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Dream World 第1章

 

 

ドリームワールド

それは、某有名会社が発明した異色のゲームだ

ある機械を頭に取り付けることにより

一種の魂のようなものを、別世界へ投射することが出来る

別世界では、自分が望む生き物の姿で暮らすことが出来て

ゲームが終了すると、それまでのデータが保存され、次回のプレイ時に継承される

まさに、夢をゲームにしたような物だ

この異色のゲームはすぐさま人気を呼び、あっという間に世界中に知れ渡った

 

僕の名前は称、ショウだ

普通の大学生で、母親と二人暮らしをしている普通の人間だ

だがたった一つ、普通とは違うところがあった

……実は僕、大の太竜好きなのだ。しかも、ハンパなく太った竜が

最初は、ドラクエで出てくるような太いドラゴンが好きだったのだが

徐々にそれがエスカレートしていき、しまいには

自分がその太った竜になりたいとまで思ってしまっていた

だがそれは、あくまでも夢のまた夢、そう思っていた

 

ある日、僕はドリームワールドというゲームが開発中だと宣伝されているのを発見した

僕はこのゲームなら、自分が誰かも悟られることは無いし

自分が望む、自分がしたい生活をすることが出来ると考えた

僕はそのゲームが発売されるやいなや、すぐさま購入した

もちろん周りでも、多くの人達がそのゲームを購入していた

 

そしてついに、ゲームを始めるときがやってきた

僕は期待に胸を膨らませ、魂を投射する機械を頭に取り付けた

次にスイッチを入れる

その瞬間、僕は失神したかのように目の前が真っ暗になり、体中の力が一気に抜けた

 

しばらくすると、目の前に文字が現れ、それを読む声が聞こえてきた

「”ドリームワールド”で過ごす”あなた”を作ります。以下の質問に、心でお答えください」

お名前 ――オービス

種族  ――竜

体系  ――肥満型

僕はその他もろもろの質問に答えた

そして全部の質問に答え終わると、再び目の前が真っ暗になった

 

 

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Dream World 第2章

 

 

目を覚ますと、僕は見知らぬロビーにいた

周りには他にも多くの生き物たちがいて、しゃべったり、自分の姿を見て喜んでいたりしていた

どうやら、ここがゲームのスタート地点らしい

僕も周りの人達のように、自分の体を見た

腕はやや太く、二の腕が少し弛んでいる

お腹は……予想していたよりも大きくはないが、それなりにぽっこり出ていた

そのため、服を着ていてもお腹が目立つ状態だ

足はある程度確認できた。結構短足なんだなぁ、と、自分が竜になって改めて実感した

 

その後、僕はロビーを後にし、建物の中を歩き回った

そこには市役所や不動産屋やレストランなど、ありとあらゆる店が点在していた

また行く先々で、思い思いの生き物になっている人達がいたが、やはり僕のような太った竜はいなかった

が、ようやく一匹の太竜を見つけた

(この人も、僕と同じ太竜好きなのだろうか?)

話をかけたかったが、僕は自信が持てなかった

少し躊躇っていると、向こうの竜がこっちを振り向いた

「……」

向こうも、無言でこちらを眺めた

だがしばらくすると、向こうの方からこちらへ近づいてきた

「……もしかして、太竜好きか?」

「は、はい!」

良かった、どうやら向こうも太竜好きだったようだ

軽く自己紹介をし、彼は名前をストッキーと名乗った。もちろん本名では無い

そして互いに呼び名を作り、僕はビス、彼はトックとした

トックは、太竜好きの中でもずんぐり体型派で、自身の体もそうなっていた

「良かった……太竜好きがいなかったらどうしようかと思ってた」

「俺もだ。これで二人……いや、二匹になったな。これで少しは自信を持てるな」

「うん」

二人――いや、二匹の太竜が共にいることは、大きな影響力を持つようだ

あれほど見つからなかった太竜好き達が徐々に集まり、今では十数匹になっていた

やはり殆どの人達が、太竜好きであることに羞恥心を持ち、話をかけられないでいたようだ

 

