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 アニモニア高校の合格発表日。雄蜥蜴ブロームは悠々と、それが行なわれているアニモニア高校にやって来ました。

彼は自信に満ちていました。最後の中学三年からのスパートにより、なんと彼の体重は一年で四〇キロも増え、今では一四〇キロも体重があり、合格基準のひとつである一二〇を結構上回ったからです。

 勿論知識も問われる高校です。ブロームはそれほど頭はよくありませんでしたが、しかし自信を持ってこの戦場にやって来たのです。

「俺は……252番……」

 240,241,245,250,253——!!

「253!?」

 ブロームは慌てました。もう一度ゆっくり、番号を見直します。

「245,250、252——あれ……あ、ははは。なんだ俺、3と2を見間違えただけか。堂々としてたつもりだが、内心はかなり緊張してたんだな」

 思わず彼は自分を笑ってしまいます。しかし合格したのは間違いない事実、とても嬉しかったです。

 そんな中、ふと彼はあたりを見回します。確かに彼のように、この合格発表場所では、多くの肥満者達がつどっています。しかしながら、そんな彼らをもしのぐ存在が、このアニーモ屈指の高校にはあるはずです。

 だが探しても探しても、その姿は見当たりません。ここにいれば、絶対に誰もの注意を引く「あいつ」の存在が。

 中学三年の時のように遅れてくるんだなと、ブロームは考え、この場をあとにしました。

「受かったって!? そりゃ良かったじゃないか、努力の甲斐があったってものだ」

 電話の向こうで、友人の雄鷹フランジュがお祝いの言葉を述べます。ブロームも嬉しく返します。

「サンキュー」

「いやいや、こっちもありがとうさ。留学日の今日に合格がわかるなんて、安心したよ」

「そうだな。そういえば今日やつが来なかったんだが——やっぱり遅刻だろうな」

「アクロか……そういえばあいつ、中学校の卒業式にもこなかったよな。変わりに父親が来てたし」

「あっ、そうだったか?」

「ああ。最後に見たのは——一月だったな。相変わらず教室の授業中にむしゃむしゃ食ってたのを覚えてる」

「確かに。授業中ですら食事をやめないのは、さすがにいらっと来たな」

「でもそれ以来だな、見てないのは」

「だがあいつなら、余裕でアニモニア高校に受かるだろう。俺も努力して奴を負かさないとな」

「あ、ああ。まあ、体には気をつけろよ」とフランジュは、いつものように曖昧な返事をします。しかしブロームはそんなの気にしません。

「おう。それじゃまた、いつかな」

「ああ。せめて五年後に会えたらいいな」

「そうだな。その時こそは、お前ん家に行かせてくれよな」

「はは……ま、まあそうだな」

「んじゃ、またな」

「ああ」

 そしてブロームは電話を切りました。少しそこで立ち尽くすと、下を見て、自らの立派の突き出たお腹を優しくなでました。

 既に足元は、膨れた腹部で見えなくなりつつあり、股関節にまで垂れ下がったその腹に、ブロームは高校に入ってからも、もっともっと太ってやろうと決意しました。

 フランジュは、既に支度を整え、家の外にいました。

「それじゃフンラジュ、頑張ってね」

「立派に太ってはいないが、せめて立派な存在にはなれよ」

 義理の父と母に見送られ、フランジュは深々とお辞儀します。

「それじゃ、行って来ます」

 そしてフランジュは、用意されたトラックに乗り込んで、アニモニア空港へと向かいました。

 家族総出で見送っているかとおもいきや、肝心の姉はいませんでした。蜥蜴の姉は、今日も自室に篭って身を肥やしていたのです。

 そんな不安を抱えつつ、そんな不安から逃れられたことで、フランジュの気持ちは少しだけ軽くなっていました。

 アニモニア高校の入学式。さすがに制服ばかしは父親譲りが出来ないので、ブロームはあえて大き目の、7Lサイズの制服を着ていました。おかげでシャツの袖は手のひらにまで達し、ベルトは締めなければズボンが落ちてしまうほどでしたが、逆にこれは彼にとって目標を与えていました。そう、高校一年の間に、この制服を着れなくなるまで太るという目標が。

 そんな決意を胸に秘めながら、パイプ椅子に座って校長の入学祝辞の言葉を聞いている彼は、ちらりとあたりを一瞥しました。

 彼はあえて、一番後ろの席についてたのですが、そこから全生徒を見回しても、アクロと後姿がありませんでした。

「……というわけで、今日もここアニモニア高校では、誰一人として欠席者がいない中、入学式を迎えることが出来ました。そのことにわたくしは、とても感謝しており、最後に皆様へはこのメッセージを送ろうかと思います。

 目指せアニモニア大学! 但しガバージュはなしでね」

 校長の雑なジョークに、静かに話を聞いていた体育館内の人達は大爆笑。だがブロームだけは、表情を崩しませんでした。

(欠席者ゼロだって? てことは、アクロはここにはいないのか?)

 ブロームは驚きました。あのアクロがここにいないなんて……

 だがそんな考えは、すぐに流すことにしました。今の彼には、父を超えて肥えることが何よりも重要であり、そして行く行くは、尊敬する父のような存在となって、彼を養ってくれた母親に恩返しをしようと、既に先を見据えた考えを持っていたからです。

 アニモニア高校に入ってから、ブロームは安いカロリー食を食べながらも、必死にガバージュを受けて努力して太りました。

 彼の体重は、高校一年で一四〇から一七〇キロへ、二年では二〇〇を突破して、三年を卒業するころには二四〇キロに達しました。

 ここまでくれば、アニモニア大学は余裕で入れます。しかしながら、アクロがいない高校生活には、不思議と(=うろ)があったのです。敵対するものがいなければ、争うこともないからかも知れません。

 そんなこともあってか、彼は大学には入りませんでした。金銭面も考慮してましたが、何よりアクロがいないことで、彼には一途になることがなくなってしまったからです。そして何より、子供染みた躍起が、大人になったことで薄れた影響もあるかもしれません。それほど彼は、成長したともいえます。

 高校を卒業したブロームは、小さな工場(=こうば)に務めることにしました。父親と同じような職場で、父の背中を負うことにしたのです。そして目指すは体重三〇〇キロ。もはや二四〇にも達していれば、そこまでいくのもそう遠くはありませんでした。

 ブロームが高校を卒業して二年後。彼は夢にまでみた三〇〇キロという体重をついに突破しました。そのおかげか、彼は小さな工場で社長という座に就くことになり、正に全てにおいて、父を勝ることになったのです。母も、立派に育って息子を誇り以上に思いました。


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