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太膨系小説

"「残り物を処分します」 from 食料廃棄工場"

by Delta in 2006-11-21

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飽食の時代となった現在

食料を求める時代から、食料を捨てる時代へと変わってしまった

今では毎年何万トンという食料が廃棄処分されている

その結果、当然のように自然の環境は悪化していった

 

「……ぉーい、ソル~! ここ、ここ!」

遠くで誰かが手を振っている……

――マカーネイだ!

彼女はいつも遅刻するのに、今回は珍しく時間を守っていた

「あれぇ? 珍しいね、いつもは絶対に遅刻するのに」

「もぅ、今回は特別! なんてったって初のスパイの仕事だもの!」

「そんなにスパイが好きなの?」

「それはもう、小さい頃にスパイ映画見て、それからもうずっと好き♪」

「ふ~ん」

とりあえず軽い会話を交わしてから、僕達竜族の独特の挨拶

翼同士を絡め合う行為を行った

「そういえば、今回はどういう仕事か聞いた?」

「今回はね……あっ、あれよあれ!」

そういって彼女が指差した先は、街のシンボルである巨大な電子看板だった

その電子看板にはこう表示されていた

 

  食料は余っていませんか?

  食料を捨てることは自然の環境を壊すことと同じです

  それは昔の人間達がゴミを捨てて環境を壊したのと同じこと

  そこで"食料廃棄工場"(Food Repeal Factory) FRFを利用しませんか?

  FRFでは、余った食料を無料で回収させていただきます

  もうこれで環境を壊すことはありません

  もう食料を捨てるためにお金を払う必要もありません

  ぜひともFRFを利用しましょう!

 

「……どういうこと?」

「つまりこのFRFに潜入して内部調査をするのよ!」

「FRFか、確かに無料で回収って内容は前々から気になっていたけど……」

「そう、これには絶対何か裏があるわ。どんなにがんばっても無料なんて絶対ありえないもの」

「なるほどね。じゃあマカーネイ、これから僕達はどうするの?」

「とりあえず準備はして来たわ、はいこれ」

そう言って彼女が手渡してきたのは、様々な精密機械だった

 

  人体透過システム腕時計 Body Transparent System Watch

  空間処理機器      Space Process Machine

  超小型記録媒体     Ultra Reduced Record Media

  <ライブラリ>通信機械 "Library" Communication Automaton

 

「……らいぶらり、つうしんきかい?」

「あーこれね、これは<ライブラリ>との接続を可能にしてくれる機械よ」

「???」

「……<ライブラリ>のこと知らない?」

僕は頷いた

「<ライブラリ>っていうのは、この世界全てのことについての情報が組みこまれた

 超巨大な記憶装置のこと。ここから得られない情報はほぼないと言ってもいいわ」

「そんなすごいものがあったんだね」

「ええ。そのぐらいのことは知っておきなさい」

そう言ってる間に、彼女の方は準備が出来てしまった

「早くしてよ、私は早く仕事に付きたいんだから」

彼女が遅刻しなかったことは珍しかったけど

こんなにも急かす彼女もまた珍しい

よほどスパイに憧れていたのだろう

僕はさっさと準備を整え、FRFへと向かっていった

 

出発してから数時間後、FRFの入り口付近にまで辿り着いた

だがそこには、とても巨大な電磁波バリアが貼られており

工場の中に入ることは出来なかった

「さてと、これからどうする?」

「そうね、とりあえず透過システムをオンにして」

「わかった」

僕は腕時計についているボタンを押した

すると僕の体は徐々に薄らいでいき、ついには全く見えなくなってしまった

「……あれ? マカーネイ、どこ?」

「全く……グループボタンを押しなさい」

「ど、どれ?」

僕の体は全くの透明、もちろん腕時計も見えないので

彼女に言われたボタンの位置が全く分からなかった

慌てふためいていると、いきなり目の前に彼女の姿が現れた

「うわ!」

「ちゃんと全部教えるべきだったわね……。グループボタンはここ

 これを押すと、同じグループIDを持つもの同士のみは姿が見えるようになるわ」

「……うん、わかった」

「じゃあ、さっさと行くわよ」

そういって彼女は、空間処理機器を使った

すると目の前に、ぽっかりと穴が空いてしまった

「ここを通れば、バリアには触れずに中に入れるわ」

そういって彼女は、ぽっかりと空いた穴へと入っていった

(男である僕が女の人にひっぱられるなんて、なんかなぁ……)

そう考えながら、僕も彼女に次いで空いた穴へと入っていった

 

中はとても広かった

というより、何もない、というべきなのかもしれない

「何よこれ……工場なのに何もないじゃない」

「どういうことだろう? ここじゃないのかな?」

「いえ、この空間処理機器に表示されている地図には、ここ以外部屋はないわ」

(……ぅぁぁ……)

「!!」

どこからか、とても低い声がこの部屋に響き渡った

部屋に反響効果があるせいで、その声はいっそう恐怖を増した

「何……何なの、今の声は?」

「その機械には何か表示されていないの?」

「……いえ、何もな……!!」

「どうしたの?」

そういって機械の画面を見てみると、こう表示されていた

 

  生命体の反応有り

  体長 およそ 4m

  体重 およそ 120t

 

      ……

 

「ぇ……4mで120tって……」

「どういうことなのかしら……? 水銀とかそういった重い物質ならともかく

 生命体でこんなに重いことって……」

「……あっ! こういうときは<ライブラリ>で調べてみたら?」

「なるほどね、今調べてみるわ」

 

  <ライブラリ>に接続中……

  ……接続完了

  指定された文字列に関しての情報取得中……

  ……取得完了

  <ライブラリ>より、指定された文字列に関しての返答

 