集まった皆の自己紹介が終わったあと、ついにトックが始まりの言葉を述べた

「さてと、じゃあこれからどうする?」

「まず自分達の住むところを探さないといけないに。特に太竜が過ごしやすいような場所だに!」

アンリミット、通称ユミットが言った。彼はちょっと変わった語尾を使うのだ

僕はロビーで歩き回っていたときに見つけた、無料配布の地図をテーブルに広げた

「う~ん……太竜が過ごしやすい場所ってどういうのかな?」

「まず広くないといけないに。それと、簡単に食事が取れる場所だに」

「それに交通の便も良くないとね。太竜は歩くのが辛いわよ」

そう言ったのは、普通の体型の女竜プランパー、通称ラム。彼女も太竜好きなのだ

「じゃあここはどう?」

僕は地図に指を差した

そこはエターナルと呼ばれる住宅街で、一つ一つの家がとても大きい

近くには商店街があり、それも一つ一つがとても大きい

恐らくは多くの客を入れるためのものだろうが、それは太竜にとっても都合が良い

「いいわね! ここにしない?」

「……そうだにね。選ぶとしたら、ここが一番良さそうだに」

「良し、じゃあここに決定だ! 早く行こうぜ、家を早めに確保しておかねぇとな!」

「おーー!」

トックの一声を期に、僕達は鬨の声をあげた

 

 

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Dream World 第3章

 

 

僕達はエターナルに住むことになった

だがやはり、この世界に来た者達も行動が早く、全員分の家を確保は出来なかった

なので、僕とトックとラムがこのエターナルに住むことになり

ユミットと残りの竜達は、エターナルと似た土地を持つ、カリメアに住むことになった

離れ離れになってしまうが、太竜好き仲間として、一ヶ月ごとにロビーで再開するよう誓った

そしてそれぞれが住民票を作り終え、ついに別れのときが来た

「悲しいけど、ここでお別れだに」

「えぇ。また来月に会いましょうね」

「その時、僕達はどうなってるんだろうね?」

「一ヶ月じゃあまり変わらないんじゃねぇのか?」

「分からないわよ。この世界では、現実世界のように病気とか怪我は基本的には無いし

あるのは自分の限界ぐらいだもの。それにこの世界ではお金は必要無いしね」

「……そうだな。ま、結果は来月には分かるさ」

「そうね。じゃあ行きましょうか、新しい人生に向かって」

「うん、じゃあみんな、また!」

「じゃあねー!」

そう言って皆、自分達が住む場所へと向かった

 

僕は、トックとラムと一緒にエターナルへと向かった

エターナルに着くまでの間、僕達は太竜について語り合った

どういうところが好きになったのか、どういった竜が好きなのか、などなど

今まで、それぞれが自分の内に秘めていた全てを解き放った

会話は絶えること無く続き、エターナルに着いてもまだ物足りないぐらいだった

「……そろそろお別れね、って全然近いけど」

「ま、これからもよろしくってところだな」

「じゃあ僕は早めに行くよ。生活のための準備をしないとね」

皆は、それぞれが住む家へと向かった

そして僕が、自分の家へと着いたときだった

 

――全てが……無になった

 

目を開けると、そこはいつもの僕の部屋だった

自分の体を見ると、もちろんいつもの人間だった

(……そうか、時間切れになったのか)

やはりゲームはゲーム、プレイヤーの健康を考え

一日のプレイ時間が制限され、それを越えると自動的に終了する仕組みになっていた

僕は頭から機械を取り外し、再び現実の世界で過ごすことになった

だがその日は、一日中あのゲームのことで頭がいっぱいだった

(早く明日にならないかな~)

おかげで、大学のレポートは全く手付かずだった

だが僕にとってそれは、すでにどうでも良いことになっていた

 

 

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Dream World 第4章

 

 

次の日は土曜日だった

僕は朝っぱらからゲームをプレイすることにした

頭に例の機械を取り付け、ゲームのスイッチを入れた

すると前回のあの不思議な感覚が、再び僕を襲った

 

一時が経ち、僕はゆっくりと目を開けた

目の前には扉があった

(そういえば、前回は家に着いたときに終了したんだっけ?)

