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順番が逆になりましたが、5です。

西館グループ: 主人公 _ 僕

川獺 雄 俺

鮫 雌 私

東館グループ: 兎 雌 自分

蛙 _ わたくし

鷹 雄 おいら


「つ、ついにやったぞぉ――」と、川獺が両腕を掲げて、巨体を背もたれに預けながら言った。同時に、豪快なげっぷがもれ、食音だけが響くこの大食堂に、新たな音を付加させた。

「ごめん……本当に、ありがとう」僕は川獺にお礼を言った。食が細いため、徐々に増える食事量にも耐えられず、いつものことであったが、今日は特に、川獺が辛辣な表情を浮かべていたので、心の底から言った。

 それでも、僕のお腹は、見事なまでにぽっこりとしていた。たったの一週間、しかし一昼夜食べ続けるだけで、ここまで変わるのかと、僕は驚いた。今ではもう、お腹を凹ませて肋骨を見せることなど出来ず、そもそも凹ますことより、出すことの方が得意になっていた。

「もう、あんたも、本当にもう少し、うっぷ、がんばってよねぇ……」

 鮫が、辛そうな表情を浮かべて言った。彼女もまた、白い部分のお腹が一週間でだいぶ迫りだし、ぬいぐるみのような形になっていた。

「つ、次はがんばるよ」

「それにしても、もうそろそろ時間だな。相手のチームはどうだろうな」

 川獺が、まず残り時間を見た。そこには「一時間」と表示されていた。

 一見長そうに見える数字だが、隙間のない胃袋に、更なる料理を詰め込むには、逆に少なすぎる時間だった。

 そして相手のチームはというと、僕と同じで、食が細めの鷹は、かなり苦悶の表情を浮かべていた。お腹が膨れ続けて一週間。もう満腹と疲労のオンパレードに、毛繕いする余裕がないのだろう、全身の羽毛がぼさぼさになっていた。

 それは、リーダー的存在の相手グループの兎もどうようだった。しかし彼女の場合、もともとふっくら気味だったので、食は日に日に増え続けており、結果今、雌らしくない大きな開脚で椅子に腰を据え、突き出たお腹を前に垂らしていた。たったの一週間でこの変貌ぶり――やはりすごい。

 だが、それに関しては、僕のグループの川獺も負けてはいない。もともと太鼓腹をかかえた固太り体型であったが、それが今じゃ、単なる太った生きものとして、だらりとパンヌス(=Panniculus)のようなお腹をたれ下げていたのだ。しかも、筋骨隆々とはいかないまでも、がっしりとしていた四肢の筋肉は完全に脂肪で覆われ、二の腕なんかはぷるんぷるんとしていた。

 だから、彼が両腕を上げて喜んだ時も、まず先にそこに目がいってしまったのだ。

 しかしながら、計六人の中で、一番といえばやはり相手グループの蛙だった。昔の童話にあったように、まるで限界を知らないような腹部は、風船のように、どんどんと膨れていったのだ。僕のグループは鯨や固太りの川獺など、もともと大きめな体格が揃っていて有利かと思えても、その穴を全て向こうの蛙が埋めていた。

 そして今日も、また相手が遅れをとっていたが、兎が残したものを(鷹は僕と同じで少食なので、比較対照にはいれない)すべて蛙が平らげた。

 体色の緑と腹部の白。その腹部だけが、異様に膨れて、兎と同じように足を大々に広げて、そのお腹で視界がさえぎられないよう、どうにか位置を調整していた。

「畜生、これでまた、明日も試合かよ」と川獺がしたうちをした。

「これ以上太ったら、いくら一兆円が手に入っても、本当にどうにかなるのかしら。むしろ余計に太りそうで怖いわ」

「だな。ある程度なら、金さえあれば体型を直せると思ったが――この体じゃあな」と川獺が、だるんだるんのお腹を叩いて、そして左右にゆっさゆっさと揺らして見た。

「ちょっと止めてよ、醜い」

「はは、でもさ、大時計の振り子みたいでおもれえな」

 はあー、とため息をもらす僕。とうとう彼の頭がおかしくなりはじめたのかなと、一番僕達のグループで頼りになる川獺だけに落胆した。これじゃあ単なる、超肥満者を認めて許したようなものじゃないかと。

 だが鮫も、少しそれに近づいていたようだ。彼の冗談に笑い声をもらしたのだ。

 その時だった。試合が終わったのをどこかで見ていたのか、中央ステージの台が上がり、そしてあの紳士的な猫が登場した。

「お疲れ様です。すばらしいですね、一週間もサドンデスが続くとは、予想外でした。しかしながら、明日にはまた量が増えており、この様子だと、決着がつきそうですね」

 その言葉に、川獺が忍び笑いをもらした。ここ二日は、僕のグループが先に完食をしている。だから川獺は、勝利を確信していたのだ。

「それでは、また明日もがんばってください。それでは」

 そして猫は、登場してすぐに、再びステージから降りて姿を消した。それを見届けた相手グループは、限界の腹を休めるように、その場にとどまった。

 僕のグループも今日のゲームがサドンデスに持ち込まれたとは言え、制限時間がくるまではここで休んだ。だがそれからは、相手グループと違っていた。

「ふう、なんだかまた、腹が減ってきたな」と川獺

「本当。もう、このゲームをやってから、なんだかお腹が空くことが多くなったわね」

「そりゃあ、こんだけ食えば、胃袋は膨らむからな。でもま、食事は全部無料だし、いいじゃないか」

「そうね。それじゃあいつもどおり、食堂に寄る?」

 鮫の問いに、笑顔でうなずく川獺。やはりこの二人は、かなり食欲の魔にとりつかれているようだ。

「あんたも来る?」と鮫が、僕に顔を向けた。反射的に僕は首を横に振った。

「まっ、あんたならしかたないわね。それじゃ、いきましょっか」

 彼女は立ち上がると、川獺も、どっっっこいしょっと、と立ち上がるのにかなりの踏ん張りをいれながら、どうにか重い体を持ち上げた。そしてふぅーっとため息をもらすと同時に、脱力した筋肉と一緒に脂肪が動いて、特に腹部の脂肪が、ゆさゆさと揺れた。いかに彼の体に脂肪が身についたか、目に見えて分かった。

 そして二人は、のっしのっしと巨体をゆすりながら、食堂へと向かった。僕は、相手グループと同じく、ここでさらに食休みをしてから、この場を立ち去って、そのまま部屋へと戻ることにした。

 大食堂を出る際、僕は、相手グループが何やらこそこそと、会議をしていることに気がついた。声は聞き取れなかったが、やはりこのままでは敗北すると分かっているのだろう、かなり必死な顔つきであったが、僕はそのようすを、それほど不安に思わないまま大食堂を出た。

 増量した体の重さを、たったの一日で新鮮に感じながら、大食堂を出た僕は、部屋に戻る道中、ちらりと右の通路の先にある食堂を見た。そこでは川獺と鮫が談笑しながら、料理と飲料水を飲み食いしていた。さすがにかっくらうほどまではできず、締めのいっぱいのラーメン程度に、二人はゆっくりと食事をしながら会話を交わしていた。

 しかしながら、あの試合からたったの一時間で、どこから再びそのいっぱいを食べれる余裕が出て来るのだろうか。

 だが、この光景を見たおかげで、彼ら二人さえいれば、僕のグループは優勝間違いないなと確信できた。僕は早くも、二人に心の底から感謝をしながら、悦喜として自室に戻った。


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