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グレース・タウン Grace Town

ノガード Nogard

  男 竜 筋肉質 俺

フロウ Flow

  男 狼 痩せ→痩せ気味 俺

タール Tar

  女 鼠 ふっくら 私

ドレイジル Drazil

  男 蜥蜴 痩せ→痩せ気味 自分

ニプロッド Nihplod

  女 海豚 痩せ→痩せ気味 あたし

タブ Tab

  男 蝙蝠 痩せ→痩せ気味 俺

イザーラ Izara

  男の子 蜥蜴+鼠 ふっくら 僕

ルエイソレット Ruasoretp

  男 翼竜 俺 筋肉質 → 超肥満


 北部ボスの古びた家を、ノガードは裏口からゆっくりと出た。外灯もなく、目の前は真っ暗。まさに彼の心情を表しているかのようだった。

 彼はずっと後悔していた。竜と筋肉の力を過信し過ぎていた——そして、あの脂肪まみれのルエイソレットを侮り過ぎていた。

 少しだけ、彼は自らを戒めるように、暗い裏道で佇んだ。だがこのままいてもどうも変わらないと、ようやく道を歩き始めた。

 その時だった。まるで、つい先ほどまで闇の中に隠れていたかのように、あの謎の商品を売る老鼠の姿が、脇からぬぅっと現れた。ノガードはつい今しがたの出来事に、咄嗟に飛び下がって警戒した。

「儂じゃよ」

「あ、ああ、なんだ爺さんか……」

「どうかしたのかの?」

「いんや、なんでもない、気にするな」

 しかし、先へ行こうとする彼に、老鼠は待ったをかけた。

「待ちなされ。本の少し前に言ったばかりじゃろ」

「言ったって、何をだ?」

「儂の薬じゃよ。絶対お主は、それらを必要になると、儂は予測していたのじゃ」

 ノガードは、並べられた薬(といっても二つだけだが)を見た。体がゴムのようになる薬と、何でも見透かせるようになる薬だ。

「どうじゃ、お主には、この見透かせる薬が必要じゃなかろう?」

「なんだって?」と図星だったノガードは、思わず聞き返した。今、本当に自分の体の中に爆弾があるのか、もしかしたら単なる出任せではないのか——それを証明するために、その薬が欲しいと思ったのだ。確かにルエイソレットは残酷非道に見える。だが単なる脅しで、体の中にはなんの変哲もないものを入れた可能性もある。

「お代は前と同じでいらんぞ。ほれ、飲んで見たらどうじゃ?」

 前のこともあって、ある程度老鼠に信用を寄せていたノガードは、差し出された薬を手に取った。

 本当は、こんなしがない爺さんの作品になど目もくれたくもない。だが前回、東部で彼の作った薬のおかげで、一切の掠り傷も負わずに敵を殺すことが出来た。それは紛れもない事実であり、そして今回も、この薬で助けられると思うと、喉から手が出るほど欲しくなったのだ。

 そしてノガードは、ゆっくりと、受け取った薬を飲んだ。

「……それで、どうすればいい?」

「見るんじゃよ、見たい物を。集中するんじゃ」

 ノガードは、ゆっくりと頭をたらし、鳩尾辺りを見透かすように、そこを凝視した。最初は、ただ目に、自分の逞しい胸筋と割れた腹筋が映っているだけだった。

 しかし、次の瞬間。彼の視界には、開けた自身の体が現れたのだ。そしてそのまま焦点を合わせ続けると、その部分が、まるでメスで切り開かれるように展開され、徐々に自身の胸中を覗いていったのだ。

 皮膚から筋肉や脂肪、そして鳩尾にある骨を通過すると、やがて彼の視野は、胃袋の中に到達した。そしてそこには、ルエイソレットが持っていた「キューブリック」らしき四角い爆弾が、胃袋に引っ付いていた。