僕は目の前の扉を開けた

玄関もそれなりに広かったが、中はさらに広かった

部屋はもちろんのこと、通路もかなり広く作られていて

これなら、かなりの太竜でも不自由は出ないだろう

 

僕はこれからの生活のための必需品を買い揃えることにした

僕は近くの商店街へと赴き、家具屋で必要な家具を注文した。もちろん太竜専用物だ

次に、洋服店で上下をそれぞれ特注サイズで四着ずつ注文した

その後必要なものを買い終えると、僕は飲食店へと向かい、ジャンバラヤを一品注文した

いつもの僕なら、これでお腹いっぱいになるのだが

この世界での僕は全然余裕だった

調子付いた僕は、追加でハンバーグ定食とビッグパフェとケーキ二つを注文した

さすがにここまで食べるとお腹はいっぱいだった

パンパンに張ったお腹をさすりつつ、少し休憩を取った

昔から小食の割には早食いだったので、つい勢いで食べ過ぎてしまったようだ

だがここまで食事を平らげた自分を、僕は心の内で褒め称えた、賞賛した

 

家へと戻ると、さすがはゲームと感じさせる出来事が起きていた

注文した商品は、僕が望んだ位置にしっかりと配置されていた

もちろん注文の際に、僕は配置に関して一切何も言及しなかった

(本当に、これはすごい!)

僕は改めて実感した

その後僕は、一度ゲームを終了させることにした

前回プレイした時のように、中途ハンパに強制終了されたくは無かったからだ

(ゲームの終了方法は……確か、終了したいって強く念じるだったっけな)

僕は「終了したい」と強く念じた

すると、あの無の感覚が再び僕を襲った

 

目を開けると、僕は自分の部屋に戻っていた

するといきなり、お腹がぐぅーと鳴り出した

(……そうか)

あくまでも、満腹だったのゲームの世界での話

現実世界での僕は、朝食抜きで朝から昼までゲームをプレイしていたため

かなりお腹が空いてしまっていた

僕は一階へと降り、母親が作ったやきそばを食べた

やはり現実世界での僕は、この一般的な量のやきそばで十分腹いっぱいだった

 

昼食を食べ終わったあと、僕は再びゲームの世界へと飛び立った

ゲームの世界では、すでに生活する準備が整っていた

後は太竜好き仲間達と共に、それぞれの目標へ向けてプレイ時間を重ねるだけとなった

 

 

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Dream World 第5.0章

 

 

ドリームワールドは、まさに夢のようで、しかし現実に最も近い世界だった

僕達太竜好き仲間は、毎日このゲームを制限時間ギリギリまでプレイした

ラムは、僕達を太竜にする手伝いをしたり、僕達の大きなお腹を触ったり抱いたりし

トックはずんぐり系太竜になるため、食事をバカ食いしつつ、腕と足の筋トレをし

僕はとにかくでっぷり系太竜になるため、一日中限界まで食べまくった

この世界では、肥満による病気が無ければ、お金という概念も無い

おかげで、自分が本当に望んだ姿になるのは時間の問題だけだった

 

