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クリーン

 

元ネタ:デルトラクエスト(TV)  ”第九話 クリーンチュルナイ” ”第十話 牢獄からの脱出”

著者 :fimDelta

作成日:2007/ 3/10

完成日:2007/ 4/22

更新日:2007/ 4/27

 

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この小説は、デルトラクエストのチュルナイでのストーリーを勝手に改造したものです。

内容を一部汲み取り、途中からオリジナルで物語を展開させます。

(それと、作者はTVでしかデルトラを知らないので、細かな設定は知りません(爆死

 

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リーフ

 デルトラ王国の都、デルの鍛冶屋に生まれた男の子。

 影の大王によってバラバラにされた七つの宝石を集めている。

 

バルダ

 リーフと共に旅をする男。デル城の衛兵として訓練を受けていた。

 

ジャスミン

 幼い頃、憲兵団に両親を連れ去られ、沈黙の森という場所で独り過ごした女の子。

 

フィリ、クリー

 ジャスミンと共にいる、小さなふさふさな獣とカラス。

 

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# 出来る限り元ネタを再現した、これまでの成り行き #

 

冒険中、トムが経営するトムの店を見つけ、そこでマドレット——三本足の奇妙な動物——を買うが、

トムの警告を無視し、通ってはならぬ道を通ったことでマドレットが暴走。

暴走したマドレットから振り下ろされた三人は、落下の衝撃で気を失ってしまう。

そして目覚めると、彼らは奇妙な国、チュルナイを治める九人のネズヌクに保護されるのだった。

この時、リーフとバルダ、ジャスミン、フィリは無事だったが、ジャスミンの連れのクリーだけはそこにいなかった。

チュルナイでは、ありとあらゆる物が清潔でなければならない。

手も、体も、ありとあらゆるところ……加えて料理までもが!

そのため、食べ物を床に落とすと処罰が科せられてしまうのだ。

また、人間以外の他の動物も”害虫”として扱われ、不潔の対象だった。

それを聞いたジャスミンは慌てて、肩に乗っていたフィリ——ふさふさな毛で覆われた白い小さな獣——を自身の長髪の中に隠した。

そんな時、とある一人のネズヌク、また洗浄委員の主席であるライが夕食に招待した。これを断ることは、その国では許されなかった。

渋々夕食を食べることになった三人。しっかりと手を洗い、そして手垢をチェックされ……

そしてついに審査を通過した三人は、夕食の場に立った——が、その時一人の少女ティラが、配給時をパンを床に落としてしまった。

それをきっかけに、彼女は鞭打ちの罰を受ける破目になってしまう。

だがその時、リーフが”自分のせいで彼女がパンを落としたんだ”と言及したおかげで、彼女は無事処罰から免れた。

しかしそんな安堵も束の間、フィリが料理の匂いに駆られて、ジャスミンの髪から出て来てしまった。

すると食堂は大混乱。それを見たライが、すぐさま三人を裁判にかけることにした。

そして裁判の時。リーフ達は死に値する罪を犯したというが、ここでは、主席自らが死の判断をすることは許されなかった。

そこでライは、生のカードと死のカード、この二つのカードの内、生のカードを引けば生かしてやると宣言した。

だがカードは、ライの諸悪により全てが死のカードに変えられてしまった。リーフ達は気付かない。

その時、助けてもらった三人のためにと、ティラがその事実を口の動きで、カードを引く代表のリーフに伝えた。

リーフはそれを巧く読み取って見て、今の状況を知ることになる。そして彼は、辺りを囲んでいる火に目を付けた。

彼はカードを一枚引き、それをライに見せる途中わざと転んで、カードを火の中に投げ込んだのだ。

そしてリーフは言った。

「すみません……でも大丈夫です。今残っているカードを見れば、僕が何のカードを取ったのか分かります」と。

結果、三人は生かしてもらうことに成功——ただしそれは、牢屋の中で永遠にだった!

