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 雄鷹のフランジュは、五年ぶりにこのアニーモに戻って来ました。アニモニア空港を降り立ち、外に出ると、彼はやはり母国の空気が一番だと感じ、大きく深呼吸をしました。

「おーぅい、フランジュー!」

 右から誰かが呼ぶ声が聞こえたので、そちらの方を振り返るフランジュ。しかしそこにいるのは、空港から出て来た乗客や、アニーモ独特の肥満体が道を歩いているだけでした。

 しかしそこに、周りのどの通行人たちよりも巨体な雄蜥蜴が、作業着を着てこちらに向かって来たのです。

「お、ブロームか!?」

「そうそう、久しぶりだなぁ」

 フランジュが驚くのも無理はありません。何せ五年前、一四〇キロでアニモニア高校に合格したブロームは、今では父を超えて体重が三〇〇キロに達していたのです。つまり五年間の間で、ブロームの体重は倍以上に膨れ上がったのです。

 そこまでいくと、彼の歩き方も超肥満体独特の、腕を脇に乗せるように斜めにしながら、えっほえっほとその巨体をゆする、大仰な仕草になっていました。

「びっくりだなぁ。たったの五年でこうも変わるかぁ?」

「ははは、なんてったって努力したからな。おかげで今じゃ体重も三二〇キロだ。だがまだまだこれからだな」そういってブロームは、自慢の突き出たお腹をボンと叩きました。少し距離感を間違えれば、その腹がフランジュに当たってしまうほど膨れてはいますが、これは作業着が垂れ下がったお腹を持ちあげているだけなのです。

 三〇〇という巨漢になれば、お腹はその丸さを保つより、重力に負けて垂れ下がるのです。だからブロームに関しても、作業着を脱いだ瞬間、彼のお腹は膝までだらりと垂れ下がるのです。

「それにしても、あれだけ体を維持していたお前が、どうしてそんなにぶっくらと?」

 フランジュは苦笑いをもらします。実はフランジュもフランジュで、昔のブローム以上に太っていたのです。当時のフランジュは彼の半分以下だったのにも関わらず。

 鷹のような勇ましい顔は一見すると残っているが、頬の辺りがかなりふっくらとして、首周りには完全に脂肪のマフラーが出来上がり、そのお腹は、内部から風船を膨らましたかのように丸く、鳥族独特の鳥足がそれに押されて股が閉じなくなっていたのです。

「いや、さ。やっぱ類を呼ぶっていうか、留学先の所にいったらデブばっかり友達になっちゃって」

「ふははは! そりゃ面白い。それで周りにつられたってわけか」

「あ、はは、まあそういうことだな。おかげで今じゃ体重は一六〇キロ——お前とおんなじように、五年前の倍になったな。そのせいでもう、滑空すら出来なくなったよ」

「いいじゃないか、その体の方が俺はいいと思うぞ?」

「そういって貰えると、やっぱアニーモが一番だなって思えるな」

「そうだろそうだろ」

 するとここで、ブロームが何かを思い出したように、こう言いました。

「そうだ! フランジュ、五年前に約束したこと、覚えてるか?」

「約束? そんなもん、したっけ?」

「まあ固く言ったわけじゃないんだが。お前ん家に行かせてくれってやつだ」

「ああ、ああ、なるほど」

「どうしたんだ、何か悪いことでも?」

「そ、そうじゃないんだが……」

「……ずっと昔からさ、お前は自宅に関することはいっつもそうだよな。養子であることに何か問題があるのか、それとも同じ蜥蜴だからか?」

「いや、そうじゃないんだが」

「ならさ、教えてくれよ。俺達ももう二十歳、成人なんだしさ。恥ずかしいことじゃないんだろ?」

「そうだなぁ……ここでなら、寧ろ誇れることなんだろうが」

「どういう意味だ?」

 少しため息をつき、時間を空けてフランジュは、ブロームに教えました。義姉について。

「なーるほどな。確かに高校へも行かず、一日中食っちゃ寝するのは、アニーモ文化に首を傾げるお前にとっては悩みだよな」

「ああ。雌は結婚したら、家に閉じ篭ってぶくぶくと太ることが余儀なくされるって聞いて、どうもなぁ……」

「だけどそれがここじゃ普通だ。そろそろそれを受け入れたらどうだ」

「正直、それを受け入れてなかったら、どうして自分がここまで太るんだ?」

 ブロームは大笑い。確かにそれを避けようものなら、自分自身も身を呈して、体重を最低限維持していたはずです。しかしフランジュは、見てのとおり見事な太りっぷりを見せています。

「やっぱアニーモの文化は良いな。独特性もあるが、何より偏見がない」

「外国じゃあ肥満体に偏見があるっていうからな」

「そうそう。自分の所もそうだった。だからデブはデブで結集してたんだろう。だがここはみんなもともと太ってるし、その心配は一切ない。気が楽でこの国の方がやっぱりいいな」

「その言葉が聞けるのを、どれほど俺は待ち侘びたことか——うっし、それじゃあさフランジュ、お前ん家に案内してくれよ」

 フランジュは快く頷きました。そしてブロームを引き連れ、二人は五年間の空白を埋めるように、談笑しながら移動——勿論乗り物移動で——を満喫しました。


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