 ノガードは更に意識を集中させた。すると今度はキューブリックが、まるで電子工具で穴を開けられてたかのように、中の構造を露にし出した。

 その刹那、彼は鼻息を漏らして、集中を途切れさせた。「くそ、動いてやがる……」と、どうやら彼は、キューブリックの中に在る回路が稼動していることを知り、そして火薬も含まれていることを知ったようだ。

「どうやら、何かを見つけたようじゃの」

「ああ、爆弾さ、全く……」

 しかしノガードは、すっかり気付かないでいた。自分の体の中に爆弾があることを、見ず知らずに近い相手に教えてしまったことを。そしてそれを、老鼠の「ほほう?」という疑問で、ようやく悟ったのだ。

「い、いや、今の話は聞かなかったことにしてくれ」

「何を言っとる。そんな一大事なら、儂も手伝うぞい」

「手伝うって爺さん。あんたに何が出来るんだ?」

「何でも出来る。じゃから儂は、おぬしを助けられたんじゃ」

 そう言って老鼠は、最後に残った薬——体がゴムのようになる薬を、ノガードに差し出した。

「……これを、どうしろっていうんだ?」

「言ったじゃろ。お主はきっと、儂の薬が必要になると。つまりこの薬も、お主には必要なんじゃよ」

 ノガードは、老鼠の言ったことを心の中で繰り返しながら、とりあえず薬を手に取った。

(必要だって? しかし体がゴムになったって、手が伸びたりするあれだろ? そんなゲームのキャラクターみたいになったところで、一体何になるっていうんだ?)

「お主は、頭が切れると評判なようじゃが、意外とそうでもなさそうじゃの」

「なんだと?」

「ゴムになるんじゃよ。お主の体の全身が、ゴムのようになるんじゃ」

「ゴム……全身がか……!」

 そこでようやく、ノガードは理解した。そもそも薬自体が、夢現(=ゆめうつつ)になってしまうような代物なので、それを前提として話を進めることが、彼にとって非現実であり、そこから生まれる考えは、彼がそこにいたる前に、脳が事前に「非現実的」として消去してしまっていたのだ。

 だがそれを認めると、この薬の効果は今の状況に覿面だと分かった。

「そうか、これを飲めば爆発しても俺はしなない。ただ漫画のように、体が膨らむだけで済むのか」

「そういうことじゃ。あとは、薬が切れるまでの間に、どうやって爆弾を爆発させるかじゃ」

 その問題は、既にノガードは解決済みだった。

 しかしながらふと、彼は思い返した。そもそもなんで、こんなに都合よくこの老鼠は、薬を売っているのだろうか。まさか、何かを企んでいるのでは——

「今更ながら、疑っているようじゃな?」

「——! そ、そりゃあ、当たり前だろ。こんなに都合よく事が運ぶわけがない。まさか爺さん、何か仕組んでないか?」

「ふぉ! そんなわけはなかろう。儂はただ、お主にこのグレース・タウンを統治してもらいたいだけなんじゃ」

「統治、だって?」

「昔は良かった。じゃがルエイソレットが来てからは、何かがおかしいのじゃ」

「あいつは頭がいかれてるんだ。体に爆弾をいれるなんて、常人の考える沙汰じゃない」

「そうかのう……儂が思うに、何か裏がありそうじゃが」

「ふんっ、そんなもの、あるとは思わないな」

「どうしてじゃ? お主は奴の何を知っておる?」

「知らないが、大体グレース・タウンを統括してる奴に何の裏がある? 第一ここは更生施設なんだ、そんなところであんな飽満な生活を送れてるってことは、充分過ぎるほど満足している証じゃないか。それ以上何を望む?」

「更生施設じゃから、ってことも考えられるぞい? それに奴は、決して望んでいるわけじゃないかも知れないぞい?」

「はぁー、分かった分かった。とりあえず薬は有難く貰っておく。ありがとな、爺さん」

「気にすることはない。またいつか、会えるといいのう」

「そうだな」

 そしてノガードは、裏道を去って行った。老鼠も、薬を乗せていたあの段ボール箱を畳むと、彼とは逆の方向に歩いて姿を暗闇の中に消した。


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