ジャスミンは、あの食堂での混乱中にフィリを逃がすことに成功し安心していたものの、

牢屋での時間が経つに連れて、彼女の気持ちは徐々に陰鬱なものへと変わっていった。

その時、ティラが牢屋へ彼らの夕食を持ってやって来た。

このチャンスにリーフは、彼女にこれまでのことを話して説得を試みた。そして彼女は、ようやく三人を逃がすことを決意した。

彼女は彼らを抜け道の近くまで案内し、そして彼女は去って行った。

その途中、彼女は抜け道のことを、検査を通過出来なかった料理が捨てられ運ばれる場所だと言い、

またチュルナイでは、作った料理の殆どが捨てられていて、そのためここでは夜通し料理が作られていると付け加えた。

そして彼女が去った後、脱走に気付いてネズヌク達が追って来たが、リーフとバルダが共に戦い、

加えて武器を取って戻って来てくれたティラの助けのおかげで、彼らは見事脱走することに成功し、途中フィリも見つかり万々歳だった。

暫く抜け道を進むと、途中捨てられる料理がレールを伝って彼らを追い抜くのを目の当たりにした。

そしてさらに進むと彼らは出口を見つけ、そこから二人のネズヌクが、馬車の荷台に先ほど運ばれていた食料を積んでいるのを見た。

この時リーフは、捨てられる料理が何処へ行くのかどうしても気になり、荷台に隠れ乗り込んで後を追うことにした。

馬車が発射し、そしてしばらく走っていると、上空から逸れたクリーの声が聞こえた。

元通りのメンバーになったことで彼らの士気上昇し、彼らはこれから辿り着く場所を知るべく、流れる景色を隙間から眺めていた……

 

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# 本編 #

 

 

 

馬車に揺られて何時間経ったことだろう、ようやく馬は走るのをやめた。

上手いこと荷台から降り、リーフとバルダ、ジャスミン、そして彼女の二匹の連れは、近くの木に身を隠した。

気付かれない様に馬車の方を観察すると、荷台から降ろされた大量の料理が奥の洞窟に運ばれていた。

「一体何をやってるのかしら?」ジャスミンが囁いた。

「さあ、全く検討も付かんな」とバルダ。

そしてしばらく眺めていると、ついに御者達が荷車を引いて立ち去った。

それを期に、リーフ達は大量の料理が運ばれた洞窟へと向かって行った。

だがクリーだけは、上空で旋回しながら何やら警告を発して、決して中に入ろうとはしなかった。

「どうしたんだ、クリーは?」リーフがジャスミンに尋ねた。

「分からないわ。だけどこの先に、何か恐ろしいものが待ち受けているのかも……」

「どうする、リーフ?」バルダが言った。

「いや、ここまで来たら入るしかない——行こう!」

仕方が無くリーフ達は、クリーを外に残して洞窟内へと潜入することにした。

すると、入ってすぐの先方で何やら蠢く物体があった。

「ありゃ何だ?」バルダが闇に目を凝らして、謎の正体を確かめようとした。

「うーん……この暗さじゃ姿がはっきりしないな」

「……いえ……」

「ん、なんだい、ジャスミン?」

「……私には見えるの……」

「ほんとか?」

ジャスミンは沈黙の森で暮らしていた。そしてそこは日夜太陽が当たらない様な暗い場所だ。

彼女がそんなところに何年も住み付いていれば、この暗がりの奥を見透かすことが出来ても不思議ではないのだ。

「一体何がいるんだ、そこには?」リーフが尋ねた。

「……竜……」

「竜だと!?」バルダは驚きの表情を隠せないようすだ。

「こんなところに竜が——まずい、ジャスミン! 今すぐここを出るんだ!」

「……きっと、大丈夫よ」

「何を言ってるんだ!? 相手は竜だぞ、僕達が敵う相手じゃない!」

「そうじゃないの! きっとその竜、私達に手出しは出来ないわ」

「何故そう言い切れるんだ? 竜が鎖にでも繋がれているとでもいうのか?」

「いいえ。もうちょっと奥へ行きましょう。……大丈夫、私には相手の姿が見えるから分かるの」

渋々リーフとバルダは、ジャスミンに促されてもう何歩か先へ進むことにした。

やがて、二人にも相手の姿が見て取れるようになった。そして納得した。

 

……そこにいたのは——なんと洞窟を埋め尽くさんばかりに肥え太った巨漢竜だった!

 