ドリームワールドへ参加し始めてから一ヶ月後

この日が初めての、太竜好き仲間達との月に一度の再会日だ

一ヶ月前にラムが言ったように、この世界にあるのは自分の限界のみだった

そのため、たった一ヶ月という期間でも、僕とトックは前よりかなりお腹が大きくなっていた

僕達は、久々に再会する太竜好き仲間が一体どうなっているのか、楽しみながら待った

しばらくすると、見た瞬間明らかに普通とは違う集団がロビーへとやってきた

「やぁ! 久しぶりだに!」

ユミットと、その集団が僕達に挨拶をした

太っている体型が目印となり、戸惑うこと無く挨拶を交わせた

「お前ら久しぶりだな! それにしても、随分とまあ太ったな」

彼らの体型は、僕達が予想していたのより遥かにすごいものだった

初めて会った時は、僕と同じような体型だったのに、今では僕の何倍もある

大きく突き出て広がったお腹は、歩くたびに足に合わせて上下に揺れて

そのおかげで一回一回歩くのに苦労し、一歩進むごとにハァハァ息を切らしていた

それに比べて僕は、お腹が弛んで足を少し隠しているぐらい

トックに至っては、筋肉デブということもあるが、大きなお腹が突き出ているだけだ

「それにしても、どうやってそこまで太ったんですか?」

「いやー、実はカリメアは物凄く発展していた場所だったんだに。

おかげで一日中動かなくても良かったんだに」

「なるほど、動かない分太ったってわけか。

だけどそれだと、体が動かなくなるんじゃないか?」

「そうなんだに……実はおいら、自力では動けないに……」

「動いてるじゃないか」

「いや、実はこれはカリメア製の筋力増幅器を使ってるからだに」

「……なるほどな」

「だから日常生活は本当に大変だに。一日中その機械を付けているわけにも行かないから時々外すんけど

その直後体がすんごく重くなって、足は殆ど動かないに」

「そ、それって、大丈夫なんですか?」

「まあなんとか大丈夫だに、一応それがおいらの望んでいた太竜だしにね」

「……てことは、ユミットさんは、限界まで太りたいんですか?」

「そうだに。とにかく、自分ではどうにもならないくらいに太るのがおいらの目標だに」

正直僕は、いくら超太った太竜が好きだからと言って、そんな竜になりたいからと言って

太り過ぎで動けなくなるのは、さすがにちょっとごめんだと思った

 

 

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Dream World 第6章

 

 

その後、僕達は一ヶ月間の全てを語った

しかしあっという間に時間が過ぎ、制限時間が迫ってしまっていた

「本当に、早かったわね」

「そうだな。もうちょっとぐらい話したかったな」

「まあ時間だから仕方が無いに。じゃあおいら達は、これでおいとまさせてもらうにー」

「じゃあねー!」

僕は手を振って、ユミット達を見送った

(家に着いたら、すぐにゲームを終了させようっと)

 

僕は現実世界に舞い戻った

(太竜好きにも、色んなタイプがあるんだなぁ~)

トックのようなずんぐりタイプ、僕のようなでっぷりタイプ

今日再会したユミットのように限りなく太るタイプ

他にも、ご飯を本当に限界まで食べ、お腹をパンパンに膨らませたものを好むタイプだったり

水をガボガボと飲んだ後の、じゃぽじゃぽ腹を好むタイプもいた

正直ユミット達のことについてはかなり驚きだったけど

こんなにも太竜の中にも分別があると分かると、なんだかとても楽しい気分になれた

 

次の日も、明くる日も、僕達はドリームワールドで太竜好き仲間と過ごした

本当にこんな生活が永遠に続けば良いのにと、毎日のように思っていた

 

そんなある日のことだった

僕はいつものようにドリームワールドへと入っていったのだが……

 

 

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Dream World 第7章

 

 

場所は変わり、ここは現実世界のドリームワールドの製作会社

 

「な、何が起きたんだ!?」

「分かりません! いきなり全世界をつないだネットワークが遮断されたのです!」

「プレイヤーのスピリット(魂)はどうなっている!?」

「――メモリーリーク……」

誰かがそう呟いた

この会社において、それはつまり

魂との繋がりが切れたという意味であった

「そ……そんな……」

ここにいた皆が愕然とした

ネットワークは復帰したものの

全プレイヤーの魂の位置が全て不明になってしまった

それを見つけ出す確率は、ほぼ、いや、確実に0と言えるだろう……

 

現実世界中がパニックになっていた

プレイヤー達は、魂が抜かれた抜け殻状態になっていて

どんな処置を施しても、徐々に体が衰弱していった

そして――

全プレイヤーが、息を引き取ったのだ……

 

その間、ドリームワールドにいたプレイヤー達は異変に気付いた

それぞれの街には必ず、現実世界のニュースやらが流れるモニターがあるのだが

一切そういったものはモニターには現れなかった

辺りは静寂しきっていた。何が起きたのかが理解できなかったのだ

そして、ある一匹が言った

「……も、戻れない! 元の、元の世界に戻れない!」

その一声が、辺りを静寂から混沌へと変えた

どう強く念じようと、元の世界へ戻ることが出来なかったのだ!

