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某所でコメ書いてたら、ふと出て来た言葉に思わず自ら衝動が……

というわけで、また新しい小説ですがどうぞ。あと久々に竜で行きます。


「……デブカフェ?」

 ここの所、色んなカフェが話題だ。メイドカフェもそうだが、ネコカフェなんていう、ネコ触り放題のカフェなんてのがある。しかしデブカフェとは一体——見たところ肥満嗜好(ようはデブ専)用のカフェに見えるが。

「あら、ダンディーな赤竜(=せきりゅう)さん、こんにちは」

 店から、随分と豊満な女の紫竜(=しりゅう)が、店名入りのエプロンを着用して出て来た。入り口は他店より倍近く大きいのに、それでも丁度良く見えてしまうほど肉付いていた。これなら彼が少し翼を広げても、悠々と入れそうだ。

「この店に興味があるのかしら?」

「ま、まあ、少し気になってな」

「なら一度、入ってみたらいいわ。安心して、風俗とかじゃないから」

「うーん、しかしなあ」

「それにカフェだから、お値段もお手頃よ」

「値段って、なんのだ?」

「料理に決まってるじゃない。まさか、私のことかと思った?」

 うふふと笑う紫竜。近付くと熱気が凄そうだが、しかし意外と可愛い。

 ふと、彼女の横にメニューがかかっているのを発見した。それらを見ると、少し普通のカフェよりは高いが、どうやら怪しい店ではなさそうだ。

「……そうだな。少し寄っていっても、悪くはなさそうだ」

「ありがとうございます。それじゃ、一名様ご案内」

 彼女は店の中へと引き返し、彼はそのあとに付いていった。

 まず、扉を抜けると、階段を下った。幅は広く、蹴上げも彼女向けなのか低かったが、その分少し、下る時間が長かった。

 やがてもう一枚の扉を抜けると、そこは——

「ふ、普通だな」

 逆に吃驚した彼。ここまで深く下りると、何処かの水商売かレジスタンスのアジトかと思ったが、普通に明るい広い店内のカフェで、お客も結構入っていた。ただ唯一、エプロンを掛けた店員は皆、彼女並みに太っていた。

「さっ、お客さん、あちらの席へ」

 案内されたのは、厨房とは反対側の店の中で一番奥の席。通路がかなり幅広だなと思いきや、テーブルや座席も店員サイズにでかかった。

 少し座り心地の悪そうに席に着いた彼は、とりあえずおしぼりで手を拭いた。

「お水です。それとこちらが、先付けになります」

「さきづけ?」

「所謂お通しですね。けどここは居酒屋じゃないんで、そういう風に言っています」

「なるほど……」

 そして彼は、立ち去る給仕、女緑竜(=りょくりゅう)の後ろを見つめ、揺れる肉を眺めたあと、先付けの料理に目を移した。

 普通、お通しならば、軽く摘める代物のはずだ。しかしここでは、どうやらポテトフライと唐揚げのセットが先付けのようだ。しかも結構量があって、普通のカフェならこれだけでも充分だった。

(ん、待てよ。てことはここに入った時点で、既に幾らか取られてるわけか。しまった、その値段は見ていなかったな……)

 もしかしてその部分で大きくお金を取られるのでは、と心配した彼は、先付けのことも考慮して軽い料理を頼む際、給仕にそのことを尋ねることにした。

 テーブルには、ボタンが置かれている。どうやらこれで呼ぶらしい。それをポチっと押すと、レストランとかでよく聞く「ピンポーン」という音が鳴り、天井から吊るされた、番号が列挙された電子掲示板の30番が灯った。ボタンを今一度見てみると、そこには30という数字が書かれていた。

 少しして、彼の元に、今日見た中で一番でかい青竜(=せいりゅう)の女がやって来た。通路一杯に広がる体は、お客のテーブルにある料理を倒してしまいそうだ——が、ここの店はそれを考慮しているのか、テーブルの通路側は、高めの壁で守られていた。