竜を見ると、そいつは明らかに洞窟から出ることが出来ないほど、ぎゅうぎゅうに洞窟内に押し詰められる形で太っていた。

その竜は先ほど送られてきた料理を片っ端から食い漁り、散らかしていた。

その様子を瞠視していたリーフ達に、食事を終えた竜がようやく気付いた。

「きさまらぁ、何者だぁー!?」

突如の敵に対し、竜はリーフ達に襲いかかろうとした——が、案の定それは出来なかった。

「くぅ、体がぁ——く、くそぉー!」

洞窟の壁面にきつく挟まっている竜は、見た通り一寸も動くことが出来ないのだ。

暫くして、竜は観念した様子で項垂れた。

「お前、名前はなんて言うんだ?」リーフが尋ねた。

「……俺は、ロウだ」

「ロウ、お前はどうしてそんな体なんだ? まさか、影の憲兵団にでもやられたのか?」

「……いや、違う」

「じゃあどうして?」ジャスミンが畳み掛けた。

「……」

ロウは無言だった。

「どうせお前はここから動くことも出来まい。仮に火を吹けたとしても、お前を倒すことは容易だぞ?」バルダが脅した。

「ちょ……バルダ! いくらなんでもそれは酷すぎじゃないか。ロウは無防備なんだぞ、少しぐらい易しく言ったって——」

「……そうだな、あんたの言う通りだ。俺は何も出来ないし、火を吹くことも出来ない……俺は単なる能無しの堕落竜なんだ」

「別にそこまで言わなくても……。……まあ、それじゃあ話しくれるわよね?」

「ああ、もちろんだ。俺は——」

ロウは語った。唯一動かせる前足を巧みに使い、語りと共に地面に書いた絵や文字を交えて説明した。

 

 

 

ロウによると、過去に魔法を使ってチュルナイにウィルスをばら撒いたという。

そのウィルスは残留性が高く、いつまでもチュルナイの人々を苦しめ続けていた。

——そう、チュルナイであそこまで清潔に気を使うようになったのは、これが原因だったのだ。

未だチュルナイにはウィルスが留まっているが、常に清潔を徹していれば問題は無い。

最初は人民が苦しんでいる様子を楽しんでいたロウだったが、洗浄委員の発足と活動によって平和が齎されたため、それを妬んだ。

そこで彼は言った。

「俺は再びウィルスを活性化させ、お前らのその清潔さを持っても防げないようにし、チュルナイを再び窮境の地へ陥れてやる」と。

洗浄委員一同は恐慌をきたした。そして急の審議の結果、当時のチュルナイの主席は、ロウに安定した生活を永劫送らせる案を提示した。

それはつまり、彼に一生食料を支給し続けるということ内容だった。

そしてこの案に、ロウは即座に食いついた。何故なら彼は、狩りをするのが大の苦手だったからだ。

ロウは自給出来ない零落竜として有名で、唯一誇れたのは魔法が使えることだけ——ただそれは、菌魔法という異なものだけだった。

おかげで食料は相手のお零れを頂戴するか、もしくは物乞い、最悪腐肉を喰らうようにして生活した。

同類達はその姿を見て、竜族は成れの果てだと罵詈を浴びせ、それに耐えかね彼は一人寂しく離れ洞窟に住むことになり、今に至るのだ。

ということで、もちろんロウはこの案を即決し、彼と主席は双方合意に至った。

ちなみにチュルナイでは、毎日山のように不合格の料理が捨てられていたので、実際のところチュルナイにとってこれは一石二鳥だった。

 

その後、ロウの棲み処には毎日山のような料理が届いた。

だが送られて来る料理は、ロウが想像していた以上に多く、それは巨躯の竜でも食べ切ることが不可能な量だった。

そのため送られて来た料理を全て食べ終えない内に、また新たな料理が運ばれてくるという状態に陥った。

しかし彼は、せっかく送られて来た料理達を無駄にはしたくないと、一日かけてその多量の料理を食べ切ろうと努力した。

狩りも出来ない彼は、元々洞窟内で日夜を過ごすことが多く、このような一日中巣床に留まるのは余裕綽々であり、

そのためかロウは、この生活を甚く好んだ。……しかし、その生活のおかげで彼の体は、次第に怠けの色を露にしていった。

やがて、時間内に食べ切ること出来なかった料理を、ロウは次の食事までの間に完食出来るようになっていた。

が、その代償は大きく、彼の体は洞窟を埋め尽くさんばかりに、ぶくぶくに肥え太ってしまっていた。

もはや狩りの不必要性からか、背中の羽は完全に退化し、精神面においては、太ったことで動くのが億劫になり始めた。

元々狩り——といっても高が知れてる——以外のことでやることが無かったロウは、時間潰しに外に出ては軽く景色を眺めていた。

だがそれも、次第に面倒くさくなり、ついには自分の巣である洞窟に引きこもるようになった。

その後もロウの体は、彼が動かないことをいいことに順調に肥え続け、ついには洞窟の壁面を埋め尽くして動けなくなってしまった。

しかしそんな状況でも、チュルナイの人々は魔法が使えるというたった一つの脅威要素によって、彼のことを未だに畏怖していた。

だが実は、この時のロウは既に長年のぐうたら生活によって、彼の魔力は完全に退廃していたのだ。

そしてその後も、ロウの肥大化はさらに悪化した。食欲も増大し、チュルナイの使者に今まで以上の食事量を要求した。

ここまで来るとチュルナイも食糧危機に陥るかと思いきや、意外にもチュルナイにとってはさほどの問題ではなかった。

何故なら、順調に平和を保ち続けたチュルナイでは、過去のウィルスによる大参事以降徐々に人口を増やしていたからだ。

それはつまり、チュルナイにおける料理生産量も累進する訳で、結果チュルナイにとってこの問題は、木っ端の微塵ですらなかった。

そしてロウの元には、今まで以上の量の料理が届き、それは月日が経つにつれ、彼の食事量と共に上昇していった。

 