 

 

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Dream World 第8章

 

 

僕は、その場に崩れ落ちた

「嘘だ……元に、戻れない……?」

知らずに僕は、何度も同じようなことを口にしていた

今まではゲームの世界だからだといって

一生ここで暮らしたい。夢のような生活だなんて言っていた

だが実際、現実にそうなってしまうと、僕は落胆した

「冗談じゃ、ない、のよね……」

「――あぁ」

トックもラムも、僕と同様に落胆していた

「母さん……」

もう母さんに会えないなんて、そう考えると、急に胸が苦しくなった

 

僕とトックとラムは、ロビーのカウンターに座った

「これから、どうしましょう……」

「……ずっとこの体で過ごすなんて……ゲームだから良いと思ってたのに……」

「仕方が無いさ。新しい人生を始めるしかないだろ」

「……はぁ。実際、それしか方法はないのよね」

「――そんなこと言ったって! もう、もう母さんには会えないだ……」

「じゃあ母親がいない俺はどうなんだよ!」

「そ、それは……」

この時初めて知った。トックには母親がいなかったのだ――父親も

(そうだよな……いつかは人は死ぬんだ、お別れの時があるんだ)

そう考えると、少し気が楽になった

「……そうだね、トックの言う通りだよ。このままでいたってしょうがない

せっかく自由がある世界なんだ、いっそ意のままに生活しよう!」

「ああそうだ! この世界には心配することなんてない!」

「そう、太りたければ太る。自分が望むまで、限界は自分だけなんだからね!」

 

 

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Dream World 第9章

 

 

その後僕達は、いつものように生活をすることにした

……その、このドリームワールドでのいつもの生活を

ラムはいつものように、トックの張ったお腹や、僕のぶよぶよのお腹を触り

トックはダンベルを上げたり、その状態で動き回ったりして筋トレをし

そして僕は、色んなお店を食べ歩き回ったり、大食い大会に出たりした

さらに一ヶ月ごとの太竜好き仲間との再会などで

僕達は現実世界での生活を忘れ、着実に自分達の目標へと突き進んでいった

 

ある日のことだった

「ねぇ、ガントって国知ってる?」

ラムが言った

「ガント? なんじゃそりゃ」

「いわゆる肥満の楽園と呼ばれる国よ。料理がとてもおいしいと評判らしいの」

「えっ? ということは、僕達のような太系好きがいたの?」

「いいえ。そこは元々ゲームで設定されている国

だからそこに住んでいる生き物達も、みんなゲームの設定キャラよ」

「へぇー。随分とユーモアな設定をしてくれたものだな」

「それでね、私、ガントに引っ越そうと思うの」

「……そうか。俺は遠慮しておく、ただ太るのは俺の目標じゃねぇし」

「トックの場合はそうね。ベスは?」

「僕は賛成! おいしい食べ物を食べられるなんて幸せだなぁ

ガントって、一体どういうところなんだろう?」

実は僕達は、このエターナルという街と初期位置の建物以外へは行ったことが無いのだ

もちろん他の太竜好き仲間が住むカリメアにも、一度も足を踏み入れたことが無い

だからガントに引っ越すことは、僕にとって何よりも楽しみなのだ

 

翌日、やはり元々ゲームの世界であったため、自分達が望むようにことが進んだ

おかげですぐに出発の準備が整った

僕とラムは、トックに別れを言って、船へと乗りこんだ

船に乗って数時間後、ようやくガントへと到着した

陸に降りると、まさに肥満の楽園と思わせる光景が広がっていた

ありとあらゆるものが、つまり扉や道など、ありとあらゆる生活に関わる物が大きかった

そしてそこを埋め尽くすのは、9割が太った生き物達だった

基本的には二足歩行の生き物が多かったが、四足歩行のものも幾分かいた

僕達はすぐに住民登録を済ませ、自分達が住む家を見つけた

今回は二匹ということもあって、同じ家に住むことにした

 

 

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Dream World 第10章

 

 