「いらっしゃい、ご注文は?」

「あさりスープを一つ。それで質問なんだが、もしかしてこの店は、入って来た時に基本料金みたいなものを取られるのかい?」

「はい。500円いただくことになってます」

 500円……まあ悪くはないだろうが、それだとカフェというより、先付けというお通しもあることだし、居酒屋みたいだ。

「その500円というのは、お通し、というか先付けの料金?」

「それもありますが、サービス料金も含んでいます。メニューの裏側をご覧になりましたか?」

「あ、まだ見てなかったな。悪い」

「実はこの店は、デブカフェということで、ネコカフェのように触れるんです」

「さ、触れる? 何をだ?」

「私たち店員をですよ。勿論風俗じゃないんで、そこまでの範囲はNGですけどね」

「んん、なんだか矛盾してるような気もするが……どういうことなんだ?」

「見ての通り、私たち店員はみんな脂肪をたっぷりと身に付けています。ある程度脂肪を蓄えると、動く度にそこが揺れます。動かなくても、そこに温もりや柔らかさといった感覚があります。

 そういった、太った体を触って感触を楽しめるのが、このデブカフェなんです」

 なるほど、と彼は頷いた。見れば店員は女性だけではなく、男性の店員もいた。当然のことながら、それはそれは皆大層太っており、彼らが向かうのは、女性客が座るテーブルだった。

 なら男女混合の場合はどうなのか。その場合は単純に、女と男二人の店員が同時にやってくるようだ。現に目の前のグループがそうだったのだ。

「少し興味が沸いて来たな。だがいつ触れるんだ?」

「いつでも大丈夫ですよ。こうやって話している時も、それに料理を運んでいる時だって、いつでも構いません」

「そ、それはさすがにまずくないか?」

「大丈夫です。ここにいる店員達は、みんなある条件を満たしています。それは、触られた感触が分からないほど太っていること。ですからいつ触っても、お客様にはその感覚を充分に味わって貰えますが、触られた私達の方は、それほど気にならないんです」

 なるほど、だから店員はみな、こんな普通の肥満以上に太ってるわけか。

「……分かった。てことは今、少し触らせて貰ってもいいのかい?」

「どうぞどうぞ。何ならエプロンを持ち上げましょうか?」

「い、いや、まだいい。そのまま触ってみるよ」

 そして彼は、ゆっくりと、青竜のお腹をエプロンの上からタッチした。

 ——ぽよん。微かに揺れるお肉。その柔らかさは、ゼリーとまではいかないものの、冷たさのない温もったスライムのようで、非常に心地が良かった。しかも彼女は、その様子を恬然(=てんぜん)と見守っていた。

「あっ……」と彼は、このカフェの存在意義を知った。肥満というのは世間体として良好的には捉えられないが、いざその人物の体を触ってみれば、想像以上に気持ちが良いのだ。なるほど、このデブカフェというのは想像以上に悪くはないぞ。

「もう、宜しいんですか?」

「ああ。だがかなり気持ち良かった。これははまりそうだ」

「ありがとうございます。では、他の店員の体も触って見てはいかがでしょう。太り方は十人十色、種族的に肌の感触も違います。それに私達は日々、太る努力を続けています。日に日に変わる体で、お客様を飽きさせないようにしていますから」

「分かった。色々とありがとう」

「どういたしまして」

 そう言って青竜は、厨房へと引き返した。

 しばらくして、彼はやって来たあさりスープを堪能し、先付けもちゃんと完食して水を飲み干すと、そのままレジに向かった。

 レジにいたのは、これまたぶっくらとした翼竜。脇腹も大きくなり過ぎ、両手を横に伸ばしても、飛膜が広がらなくなっていた。

「お会計は、丁度1000円になります。会員証はお持ちですか?」

「いや、持ってない。幾らぐらいかかるんだい?」

「無料ですよ。お作りになりますか?」

「タダに越したことはないからな、頼む」

 そして彼は、名前と電話番号、そして住所を記した。

デスモア(=Dethmor)様ですね。会員登録ありがとうございます。これからも是非、当店のデブカフェをご利用ください」

「ああ」と頷いた赤竜のデスモアは、店を退店し、再び段差が低い階段を普通の店より長めに上り、地上へと出た。そして新しく作ったデブカフェ会員証を、周りに見せるのが恥ずかしいのか、財布の一番奥の方にしまった。


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