 

 

「なるほどな……欲が欲を生んだという訳か……」

「そしてその連鎖が止まらなくなった……」

「俺は、もうこの悪循環から抜け出せな——ごほ、ごほっ——んぐぅ!」

「ど、どうしたの!?」

ロウは苦しそうに噎せ続けた。しばらくして、ようやくロウの噎せりは治まった。

「はぁー……はぁー……」

「だ、大丈夫か?」リーフが聞いた。

「あ、あぁ……最近なんだか、喉が詰まるような感覚に襲われるんだ」

「……恐らくは、この洞窟内に収まり切らないほど太ったことで、外部から圧力がかかって喉が狭窄化したのだろう」バルダが推測した。

「えっ……? てことは、このままにしておくと結構まずいんじゃない?」ジャスミンが不安な面持ちで言った。

「ああ。このままだとそのうち、ロウは窒息してしまうかも知れないな……」

「——! そ、そんな! お、俺はまだ……」

「ダイエットするしかないな」バルダが呆れた様子で言った。

「そうもいかないだろう。動くことが出来ないなら、エネルギーが消費されないんじゃないか?」とリーフ。

「じゃあどうすればいいの?」

「……こいつを外に出そう」

「おいおい、そりゃ本気か、リーフ?」

「もちろんだ。このままにしてはおけないよ」

「う、うぅ……俺のことを心配してくれてるのか?」

ロウが目に涙を浮かべた。

「当たり前さ。困ってる人を——って、お前は竜だけど——助けるのが常識だろ?」

「うぅ……ありがとう、リーフとやらよ……」

「んでも、どうすればいいのよ? こんなにも太った竜、私達で引き出せると思うの?」

「いくら力自慢の俺でも、さすがにこいつは無理だぜ、リーフ?」

「安心して、僕に名案がある」

リーフは、自らが考え出した”ロウ救出作戦”の内容を述べた。

「だけどそれって——下手したら、ロウが殺されちゃうかも知れないわよ!?」

「確かに良い案ではあるが……随分とリスクが大きいな」

「僕だってこんなに危険な賭けはしたくない。だけど、ロウの体のこともある。早くここから出すためにはそれにしか無いだろ?」

「だ、だけど……」

「大丈夫だ、お譲ちゃん。俺は過去に償い切れないほどの悪行を犯したんだ——殺されても、それは仕方無いことなんだ」

「ロウ……」

「……決定だな。ロウ、次の配給使者が来るのまで後どのくらいだ?」

「分からん……食べてる時以外は寝ているからな。ただ分かることと言えば、ここには四回、使者がやって来る」

「それじゃあ、ロウの睡眠時間はどのくらいだ?」

「そうだな、かれこれ八時間程だと思う」

「……てことは、最悪四時間後という訳か……」

リーフ達は洞窟で、ロウと共に使者を待った。その間、外にいたクリーを洞窟内へ招き、彼らはロウに自らの旅を語って時間を潰した。

長年外の世界に目を向けなかったロウにとって、リーフ達は全てが真新しく、彼はずっとリーフ達の話に聞き入った。

 

