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- Confidence -

 

 

「わぁ! なにこれ!?」

辺りを見渡すと、一面をお菓子や食べ物が生め尽くしている

(……じゅる)

僕はその光景を目の当たりにして、一瞬戸惑ってしまったが

欲には勝てず、一面にあるお菓子や食べ物を思いっきりほおばってしまった

「んぐ……お、おいしぃ~!」

あまりのおいしさに、どんどんと食欲が増していく……

(う~ん、だけどなんでこんなものがあるんだろう?)

そう考えてはみたものの、僕にとっては食べることが唯一の楽しみ

疑問なんてそんなことはどうでもいい、食べてるだけで幸せなんだ!

 

そうして、かれこれ数時間がたった

「う、う~ん、苦しいよぉ……」

あまりにも食べ過ぎてしまい、動くどころか、呼吸さえ苦しくなってきた

だけど僕の食べる行為は止まらない

(このまま僕、どうなっちゃうんだろう……)

そう思いながらも、まだまだ無くならないお菓子や食べ物を食べ続けた

そして僕の白い体は徐々に巨大化していき、しっぽは短くなり

ただでさえ小さい翼がさらに小さくなり

しまいには腕や脚までもが、体の肉へと埋もれていった……

 

  ――そして突然、僕の視界を深い闇が覆った

 

 

「……」

(じりりりりりり!)

何かが鳴っている――目覚し時計だ

「……夢?」

どうやら、さっきのお菓子や食べ物は夢だったようだ

僕は目を開け、ゆっくりとベットから起き上がった

そして再び目を閉じ、何回か深い深呼吸を行った

辺りからは気持ちのよい木の香りが漂ってくる

ここは木で出来た家、家のいたるところに気持ちのよい木の香りが漂っているのだ

深呼吸が終わり、ゆっくりと目を開ける

目の前に見えるのは木で出来た玄関、ポストには今日の新聞が入っている

僕はその新聞を手に取り、今日の見出しを軽く見てから、キッチンへと向かった

そのキッチンには、特殊なレンジが置いてあり

リデュースフード(ある大きさに縮小化された食べ物)を、元の大きさに戻すことが出来る

今や当たり前となったこのレンジは、発売当初はとても話題となった

食べ物を縮小化するということで、インスタント食品界に革命をもたらし、一躍トップの座を得た

そして今では、そのレンジはどこの家庭でも使用されているほど、一般的なものとなった

僕はそのレンジに、いつものように大量のリデュースフードを突っ込んだ

そしてスイッチを入れ、待つこと数分

レンジには、元の大きさに戻された食べ物が大量に現れた

僕はその大量に現れた食べ物をテーブルに移して……

「いっただきま~す♪」

こうしてまた、新しい一日が始まる

 

「ごちそうさま!」

そう言って、食べ終わったあとの後始末を行い、クローゼットへと向かった

クローゼットを開けると、特注サイズの服がずらりと並んでいる

「う~ん、今日はこれ!」

そういって取り出したのは、真ん中に「HAPPY!」という文字が描かれたグレーのシャツ

そのシャツに腕を通して……

「……あれ?」

シャツに腕に通し終えたあと、ボタンを閉めようとしたが穴に届かない

一生懸命に力を込めてやるが、やはり届かない

「もしかして、また太った?」

でっぷりとした大きなお腹を見て、深いため息をついた

「はぁ……仕方が無い、予備に買っておいた大きめのシャツでも着ようかな……」

僕はクローゼットの奥のほうから、いつものより一つサイズが大きいシャツを取り出した

それに腕を通してボタンを閉めてみると、なんとかボタンが穴にはまった

ようやく服を着ることが出来た僕は、食料を買いにいくため玄関を出た

 

いつものように近くの町へ行き食料を買う、これが僕が唯一外に出るときだ

それ以外のときは、ずっと家にいて何かしら食べ物を食べている

だから僕はどんどん太っていく

こんな僕だけど、ここに来た当初は別に太ってはいなかった

この町に住み始めたとき、ある不良の輩が僕をからかい始めた

それ以降、僕は外で彼らと出会うたびにからかわれ続けた

元々外に出ることが好きだった僕にとっては、とても辛いものだった

だから僕は、食料を買うとき以外は外出しないようにした

そしてそれらのストレスから解放されたいと思い、食べ物を食べ続けた

その結果、僕はもう元には戻れないような体になってしまった……

だけど別にいいんだ。最初は人目が気になったけど、ここまで来るともうどうでもいい

僕にとっては食べてるときこそが至福の時なんだ!

