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イアート Iaht

雄鯨  コハト     俺 →300kg→???kg

雌海豚 セリズン   私 →80kg

雄犬  レトワール  自分 →220kg→???kg

雌鷹  ルーパー   あたし 50kg

雄蜥蜴 フォッシル  僕 →65kg→185kg→???kg


 ルーパーは、今まで学生達にあまりやーやー言われたくなかったので、フォッシルのことが好きだと知られつつも、やや本性を隠して、それほどくっつきたいという行動はしなかった。なので今、もし彼が「普通」だったら、きっと彼女は彼を抱き締めていたかも知れない。

 だが、彼は「普通」ではなかったのだ。

 そこには、初対面で思わず驚いてしまったコハトよりも、大きな彼がいたのだった。

「ふぅー、ふぅー、ちょっと待っててくださいよぉ」とその彼ことフォッシル。

「お前が遅すぎるんだよ」とコハト。

「だって体が重いんですもの」

「そりゃ君、昼食からどれだけ飯を食ったと思ってるんだ?」レトワールが言いながら、フォッシルのぱんぱんに張ったお腹を二回叩いた。フォッシルの体は、膝ぐらいまで腹部が垂れているコハト以上に、なんと踝にまで肉エプロンなるものが伸びていたのだ。それなのに、どれほど食べたのか、ベースとなるお腹の起点においては、膨らましすぎたボールのような見事な張りっぷりをしていたのだ。

 そんな彼は、レトワールの言葉に昼食からの食事を思い出し、それがとても美味だったのだろう、こんな状態でもじゅるりと口を言わせながら答えた。

「えっと、まずペッ・ヤーンを十人前食べて、それからバナナの砂糖煮を十皿、それからココナッツジュースを……ピッチャーで二つです」

「ははは! お前、それだけ食えば体も重くなるって」

 コハトが大笑いすると、つられてセリズンやレトワールも大きく笑った。それにフォッシルも自ら笑う。セリズンを除き、デブ三人衆のお腹は見事なゆれっぷりを披露したが、ルーパーだけは顔を強張らせていた。

「あれ、ルーパーじゃん。どうしてここに?」

 ようやく彼女に気付いたフォッシルが言った。するとルーパーは、一瞬間をあけて、突如ふっと意識を戻して、答えた。

「え、あの……その……」

 するとセリズンが、代わりに答えてあげた。

「彼女はね、あんたに会いに来たのよ」

「僕に?」

 ルーパーは、頷くことさえできなかった。それは、あまりの彼の変貌振りに、本当に彼が好きなのか分からなくなったのだ。

「とりあえず、家に入ろうぜ。夕食を食うために戻って来たんだからな」

「うふふ、そうね。それじゃあルーパー、あなたも一緒にどうぞ」

 静かに頷き、彼女は三人の大きな背中の後ろに、おずおずと中へと入って行った。

 部屋の中に入ると、数キロはありそうなドライフルーツをいれたバスケットが乗ったテーブルを囲うように四つのソファーがあり、内二人掛け用のやつ二脚にはコハトとレトワールが、脚を蟹股にしてどっかりとお腹を乗せ座っていた。こうして見ると、レトワールもかなりの肥満だと分かるが、回りが太過ぎるので、今一実感が沸かない。そしてもう一脚、それは三人用だが空いているので、恐らくセリズン用なのであろう。

 最後にもう一脚。これも三人用で、そこにはフォッシルが、でかでかと座っていた。背凭れに全体重を預け、三人用でも隙間が少ししかない体からは、大きな垂れ腹が地面へと着地していた。

「ルーパー、まあ座れよ」

 ルーパーは言われるがままに、空いた三人用のソファに腰掛けた。

「それで、フォッシルとどうしようってんだ?」とレトワール。先ほど彼女がフォッシルのことを好きだと事実上判明したので、得意のにやにや顔をしていた。

 しかしその話を知らないフォッシルは「どういうこと?」と尋ねた。

「……あたし、実は、その……」

「言っちゃえって。減るもんじゃないだろ? まあ口数だけ腹は減るがな」

 コハトがそんな冗談をもらすと、緊迫した雰囲気ではあったが、レトワールが思わず腹をかかえ、セリズンもつい「ぷっ」ともらしてしまった。

 フォッシルも顔を綻ばせていたが、同級生が真剣な顔で俯いているので、すっと表情を変えて尋ねた。

「教えてよ。わざわざ僕に会いに来たってことは、何か理由があるんでしょ?」

「じ、実は……その、ね。あたし、その——あなたのことが、好きだったのよ」

 最後の言葉は蚊の鳴くような小ささであったが、フォッシルはそれを聞き逃さなかった。

「僕のことが、好きなの?」

「そう、そうなのよ」

 口に出したあとは、気分もすっきりしたのか、彼女は少しだけ頭をもたげていた。

「嬉しいなあ。そのために、わざわざここに来てくれたんだ」

「え、ええ」

「うーん……じゃあ、それで、どうしようか?」

 その言葉に、ルーパーは戸惑いを覚えた。普通なら、プロポーズの言葉に返したりするかと思ったら、どうしようかと尋ねられてしまった。こんな状況を予想してなかったので、彼女は言葉を詰まらせた。