時は流れ、リーフが予想した四時間きっかりに、チュルナイの使者は洞窟へとやって来た。

外からの馬車の軋る音を聞いて、リーフ達は目を覚ました。

「どうやら、来たようだな」バルダが先陣を切って言った。

「ああ……それじゃあ、作戦を実行に移そう」

「えぇ。ロウが、無事ここから出られますように……」

ジャスミンの発言に、フィリとクリーは同意を示す鳴き声を発した。

「皆、ありがとう……気を付けてな」

「僕達は大丈夫さ」

リーフがそう言い、そしてリーフらは洞窟の外の馬車の方へと向かった。

「お、お前ら、何者だ!?」

料理を運んでいた一人のネズヌクが叫んだ。そしてその声を聞き、もう一人のネズヌクがやって来た。

「ここで何をして——あの竜に何をした!?」

「何もしてない。それに用があるのは竜じゃない、君達さ」

「俺達だと? チュルナイ洗浄委員である俺達に一体何用だ?」

「実はな、あんたらが住むチュルナイの住民達の手を借りたいのだ」バルダが居丈高に言った。

ネズヌク達はひそひそと相談し合った。

「……こいつら、怪しいくないか……」

「あぁ……もしかしたらこいつ、この料理を盗みに来たならず者かも知れん……」

「なるほど、お前の言う通りかも知れん。……それじゃあ、行くか?」

「……そうだな」

ネズヌク達は決意し、リーフ達に挑もうと前へ進み出た。

「おっと、そうは行かないわよ!」

密かにネズヌク達の背後に回っていたジャスミンが言った。

ネズヌク達は意表を突かれて後ろを振り返ったが、それが悪かった。

リーフとバルダに背を見せたネズヌク達は、すぐに彼らに取り押さえられた。

「くっ——貴様ら一体何者だ!?」

「僕はリーフ。そっちはバルダで、向こうにいるのがジャスミンだ」

「——ま、まさか……お前達、チュルナイに災いを齎し、主席であるライ様を——」

「まあそんなところだな」バルダが頷いた。

「お、お前達の目的は何だ?」

「僕達は、君達チュルナイの人達の力を借りたいんだ」

「力だと? 我々チュルナイの人々を混乱させたお前達が、俺達に力を?」

「そうだ」

「……ふ、ふぁははは! 何を馬鹿なことを! そんな協力、誰が受けると言うんだ?」

「……もし受けたら、チュルナイに潜むウィルスの活性化を永久に防止すると言っても?」

「——! い、今、何て?」

「チュルナイに潜む悪しきウィルスを、これ以上悪化させないと言ったんだ」

「そ、そんなことが本気で出来るとでも?」

「もちろんさ。だから僕達は竜の元へ来たんだ。彼も、ちゃんと了承してくれた」

リーフとバルダは、捕えたネズヌク二人を洞窟へと連れ込んだ。

「さあ、聞いてみなよ」リーフがネズヌク達に言った。

「……あ、あのぅ、ロウ様? これ以上チュルナイに害を加えないというのは、本当ですか?」

「ああ、本当だ」

「——! じゃ、じゃあ私達は一体何をすれば!?」

「チュルナイの人々の力を借りたい」

「そ、それって……私達は外に出たらウィルスに犯され——」

「安心しろ。チュルナイのウィルスはチュルナイでだけだ。そこを出たらウィルスの影響は受けない」

「な……そ、それはつまり、ロウ様は、その……う、嘘を言ってたということでしょうか?」

「……そうだ。あの時は少々図に乗ってたんだ、すまない」

「い、いえ! そんなこと——あ、そ、それで……具体的に、私達は何をすれば?」

 

「……俺を、この洞窟から出してくれ」

 

 

 

「オーエス、オーエス!」

洞窟の周辺では、大人数の掛声が響いていた。

外から運ばれてくる木の板を、チュルナイの人々はバケツリレーの如く運んでいた。

そして幾人かの人達は、ロウのぶよぶよの肉体を手で押しのけ、彼の体と洞窟の壁面との間に、上手いこと板を挿し込んでいた。

「それにしても……本当にロウを洞窟から出せるの?」ジャスミンが欺瞞を呈して言った。

「これだけの人数がいれば大丈夫だろう」バルダが自信を持って言ったが、

「だけど、うまいこと板がロウの体を抜け出させる手助けをしてくれるだろうか?」と、リーフは少々自信無さ気だった。

「何で? このやり方はあんたが考えたのよ?」

「それはそうだけど……僕の経験は、小さな洞穴に挟まった動物を助けたことだけだ。あんなにも大きな体ではやったことが無いんだ」

「ま、やるだけやるしか無いだろう」

暫くして、ロウの体の周りにはびっしりと、木の板が挟み込まれていた。

そしてそれぞれの板は、また新たな板へと繋がり、それらは洞窟の出口の縁まで続いていた。

これはロウを洞窟から引っ張り出し易く、また傷付けないようにするため、軌道上にある壁面の凹凸を無くし、滑らかにするためだった。

「よーし、みんな。今からロウを洞窟か引っ張り出す。一斉に引っ張るんだ、いいな!」

チュルナイの人々は承諾の言葉を発した。

「じゃあ……せーの!」

大勢のチュルナイの人々とネズヌク、そしてリーフ達は力を込めて、何とかロウの体に巻き付けた縄を一斉に引っ張った。

ロウも、ただ引っ張られているだけではなく、動かせる前足の爪を近くの板に突きつけて、力一杯体を前へと押した。

初めは微動だにしなかったロウの体だったが、次第に一歩、また一歩と縄を引く人達の足が動き、ロウの体は外へと引き出されていった。

皆の士気は可能性を見出したことで高まり、一旦鬨の声を上げて、更なる力を込めて作業を継続した。

ロウの体は、縄を引く人達の力と彼自身の力によって、徐々に、そして着実に洞窟の外へと向かっていった。

 

そして、短いようで長い時間が過ぎた。ついにロウの体は、洞窟の外へと出たのだ!

