだ。天井まで樋が続き、火が灯って全体が明るいものの、そこまでは十メートル、いや、二十メートルはありそうだった。広さも結構あり、十キロ平方メートルはあった。しかも所々に、財宝と思しきものも転がっており、宝物庫のように思えた。

 そんな光景に、ウェインが犬のように息を荒くした。

「み、見つけたぞ……見つけたぞ、地下遺跡のお宝!」

 彼は真っ先に、宝がある場所へと向かった。錆付いたりするものは投げ捨て、値打ちのありそうなものだけを拾う。やがて持ちきれなくなると、昔の運搬用道具であろう、石製のタイヤで出来た猫車(=ねこぐるま)に乗せ、それを腕と自分のお腹で押しながら、どんどん宝を拾って行った。

 しかしそんな彼を尻目に、エグバートは中の様子を窺っていた。まだヒントは続いている、つまりここで終わりではないのだ。ピウスも同感のようで、まだ気を許してはいない。

「ほらほらお前達もさっさと拾え。私が全部とっちまうぞ」

「僕が求めてるのはこんなのじゃない。ウェイン、分かってるだろ?」

「ああ。だがこれだけあれば、一生裕福な生活を送れるぞ! 豪邸に住んで、食っちゃ寝しながら幸せな日々を送れるんだ」

 そんなことしたら、益々太って自重で身動きがとれなくなるぞ、と心中で突っ込んだエグバート。まあ食っちゃ寝したいのなら、それはそれでいいのかと、彼は次の道へと続くものを探した。

 少しして、彼と同じ作業をしていたピウスが二人を呼んだ。彼は、この洞窟の一番奥にいた。

「これを見てくれ!」

 彼の元にエグバートは向かうと、そこの壁には、様々な顔つきの彫刻が四個並べられており、その中央に扉のような切れ目が走っていた。それぞれの口には穴が穿たれ、更に上には、何やら文字が掘られていた。それは地上で見た四つの言語でそれぞれ書かれており、それを見たエグバートは、

「なるほど、この中に第三のヒント『悪しき心を持たぬもの』がいるわけだな」

「そしてそれを探して、ここに手を入れろと……下手に選べないな」

 すると二人に遅れ、ようやくウェインもやって来た。猫車にはもう、取り切れるだけの財宝を載せていた。

「ふぅ、ふぅ……なあ、それなら、さっきの鞭みたいに、すればいいんじゃないのか?」

「どういうことだ?」とエグバート。

「通路で、鞭とハンマーを使って試して見ただろ? ふぅ、これはきっと、手を入れなきゃいいんだ。だからを手をいれずに一個一個試して見れば——」

「駄目だウェイン。もしそれで失敗した場合、他のスイッチが閉ざされ、罠が発動する可能性がある」そういったのはピウスだった。意外と彼らには当たり前の仕掛け内容だったが、どうやらウェインは相当浮かれているようだ。そのことを自分自身でもようやく悟ったウェインは、大きく吐息を漏らし、気を落ち着かせた。

「そう、だったな。さすがに虱潰しにとは行かないか」

「だからここは、慎重に行こう。まずはテントでも張るか、結構歩いたし、中間地点としてそれを設けるのも悪くはない。エグバート、お前はそのまま作業を続けてくれ」

「いいのか?」

「知恵を絞る役はお前の役目だ。俺達はその助成に過ぎないからな」

「悪い、頼む」

 こうして、大きな体の二人は、自分の体に動きを縛られながらも、どうにかテントを建てた。大きいやつで、三人が寝泊まり出来て尚且つ食事も出来るほどの大きさだ。そしてその間、エグバートはコンピュータに、例の四顔のそれぞれの上にある言葉を入力し、そして翻訳していった。