 するとそれを見てか、セリズンが料理をしながら言った。

「ねえルーパー、とりあえずここに泊まって行ったら? 帰りはいつなの?」

「あ、あの、それが、帰りの航空券はまだ買ってないんです」

「あら、じゃあしばらくここにいなさいよ」

 それにコハトも大賛成した。

「そうだな。せっかくここへ来たんだし」

「で、でも、迷惑じゃないですか?」

「なあに言ってるんだ。居候の自分が言うのも変だが、コハト家は金持ちだからな。全然構わないさ」とレトワール。

「おいおいおいおい、勝手にそんなことを言うなよ。罰としてお前の食事量半分に減らすぞ?」

 コハトの言葉にレトワールが本気で慌てて「そ、そりゃ勘弁してくれ」と言った。それをコハトは再び盛大は笑いで返し、レトワールも笑い、少し静まり帰っていた居間に和やかさを取り戻させた。

 ちょうどその時、セリズンが料理を作り終えていた。今では三人の大食い用に料理を拵えるのは大変なので、彼女の得意なサテを五十本。それとサークー・ガティを五リットル分用意して、残りは出前でステーキを五キロ、それにピザXLサイズを五枚にドーナッツを五十個を注文していた。

 それらの料理を、彼女は数台ものワゴンで分けてテーブルへと運び、そこにずらりと並べた。並びきらないものはワゴンに残し、空になった大皿を取りかえる形で、現在のコハト家では食事をするようにしていた。

 そんな様子に、ルーパーは呆気に取られつつんも、これだけ食べれば太るのも当然——そしてフォッシルがホームステイから帰ったあとのあの食事量も頷けると、あらゆる面で納得した。

「んじゃ、いただくとするか」

 コハトの言葉に、セリズンはルーパーの横に座り、そして全員で食事を始めた。セリズンはまあいいとして、残りの三人の食事風景がそれは凄いこと。まるで昔の海賊のように料理を食らい、あの細々としていたフォッシルも、彼らと同じように、もしくはそれ以上に豪快に食いっぷりを見せていた。

 だがやはり、肥満者なりの苦労がそこに垣間見えていた。レトワールはまだまだ大丈夫で、コハトも今の所は大丈夫。だが一番のお腹を携えるフォッシルは、テーブルの奥にある料理が取れないでいたのだ。一生懸命お腹にはばまれながら手を伸ばすその姿を見て、ルーパーは思わず「どきっ」とした。

(なんなのかしら、この気持ち……そういえばこんな感覚、昔にもあったような……)

 彼女は自然と、料理皿を手にしていた。そしてそれを、フォッシルの手元にある空き皿と交換してあげていた。

「ありがとう、ルーパー。いやあ、やっぱりこの腹だと色々大変だから助かるよ」

「え、ええ……」

 ルーパーは自分の席に戻りつつ、ちまちまと自分も料理を食べ始めた。彼女の行動に、特にレトワールがにやにやと流し目で見ている中、彼女は先ほどの行動を思い返していた。と同時に、同窓会で固太りの男が言っていた言葉も思い出した。

『——よくある母性本能って奴か——』

(そういえばあたし、彼を助けたい気持ちから、好きになっていたのよね。今の行動も、それと同じってことなのかしら……)

 今一度彼女は、食事の手を休めて、がつがつとサテの串から具材を全部食らうフォッシルの姿を見た。ぶくぶくとした身なり、このまま行けば、彼はきっと太り過ぎで、奥の料理に手が届かないどころか、テーブルにすら手が届かなくなるのかも……いや、あの固太りの同級生が言っていたように、本当に太り過ぎで動けなくなってしまうかも。

 ふと気がつけば、食事が終わっていた。全員背凭れに体重を預け、丸々と膨らんだお腹を、セリズンまでもが摩っていた。そんな中ルーパーだけは、あごに右翼を当てて悩んでいた。

「げふぅ——そういえば、ルーパーはどこで寝るんだ?」とコハト。

「ああ、そういえば、どうしようかしら?」

 それにルーパーが、ふと顔を持ち上げた。

「あ、それなら気にしないでください。もしそちらがよろしければ、あたしここのソファーで寝ますから」

「いやいや、そりゃレディーに対して悪いだろ」と言ったのはレトワール。

「いいんです。それに——」

 ちょっと何かを考え、そして答えたルーパー。

「——もし誰か一人ソファーで寝ることになるのなら、あたししか『収まらない』と思いますし」

 何を意味しているのか、四人が寸時思案した。するとその意味を理解したのか、レトワールがにやにやとし始めた。

「はっはーん、なるほど、そういうことか。つまり自分たちがデブだって言いたいわけだな?」

「あ、その……ごめんなさい!」

 するとセリズンもようやく理解し、彼女に言った。

「いえいえ、大丈夫ですよ。遠回しに冗談を言おうとしたのよね。うふふ、ここに少しは馴染んで来たのかしら?」

 ここでようやく、遅れてコハトとフォッシルも理解し、コハトは笑いながら言った。

「はっはっは! 確かにルーパーの言うとおりだな。俺達の体じゃあ、ソファーには『収まらない』な」

 そしてルーパーを除いた四人は、このリビングに笑い声を谺させた。その楽しげな雰囲気に、少しイアートに慣れたのか、ルーパーは一緒に笑い出した。それは苦笑いなどではなく、心からの笑いだった。

 こうしてルーパーは、ソファーをベッド代わりにして、コハトの家に居候することになった。その晩、リビングで一人となった彼女は、車の音一つしない、虫の音が聞こえる静かなそこで、物思いに耽っていた。それは勿論、フォッシルのことであった。

 しかし、フォッシルから教わったとおり、イアートの料理は本当に濃厚だけど美味しく、つい周りに影響されて多めに食べてしまった彼女は、次第に満腹感から来る睡魔に襲われ、いつしか深い眠りに就いていた。


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