加えてロウの体には、一寸の傷も無かった——そう、リーフの洞窟表面の凸凹を無くすために板を嵌めるという考えが、功を奏したのだ。

「皆、ありがとう!」

「いえいえ、ロウ様のためなら何でも!」とある一人のネズヌクが言った。

「良かったね、ロウ」ジャスミンが喜びの表情を露にして言った。

「ああ、君達のおかげだ。本当に、ありがとう」

「例には及ばんよ」とバルダ。

「しかし、俺にはまだ一つ、大事な問題が残っている」

「え、他に何かあったっけ?」リーフは思い出そうと考えた。

「いや、これは俺自身の問題だ——ネズヌク達よ!」

その声を聞いて、ネズヌク達は一斉にロウの元へとやって来た。

「何か御用でしょうか、ロウ様?」

「……良く聞いて欲しい」

ロウは一息置いて、そして言った。

「俺は、魔法など使えない」

「——! ど、どういうことですか!? 現にあなたはウィルスをチュルナイに……」

「その当時は使えた。だが今の俺は、堕落した生活のせいですっかり魔力を失ったのだ」

「……ということは、もうウィルスが活性化することは——」

「一生無い」

「——じゃあ、俺達は踊らされていたのか!? このぐうたらのデブ竜にか!?」

「お、おぃ! 仮にもまだそれは確定した訳では無いのだぞ! もし嘘だったらお前、その言葉……」

「安心しろ、それは本当だ。一分の嘘も無い」

「……それじゃあ、本当に私達は踊らされていたの?」一人のネズヌクが、動揺を隠せずに尋ねた。

「……そうだ」

辺りにどよめきが起きた。今までロウに騙されたことを知って、ネズヌクどころか、チュルナイの人々も怒り心頭に発し始めた。

「……ちょっとヤバイかもね」ジャスミンが言った。

「あぁ……だと言って、あれはロウが言い出したことだ。ここで俺達が手出しをする訳にはいかないな」とバルダ。

「ロウ……」リーフが呟いた。彼の視線は、既に死の覚悟を決め、肝を太くしたロウに注がれていた。

暫くの間、ネズヌク達はその場の緊急会議を開いて、ロウの今後のことについて議論した。

 

「審議の結果、ロウ、お前には運命のカードを引いてもらう」

ライの死後、新しい主席となったラウが、威風堂々とロウに言った。

「運命のカードだと?」

「それって、もしかしてリーフがやった奴じゃない?」ジャスミンが言った。

「あぁ、どうやらそのようだ」

「ロウ、お前はチュルナイの人々を傷付け、欺き、我々の生活を苦しめ続けた。その行為は、死に値する」

「……ああ……」

ロウは偽り無しの反省を呈した。その顔には、過去の愚行を後悔する表情が目に見えて浮かんでいた。

「……しかしながら、チュルナイの法において”死”を我々で判断することは禁制である」

そう言ってラウは二枚のカードを取り出し、それをロウに見せた。

「……生、と死、か?」

「そうだ。今からお前は、この二枚のカードから一枚を引く。そしてその引いたカードが、お前の運命となるのだ」

「……分かった」

ラウは二枚のカードを後ろ手にシャッフルし、ロウに見えないようカードの表をこちら側にして差し出した。

「さあロウ、判決が下る時だ」

「こ……これで、俺の運命が決まるのか……」

「……ねえバルダ? この裁判、前回のようにイカサマされてないかな?」

「分からんな。ここからじゃあカードの絵柄が見えん……」

「——安心して、カードには何の細工も無いわ」

「ジャスミン! どうしてそんなことが言えるんだ?」

「ちょっと見たのよ、カード絵柄を。そしたらちゃんと生と死のカードがあったわ」

「なるほど、今回の主席は邪心を持たぬ本当の義者らしいな」

「それで、どっちなんだい、生のカードは?」

「主席から見て左よ」

「左か。……ロウ、頼む、左を取ってくれ……」

リーフは手を組み、ロウの生を望んだ。それと同時に、バルダ、ジャスミン、そしてフィリとクリーもそれを願った。

 

辺りには緊張が立ち込めていた。風による葉の擦れ合う音、そういった自然の音だけが、この一帯の空間の音源だった。

「お、俺の……俺の運命が、このカード一枚で……」

チュルナイの人々同様、ネズヌク達、そして主席も、一切の無言だった。

ロウの手が動いた——行く先は左、左のカードに彼は手をかけた。

(行け、行くんだ!)