 

 

家から出て数分歩いたところで、ようやく町に辿り着いた

僕はいつもの食料品店へと向かい、そこで一日分の食料を買い込み、すぐに家に戻ることにした

ちょうどそこへ……

「お! ナイアスじゃねぇか! 久々に見ると随分とお肉がついたようだなぁ!」

……最悪だ

「おいおい見てみろよ、このリデュースフードの量! 大体一竜の一週間分だぜ!」

「お前は一竜の一週間分の飯を奪うのか?」

「この食料泥棒が!」

「食料泥棒! 食料泥棒!」

「うっ、うるさい!」

「なんだぁ? お前みたいなデブデブ竜には、食料泥棒ってのはいい天職だと思うけどな!」

「僕は……僕はそんなんじゃない!」

「じゃあなんだっていうんだ? 何も出来ないで飯ばっかり食ってぶくぶく太って!」

「僕は何も出来なくない!」

「ほほぅ、じゃあこれは出来るか!? そら!」

その瞬間、僕の鞄に入っていた財布が彼らに取られてしまった

「この財布を取り返してみろよ! まぁ、そんな体じゃあ地面を揺らすのが精一杯だろうけどよ!」

「か、返せ! それは僕の大事な財布だ!」

「そりゃそうだろうな! これが無いとお前は一日、いや、数時間で餓死してしまうからな!」

「それは昔おばあちゃんからもらった大切な財布なんだ! 返してよ!」

「じゃあ取ってみろよ! お前は何も出来なくないんだろ!?」

(どうして……おばあちゃんからもらった大切な形見が……うぅ……)

「おい見てみろよ! こいつ泣いてるぜ!」

「やっぱり何も出来ないただのデブだったってことだな!」

「う、うるさーーーい!!!」

 

僕は怒りに任せて思いっきり腕を振り回した

すると、腕は見事に不良どもに当たり、鈍い音が辺りに轟いた

 

「っ! な、なんだ今のは……?!」

「て、てめぇ! ふざけてんじゃねぇぞ!」

僕は何が何だか分からなくなり、再び腕を大きく振り回した

ドス! 再び鈍い音

「ぅぐっ……て、てめぇ……」

一匹の不良が地面へと崩れ落ちた

 

(……僕、僕って……僕って……弱くなかったんだ……

……そうだよ、考えてみれば、体の大きい僕の方が有利なはず

別にこいつらにやられてる必要なんて無いんだ!)

 

「くそ! もう許さねぇぞ!」

僕は抵抗する不良どもに向かって、にやりとして見せた

「……じゃあやってみる? 来てみなよ?」

「なめんじゃねぇぞ!」

こっちに向かってくる不良どもに対して、僕は体当たりをぶちかました

瞬間、相手の骨が砕け散る音が鳴る

「ぐぁあ! う、腕が、腕がぁ……」

「どうする? まだやる?」

「ちっ……分かったよ! 財布は返す、ほら!」

僕は財布を受け取った、そして不良どもは逃げ去った……

これでもう、二度とからかわれることは無いだろう

 

 

「~♪」

帰り道をスキップをしながら進む、こんなに嬉しいことは初めてだ

いつもの重い体も、今日に限ってはとても軽く感じられる

僕は自分が太っていることに、いつも懸念を覚えていた

だけど、もうこれでそういった心配ごとは吹き飛んだ

僕は太っていたおかげでやつらを打ち負かしたんだから

「太っているって別に悪いことじゃない! この体のおかげで僕は助かったんだ!

よ~し! これからはどんどん食うぞ~!」

 

「太ってるって最高ー!」

僕はそう叫びながら、家へと向かった……

 

 

そしてその後、僕は前にもまして食べ物を食べるようになった

そのおかげで服が、前以上に早く着られなくなるようになってしまった

最初は数ヶ月ぐらいだったのが、1ヶ月、半月、となり、そして今は……

……そんなことはどうでもいいや、僕はこの太った体が気に入っている

別に服が着れなくなったっていい、悩むことなんて無い、とにかく食べる、ただそれだけのこと!

 

今では太りすぎて地面にお腹がついてしまい、体全体の肉が大きくたるんでいる

家を出るにも、正直ぎりぎりな状態だ

だから最近では外に出るのも面倒なので、リデュースフードの配達を頼んでいる

やがて僕は、運動を全くしなくなってしまったのと、食べる量が増えてきたことにより

体が徐々に肥大化していき、ついには家から出られなくなってしまった

 

配達されるリデュースフードの量も徐々に増えていき

 

僕は更に肥大化する

 

だけどもう誰にも止めることは出来ない

 

僕は食べているだけで幸せだから

 

だから僕は永遠と太りつづけることを選んだ

 

 

  ―― 今では、街の有名竜の一匹にもなった ――

 

 

     The End...


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