 イツァムナーは、善意を司る神で、笑顔で全てのものに平和を与えていた。

 カズルは、心を奪い、憎しみでイツァムナーを侵した。

 イシュタムは、自殺を仄めし、哀れにア・プチを誘った。

 ア・プチは、死を与えようとした罰で、涙を流しながらイツァムナーに生贄とされた。

「おぅい、出来たぞ−!」

 後ろからピウスが言った。エグバートは、建てられたテントの中に入り、そこで三人と謎を解明しようとした。

「ふむ……単純に考えれば、イツァムナーだが」とウェイン。

「だがここまで来て、そんな単純なわけがない」エグバートはあっさり否定した。

「それに、カズルに心を奪われたってことは、悪しき心を持ってしまった——正確には持たされただが——そう考えると、こいつは違うな。それにア・プチを生贄にしたんだし」とピウス。

「そう考えると、自動的にカズルも悪い奴だな。すると残るは、イシュタムとア・プチか」

 エグバートは顎に手をあてて考えながら、続けた。

「イシュタムは、自殺を仄めかし、誘った。つまりア・プチを自害させた。これも駄目そうだ。唯一、ア・プチは死を“与えようとした”だけで、執行はしていないところが、他とは違う感じがするな」

「被害者みたいだものな。しかし与えようとしたってことは、悪い心はあったんじゃないのか?」

「ピウスの言うとおりだな。そうなると、全員悪い奴ってことになる」ウェインは、お手上げ状態に両手を挙げた。

 そして三人は、だんまりとしてしまった。あまりにそうするものだから、ピウスが昼食の準備を始め、そして三人で食事を取ることになった。ピウスは相変わらずだが、ウェインも中々の食事量だった。体が小さい割に、ピウス並みの量を取っているのだ。しかし一つ違うのが、ここまでの移動中ピウスのように足取りが遅くなるようなことはなく、彼とは違ってウェインは、息の切れやすさは大差がないものの、今でも調査や何やらを続けているらしい。あの使い古された採掘道具も、どうやら現役で彼の物のようだ。

「そうえいばエグバート。お前確か、ノートパソコンを持ってるんだよな?」ピウスがふと聞いた。

「ああ、持ってる」

「インターネットで、四人の名前とかを調べられないのか?」

「なるほど、それはいい考えかも知れない。早速やってみよう」

 エグバートは食事の途中だが、鞄からノートパソコンを取り出すと、早速四人の名前を調べていった。

「どうだ、何か分かったか?」

「カズルって奴はいないようだが、それ以外の名前は資料が存在している。しかも全員悪魔の一覧として載ってるぞ」

「なんだって? じゃあカズルが正解か?」

「いや、どうだろうか。とりあえず調べてみよう」

 ディスプレイをじっと見つめながら、キーボードやらタッチパッドをいじるエグバート。しばらくして、彼の目が大きく見開き、そして口端がにやりと持ち上がった。

「……はは。文明の(=りき)っていうのは、本当に助かるものだ」

「何か分かったのか?」

「ここにはっきりと書いてある。イシュタムは自殺を司る者で、敵対しているア・プチの死を齎すのと似ている。だがイシュタムは、戦死者や生贄などで死んだ者を楽園へとつれ、永遠の安息を与えるとしている」

「なんだって? じゃあつまり、自殺を司るイシュタムが悪しき心を持たぬものということなのか?」

「しかし待てよ。イシュタムはそれを本心でやっていたのか? さっきア・プチとは敵対していると言っていたじゃないか」そうウェインが割り込んだ。

「それは『哀れにア・プチを誘った』が鍵だろう。本当は敵視しているが、相手の涙を流すいたたまれないようすに、哀れさを持って誘ったんだと思う。もし本当に恨んでいるのなら『誘う』やら『仄めかす』なんていう、善悪の付け難い言い回しはしないはずだ。他の奴らはみんな、そんなことは書かれていないんだし」

「なるほど、な……つまり、イシュタムが正解ってわけか」

「だろう。良し、それじゃあ早速やるか」

「ん? 昼食はもういいのか?」

「そんなん食ってる場合じゃない」

 エグバートは、そそくさとテントを出て行ってしまった。ピウスとウェインは、自分の分と、そして彼が残したやつも焦りながらも確りと胃袋に収めると、げっぷをもらしながら、彼のあとを急いで追った。

 そして二人が、あの四つの顔のところに来ると、既に石の扉が開け放たれていた。


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