ガントでの生活は最高だった

数え切れないほどの料理店が建ち並び、メニューも豊富で、量もすごかった

おかげでガントで半月も暮らしても、完食していない店がまだまだ多くあった

夕方、いつものように僕は、まだ全品完食していない店へと行き、まだ食べていない料理を注文した

「あいよ! いつもありがとさんな!」

僕は料理人から料理を受け取り、いつものように黙々と、かつ大胆に食べた

そんな時、となりに一匹の、ほっそりとした女竜が座ってきた

「あの……パスタを頂けますか?」

「はいよ! 珍しいね、スタイルのいい女性がここに来るなんて」

「実は、こんな人――いや、こんな感じの竜を見ませんでしたか?」

彼女は、一枚の紙を料理人に渡した

「……悪いね。写真があれば分かるかも知れんが、経歴だけだと、ちょっとなあ」

「……分かりました。ありがとうございます」

そういって彼女は、料理人が作ったパスタを手に取り、静かに食べ始めた

「――あ! それと、この辺に宿はありませんか?」

「うーん。あるけどこの時間からだと、空きがあるかどうか……」

「そうですか……」

僕は彼女を横目で見た

……なんだか、僕は彼女のことを、何か普通の竜では無いように感じた

どうしてだか分からないけど、とにかく僕は、彼女を助けてやろうと思った

僕は食事をしていた手を休め、軽く深呼吸をし、そして彼女に話しかけた

「あの~、もし泊まるとこがなかったら、僕の家で良かったら泊めますけど……?」

「えっ……よろしいんですか?」

「ええ、僕はかまいませんよ」

「あ、ありがとうございます!」

僕と彼女が食事を終えると、僕は彼女を自分の家へと案内した

 

「本当に今日は、ありがとうございます」

「いえいえ、今日はたまたま同居人が旅行中でしたので」

実は昨日、ラムがカリメアに住む太竜好き仲間の家へと行ったので

明後日まで僕は家で一匹っきりなのだ

「それにしても、誰を探していたんですか?」

「……その、私の息子です。ドリームワールドの事故で、魂がこっちへ行ったままの」

「……」

ふいに僕は、母親のことを思い出してしまった

見た目はぽっちゃりとしていたが、力も心も強く、強い母と思わせる容姿だった

今まで考えないようにしていたのだが、今母親はどうしているのだろうか?

僕は、心が落ちていくのを感じた

「あの……こんな竜は知りませんか?」

僕は彼女から紙を受け取った

だがそれを読む前に、僕はこんな質問をした

「どうして竜って分かるんですか? 実際はどんな生き物になったのか分からないのでは?」

「実は私の息子は、大の竜好きなんです。本とかそういうのも全部そういった物だったので

きっとこの世界では、竜として生きているんだろうと思いまして……」

「そうですか……」

そして僕は、紙に書かれた文字を読んだ

 

(――こ、これは――!)

 

そこには、僕とその親戚しか知らないような経歴が書かれていた

一つは、僕が小さい頃にとても重い病気にかかり、生死をさ迷ったというものだ

食事も一切受け付けなかったらしく、ついに峠を向かえてしまった

その時の僕は、手足を縛られ、一週間何も食べていない状態だった

窓越しで両親は号泣し、泣き崩れたらしい

だが次の日、僕は奇跡的に峠を越え、後遺症も無く治ったという

他にも、僕が経験した多くの経歴が記されていた

「……かあ、さん……」

「……? 何ですか?」

「覚えてる? 僕と父さんと母さんで、最後に一緒に映画を見に行ったときのこと。

僕はあそこの映画館はネットでの評判は良くないって言ったら、

父さんはじゃあ実際に行ったのか、って言って口論になって

結局は僕が反対した映画館に行ったこと。

その後入館待ちをしていた時、父さんが母さんを入館出来るまでロビーで休ませると言ったとき

僕は並んでる人に迷惑だなんて言って、また口論になって……。

だけど結局は全部、父さんが正しかった。僕って、頑固だった」

「しょ、称?」

「……母さん――!」

僕は泣いた。母さんも泣いた。大きく、躊躇うことなく泣いた

僕は母さんを抱きしめた

僕の大きな体は、ほっそりとした母さんをすっぽりと覆った

出来る限り僕は、母さんを強く抱いた

すると僕のお腹に、母さんがきれいに埋もれてしまった

だが母さんは、自ら進んで、僕のお腹に埋もれていった

それはまるで、布団に顔を押し当て、悲しみの声を押さえるかのようだった

 