リーフは心の中で切望した。

「い、いや……やっぱり、こっちか……?」

既にロウの手には、尋常で無い汗が噴き出していた。

その手は、判断の迷いと精神の圧力によって、半ば息絶える目前の昆虫の足の如く、最後の気力を振り絞って動かしているように見えた。

そしてその手は、絶え絶えながらも、左から右へと移動した。

リーフ達は最悪の結果を予想した——が、すぐにその消極的な思考をかなぐり捨て、このカードだけは絶対取るなと熱望した。

彼らの手にも、ロウ同様尋常で無い汗が滲んでいた。

「お、俺、俺は……」

ロウの手は震えていた。やはり覚悟はしていても、いざ目の前に”死”を翳されると、その恐怖に戦いてしまうのだ。

彼の手はもはや限界で、これ以上動かないように思えたが、それをリーフ達は許さなかった。だが、彼らにはどうすることも出来ない。

「……俺の、俺のカードはこ——」

「クシュン!」

辺りにいた人達は全員、その音を発した主の方を見つめた。もちろんリーフ達もその内に入っていて、彼らは音の出場所を見やった。

するとそこにいたのは、なんと前にリーフ達を助けたティラではないか。そのティラは、皆から衆目を浴びて顔を赤らめていた。

「す……すいません……」

彼女は静かに謝った。辺りは未だ、しんと静まり返っている。

「この神聖な儀式の最中に、クシャミ等の雑音も金輪際禁止されている」

「……はい……」

「……では儀式を続けよう。さあ、ロウ、カードを抜き取るんだ」

「——こ、このカードはやはり……いや、しかし……」

ロウは、ティラのおかげで辛くも危機を脱したものの、彼の手は未だその場を動こうとはしなかった。

(左……左だ……!)

「こ、これから……いや……や、やっぱり」

ロウの手が動いた。なんとロウの手は、生のカードが位置する左のカードへと移動したのだ!

リーフ達、そしてティラも、このカードを引けと強く祈った。

「……やはり、奥底に潜む本当の”自分”を信じて、一番初めに選んだものにしよう……」

そう言ってロウは、左のカードに手を置いた。だが手は、運命の決断という重みに意識を乱されて逡巡していた。

緊迫の状況で、皆はそのカードを手に取れと強く願った。

 

「こ……これだぁー!」

 

勢いよくロウはカードを取り上げた。

そしてそれを、彼は恐る恐る回し、絵柄を確認した。

 

 

 

そこに写されていた絵柄——生のカードだ!

 

 

 

「……や……やったぁー!」

 