  ……<ライブラリ>にはそのようなバランスを持った生命体は記録されていません

  ゆえに、その生命体は未発見である

 

「……未発見……」

「……その未発見の生命体が、FRFの裏事情に関係してそうね」

「うん、そうとしか考えられないね」

「これは記録しておくべきだわ。きっとものすごい追加報酬があるかもしれない!」

そういって彼女は、超小型記録媒体を取りだし、それを空間処理機器にセットした

「……これでよしっと。じゃあ早速、未発見の生命体に関して調査するわよ!」

「OK!」

僕達は、表示されている地図を参考にしながら、未発見の生命体の場所へと向かっていった

徐々にその生命体との距離が縮まっていく……

1km、750m、500m……

だが辺りが暗いせいで、これだけ近づいても生命体の姿は確認できなかった

さらに距離を縮めていったそのとき

(がこん!)

僕達の足元にあった床が突然抜け落ちたのだ

「なっ……!」

「きゃぁぁーーー!!」

 

 

 

「う、う~ん……」

僕はゆっくりと目を開けた

上半身を起こし、辺りを見回すと、どうやらここは大きな実験室だということが分かった

「……おはよう。一体どうやって潜りこんだのかは知らないが

 我がFRFに潜入したが最後、お前はここで実験材料になってもらう」

その声に反応して思わず声がした方を振りかえる

しかしそこには誰もいなかった。その変わり、そこにはスピーカーが1台置かれていた

「私はこのFRFの管理人だ。残念だが、君の一生はここで過ごすことになるだろう」

「ど、どういうこと?!」

「お前はFRFに進入した。その罪は重いということだ」

すると突然、奥の方の扉が開き始めた

そこには何やらとても太った竜がいて、僕を見るなりその竜が喋り出した

「……ソル!」

その声はとても低かった。だが僕にはその竜が誰だか分かった

「ま、マカーネイ?!」

「そうよ! 今じゃこんな体になっちゃったけど……」

「一体どうしたの?! 何があったの?!」

「私、このFRFの管理人から色々と話を聞いたんだけど、実はね……」

 

彼女が話すことによると、このFRFは元々研究機関だった

その研究内容は、どのようにして食料の廃棄を無くすかだった

だが、食料の廃棄を無くす方法など全くといっていいほど見つからなかった

そしてある日の会議で、1人の研究員がこう言った

「別に食べればいいことなんだけどねぇ、やっぱ太るのは嫌なのかなぁ」

その時、当時のFRFの責任者が閃いてこう言った

「そうか! なんだ簡単なことじゃないか! 別に食べればいいだけじゃないか!」

「えっ……食べるったって毎年何万トンもの食料を食べることは不可能ですよ!」

「何を言っている……食べれるようにすればいいだけのことじゃないか」

その言葉に一同は唖然とした

が、その後の研究で、生命体の満腹中枢の破壊と、皮膚細胞の強制増殖に成功したことにより

生命体がどんな量でも食料を平らげ、尚且つ胃袋や体が破裂しないことが可能になった

その後、FRFは電子看板に、出発時に見たあの広告を出した

最初は信じられていなかったせいか、食料は殆どFRFには届かなかったが

徐々に噂が噂を呼び、今では全ての廃棄食料がこのFRFに届けられるようになった

 

「そういうことだったのか……」

「そう、だけどこの秘密を知ってしまった以上、ここから出ることは許されないわ」

「ど、どうして?!」

「もしこのことが世間にばれたら、他の業者が研究内容を奪いに来るでしょ」

「別にどうだっていいじゃないか! 僕達は僕達の生活があるんだし」

「生活? だけどそれって本当に幸せなのかしら?」

「えっ……どういうこと……?」

「私達はいつも仕事仕事、そして手に入った給料で生活を買って生きていく。

 だけど何で仕事をしなくちゃいけないの? 娯楽のため? 食料を買うため?

 娯楽なんてお金が無くなったらおしまいじゃない。

 食料を買うためだけに仕事をしてるなんて、なんだか馬鹿馬鹿しいじゃない」

「それはそうだけど……」

「だけどここに来てみたらどう? 仕事をしないでも食べ物はありったけあるわ!

 いつでも食べたい分だけ食べたいものを食べられる。

 こんなに幸せなことってないじゃない!」

「だけど、だけど……」

「……ほら、これを食べてみて」

そういって彼女は大きな体をうまく動かして、僕に弁当箱を渡してきた

その弁当箱は賞味期限がぎりぎり切れていないものなのだが、廃棄処分されたものだった

僕はその弁当箱の蓋を開け、中身を食べ始めた

「……おいしい、おいしいよ、これ!」

「でしょ? こんなにもおいしい物が捨てられるなんてもったいないじゃない。

 だけどここにいれば、そんなことは無いわ。

 さあ、私と一緒にここで暮らしましょう……」

 

 

 

あれから数年後、今では毎年数十万トンの廃棄食料がFRFへと送られてくる

食料生産量は今でも上昇しつづけているが、それにはこんなわけがあった

今の世の中、特殊な機械が発明されたおかげで、半無限の食料生産が、ほぼ無料で可能になった

おかげで各食料会社は、新しい商品を発表するたびに、確実に余るだろうという量を作る

だがそれは、確実に在庫不足を防ぐ唯一の方法であるがゆえに、この方法は変えることは出来ない

さらにその特殊な機械の性能は、年が経つにつれて年々性能が上がっているため

毎年の食料生産量が上昇するのだ

 

さてと、今のFRFの内部ではどうなっているか

それは誰も知らない

ただ一つ言えることは

ソルとマカーネイの2人が、未だに行方不明だということだけだ


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