二日後、ラムが帰ってきて、彼女に事情を説明した

話しは問題を起こさず、簡単に解決した

彼女は旅行に行って、カリメアに住んで見たくなったらしく、そこへ彼女は引っ越すことになった

そして僕は、このガントに母親と一緒に住むことにした

 

 

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Dream World 第11章 ~After That~

 

 

あれから僕は、とても幸せな生活を送っている

考えてみれば、ゲームの世界に一生住めば、誰でも幸せになれるだろう

……ただ、ここはもうゲームの世界なんかじゃない

僕にとって、僕達にとって、ここは正に現実の世界だ

 

さてと、今日は一ヶ月ぶりの太竜好き仲間達との再開日だ!

僕はうきうき気分で、例のロビーへと向かった

そこには、すでに皆が勢ぞろいしていた

「久しぶりだな、ベス!」

始めに言葉を発したのはトックだった

トックは前にもまして、立派な筋肉をつけていた

そしてもちろん、立派な脂肪もお腹につけていた

ただずんぐり系太竜なため、お腹は余り弛まず、立派に張っていた。それもかなり出ていた

「久しぶりだにー!」

次に言ったのは、ユミットだった

ユミットはあれからさらに太り、腕が90度に近い状態にまで上がってしまっている

背中には大きな酸素生成装置がつけられ、そこから管が肺に入って呼吸を助けていて

筋力増幅器は、確実なものでは無くなってしまうほどにまでなっていた

だが太竜好き仲間の、自身が太っていないタイプの竜達が、彼の歩行の手伝いをしていた

「ユミット、随分と太ったね~」

「ベス、あなたも中々太ったじゃない」

そう言ったのはラムだった

実際僕も、一ヶ月前よりもかなり太っていた

首は完璧に見えなくなり、でっぷりとしたお腹は地面に完璧についてしまっている

横っ腹の肉は、肉に肉が重なり、何重にも重なって

腕は全体がぶよんぶよんで、特に二の腕が大きく垂れ下がっている

足は完璧にお腹に埋もれて、昔のユミットのように、足とお腹が同調して動くようになっていて

おかげで足を上げて歩くのが辛く、殆どずり足で動く形になってしまった

そんな体型のおかげで、いつも腕はお腹の上、こっちの方が楽なのだ

 

再会後、僕達はいつものように意気揚々と話した

この一ヶ月間何があった? 最近太竜仲間が増えたよー。 大会で優勝したぜ! などなど

自身が太竜のやつはとことん食に専念しながらしゃべり

そうでない竜は、太竜のために食事を持って来たりしていた

そんな談話の時間も、すぐに訪れる終期によって終わりを告げ、分かれのときが来てしまった

 

僕達はロビーで、いつもの終わりの掛け声をかけた

 

――太竜に栄光あれ!――

 

そして僕達は解散した。それぞれが住む場所へと

 

 

僕はガントへ戻るため、船に乗っていた

家に着くと、そこでは母親が待っている

ふとここで思った

もし父親が生きていたら、この世界に、母親のように入っていたら

三人――いや、三匹で一生暮らせるのになぁ……

このゲームには死は無い、だから――

 

 *お父さんはいつも、あなたの胸の中にいるわ……*

 

「――!」

何処からか、母親の声が聞こえた気がした

(……確かこれは、父親が亡くなったときに、僕が落ち込んでいるときに言ってくれた言葉だ

かなりベタなセリフだったが、その時の僕には光の道筋に思えたんだっけ)

そんな過去に思い耽っていると

……ぐー

お腹が鳴った

僕は不意に、現実世界へと呼び戻された

(……そういえば、今日の夕飯はなんだろう?)

そう考えると僕は、家に帰るのが楽しみでならなかった

 

 

 

                    ―― THE END ――


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