ロウは感極まり、涙し、詠嘆の咆哮を上げた。

「……チュルナイの法により、ロウの死刑は大赦した。私はカードと法に基づき……ロウを終身刑の身とする!」

その瞬間、ロウの歓喜溢れる表情は、一変して驚きの表情へと変わった。

「そんな——酷過ぎるわ!」ジャスミンが反対した。

「これはチュルナイの法に基づいたものだ。死に値する罪人が、のこのこと普通の生活に戻れるとでも思うのか?」

「そ、それは……」

「……だが、俺は生きれるのだろ?」

「あぁ。牢屋で一生な」

「……俺は死を覚悟していたんだ。生かしてもらえるなら、それでいい」

「ロウ……」

「……俺を牢屋に連れていくんだろう? なら、早くしないと日が暮れるかも知れないぞ?」

「……そうだな。では早速お前を連れていく……それと、私は鬼じゃない。お前のために、チュルナイ一大きな牢屋を用意してやろう」

「ありがとう、そうしてくれると助かる」

「よし——では皆の者、今からロウをチュルナイの牢屋へと運ぶ! 今すぐ準備をしろ!」

チュルナイの人々とネズヌク達は、急いでロウの体に縄を括り付け、ロウを運ぶ準備をした。

その間、リーフ達はロウに話しかけた。

「ごめんなさい、ロウ。あなたを助けたと思ったら、案の定私達同様牢屋に入れられることになって……」ジャスミンが心から謝罪した。

「もし、もっと確りと作戦を立てていたなら、きっとこんなことにはならなかったはずだ……」リーフは、自分の作戦ミスを嘆いた。

「いや、いいのだよ、リーフ、ジャスミン。君達の作戦は失敗してなんかは無い、むしろ大成功だ」

「そうだ。俺が言うのも何だが、もし彼を外に出さなかったら、彼は自身の体に窒息死させられていたんだからな」バルダが励ました。

「そうだ。君達は俺の命の恩人だ。心から、感謝の意を表明したい——本当に、ありがとう」

「いや、こちらこそありがとう、ロウ」リーフが言った。

「……さてと、とりあえず問題は解決した。これを期に、そろそろ俺らは旅を再開する頃合いじゃないかな?」

「……そうね。私達、ちょっと道草を食い過ぎたのかも知れないわね」

「そうだな。僕達は七つの宝石を集めなくちゃいけない、そして今はまだ半分も埋まって無いからね」

「色々とお世話になった。俺は君達のことを、一生忘れない」

「私もよ、ロウ。あなたのことは、忘れようにも忘れられないわ。ね、みんな?」

「だな。失礼ながら、その体型は聊か衝撃が大きいからな、記憶から消えることは無いだろう」バルダが冗談交えに笑いながら言った。

「はは、確かにそうだな。ここまで太った竜は恐らく、俺が最初で最後だろうな」

「かも知れないな。……それじゃあ、僕達はそろそろ行くとしよう」

「そうか……それじゃ、道中には気を付けてな」

「ありがとう、ロウ。それじゃ」

リーフ達は、未だ運ばれる準備が整っていないロウを後にし、次なる目的地へと向かって行った。

ロウは、リーフ達の姿が見えなくなると同時に、主席にこう尋ねた。

「なあ、一つ質問してもいいか?」

「……なんだね?」

「牢屋にいても、俺はいつも通りの量の料理を食えるのか?」

「……普通なら、牢屋の奴らにそういうことはしない——が、お前はチュルナイにおける不合格料理の掃除機といったところの存在だ」

「……つまり、俺は不合格料理を”クリーン”するのが仕事だというのだな?」

「要はそういうことだ」

 

 

 

チュルナイにおける最大級の牢屋。

そこは牢屋というよりは、むしろただ広いだけのドーム部屋で、実はここは過去に死人が捨てられていた場所なのだ。

だが長い年月が経つに連れてこの場所は使われなくなり、また捨てられた死人の腐肉は、そこに住むネズミ達が全て食い尽くした。

つまりは、ここは昔とは違って本当にただ広いだけの部屋という訳だ。

「おぃ、ロウ。食事を持って来たぞ!」

鉄格子の扉を開け、何人かのネズヌク達が大量の食べ物を部屋に運び入れた。

何度かその作業を繰り返した結果、部屋には一般人が一生かけても食べ切れないほどの食べ物が無造作に置かれた。

その時、ずずず、ずずず、と、まるで巨大な何かが地を滑るような音が部屋に谺した。

「よし、撤収だ!」

ネズヌク達は、鉄格子の扉を後ろ手に閉めて部屋を後にした。

するとそこへ、奥の暗闇から一匹の巨大な竜——先ほどのネズヌク達のおよそ二、三千人分相当の、ぶっくりと肥えた竜が現れた。

既に羽は退化どころか、完全に背肉に埋もれてしまっている竜、どうやら名は”ロウ”というらしい。

そんなロウは、食事を取る前にんなことを呟いていた。

「昔と違って、今は言葉使い荒く接せられる……だけどここは、昔とは違って広いから俺が窒息するなんてことは無い。

昔の洞窟暮らしの時の苦労とは裏腹に、ここでの暮らしは俺にとって最高のものだ。

もしこの部屋を埋め尽くすほど太ったなら、俺はまた窒息の恐怖に襲われるかも知れない。

だが一々そんなこと気にしてはいられないな。とりあえず今のところ、こんな体でも縦横無尽に動け回れる。

ここ一年の間は、とりあえず安泰と考えていいだろう——それにしても、今回は料理じゃないのか……

まあ俺の食事ペースに料理が追いつかなかったんじゃあしょうがない……だがこの量——全て俺の腹に収めてやる!」

昔のことなどを思い出しながら、ロウは色々と考えようとしたが、結局最後は食欲が勝り、彼の意思を又しても曲げてしまった。

最近ロウは食べてばかりだった。だから彼は、たまには何かを考え事をしようと思い色々と物事を考えるのだが、

それでもやはり食欲には勝てず、結局いつも中途半端に終わる始末で、やがて彼の脳からは、不必要性からか”記憶”が退化していった。

そのうち彼は、”何かを考えよう”という考えをも退化させてしまうかも知れない……

とにかく今の彼は、食を目の前にして、他の意識を働かせることは不可能なのだ。

 

 

 

 

 

突如、牢屋内に一つの光源が出現した。

一体これは何なのか、何のためにあるのかは分からない。

だが一つ言えること——それは、この光が牢屋内にいるロウの姿を、洗い浚い映し出すということだ。

 

 

 

食に貪欲と成り果てたばかりの彼の姿。やがて成ろう最終形体は如何なものか?

まだまだ彼の欲の肥やしは始まったばかりだ。故に、この姿は単なる序章に過ぎない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          THE END...

 

 

 

 

 

 

おまけ(旧絵)

 


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